ポルシェ911シリーズにあって「タルガ」とはどういう存在なのか。アメリカ市場の要求に応えて安全性の高いオープントップ風のモデルを開発したのが始まりと言われるが、同じオープンモデルのカブリオレとはまた異なる独自性が支持を集めている。Motor Magazine誌ではポルシェ特集の中で、その魅力について考察している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年4月号より)
本格的スポーツカーでありながら肩の力の抜けた感じがある
ポルシェ911タルガ4/タルガ4Sは、パノラミックなガラスのトップとリアハッチが開放感に溢れていてとても印象的。でもそれ以上に、ひときわ目立つルーフラインをなぞるアルミニウムのトリムが、「他の911とは違う」という独自性、特異性を強くアピールしているように感じられる。
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取材車のタルガ4Sに乗った瞬間、「なんて爽やかなポルシェでしょ!」と感動した。ひと言で例えるなら「カレラクーペほど体育会系のストイックさもなく、カブリオレほど開き直ってもいない」。ガラス面積が大きいから、トップシェードを開けると室内がパッと明るくなり、まるでサンルームにいるかのよう。クーペの快適さで、カブリオレ並みの開放感が得られる。本格的スポーツカーでありながら、フッと肩の力の抜けた感じがある。そのバランス感覚が抜群に素晴らしい。
このタルガ4Sに限らず、997シリーズ全般に言えることだが、とにかく実用性が高い。低速域でもダンピングがしっかり効きながら、突き上げのない乗り心地。高速では静かで、フラットに駆け抜ける快適な感覚。同乗者と、普通に会話しながら気楽にドライブできるあたりは、まったくもってサルーンカーのようで、我慢を強いられることがまったくない。この快適性の高さが、タルガ4Sの「爽快な」キャラクターとマッチして、これほどまでに存在感を際だたせているのだと思う。
スポーツカーのステアリングを握っていると、どうにも急き立てられるような、アグレッシブな気分にさせられる。ついついアクセルを開けがちになるのだけれども、タルガ4Sはそこまで人を急かさない。355psものパワーがありながら、滑らかでゆとりあるトルクをじっくりと味わいたくなる。追い越し加速は、アクセルひと踏みでシュンッと必要なスピードまで引き上げてくれる。このレスポンスを備えているからこその、余裕なのだろう。
高速道路を降り、ワインディングに入る。ここでも、タルガ4S独特の走り味を堪能することができた。コーナーでステアリングを切り込んだ時の手応え、サスペンションがグッと踏ん張っている感覚、そして地面を蹴飛ばしながら進んでいく感触のすべてが、心地良い「ぬめぬめっ」としたものなのだ。しっとりというよりは、もう少し粘り気のある感触。でも、よれているようなヤワさはない。そのマイルドな感触がまた何とも爽やかで心地良い。
911カレラクーペは、シャキ~ンとクールで、一切の邪念を捨てたかのような、潔くストイックな走りを見せる。RRレイアウトに水平対向エンジン搭載という911カレラの基本を突き詰めたような走行性能。対するタルガ4Sは、明らかにクーペとは走り味が異なる。だがそれはあくまでも「味」の違い、キャラクターの違いなのだ。
RRに対して4WDになった時点で、すでに重量増となっている。しかもトップのガラス面積が大きいから、さらなる重量増は避けられない。とどめに、クルマのてっぺんに大きなガラスを載せているのだから、重心だって上がっている。理詰めで考えれば、911カレラクーペとの違いはいろいろある。でも運転していると、こんな事を考えさせない。乗っていてネガティブな印象はまったく受けないし、エクスキューズすらも感じられないのだ。
タルガ4/タルガ4Sともに、カレラ4/カレラ4Sより車重は50kg重いが、そんなことはどうでもよく感じられる。そこには独特な世界観があり、クルマとして走りのバランスも取れているし、クーペと比べること自体、意味がないと思えるからだ。
もちろん、スポーツカーとしてのハンドリングが犠牲にされているとも思わない。クーペのソリッドさに対して、マイルドさが品良くまとめられているのが、911タルガ4Sなのだ。
この、スポーツカーのハンドリングにも色々ある。たとえば、今回の取材にはケイマンも同行していたのだけれども、ケイマンはとにかく軽い! タルガも軽快だと思ったけど、ケイマンに乗って、あえて軽快という言葉を使うのをやめたほど。ミッドシップで旋回性が良いから、コーナーでクリンクリンと良く曲がること! 見事なまでのコーナリングマシンである。
加速でも、ケイマンはシュンシュンと軽やかに回るエンジンと、その勢いでボディが引っ張られていく感覚が魅力だが、タルガは湧き上がるようなトルクでグワーッと加速していく、その感覚さえも味わってくれといわんばかりに大きな違いがある。何しろケイマンは、2.7Lのくせに、3.8Lのタルガと伴走していて、置いて行かれるどころか、ワインディングではややもするとケイマンの方が速かったりするくらいだ。これこそ、絶対的な重量の軽さの成せる技。そしてミッドシップならではの旋回性の高さゆえだろう。これはこれで十分に面白いけれど、異質なケイマンのステアリングを握ることで、より911タルガの「大人のスポーツカー」としての魅力が改めて浮き彫りにされたと感じた。
ケイマンも魅力的なモデルではある。だが、やはり911の各モデルの魅力を知ってしまうと、なかなかそこからは離れられないのではないだろうか。ここには、速さだけでは括れない「スポーツカーの魅力」が溢れているからだ。シンプルに、ストイックに、高性能に作られている911だからこそ、その派生モデルにもそれぞれの世界観が生まれるのだろう。
輝きある派生モデルの特徴、洗練された個性が持ち味
たとえば、タルガ4/タルガ4Sとある意味で対極にあるのが「911ターボ」。スポーツカーの必須条件ともいえる「パワー」と「スピード」を追求したモデルだ。ただし、コンペティションモデルではなく、あくまで一般道で走ることを前提としているから、快適性も損なわれていない。同じ4WDモデルでも、タルガ4が「安定性」として4WDを享受しているのに対して、911ターボでは、まさに路面を蹴っ飛ばすようなもの凄いトラクョン性能のために4WDが活躍しているという実感がある。その、瞬間移動のような速さは、日本の走行ステージでは、もはやもて余してしまう。でも、そういう秘めたるポテンシャルを感じつつ、チャンスがあるたびに刹那的加速を楽しむことで、その有り難みを実感できるのかもしれない。
そして「パワー」「スピード」とさらなる対極にあるのが「911カレラカブリオレ」である。運動性能、こと動力性能に欲張ったのがターボなら、クルマとしての楽しみ方を多角的に持ちあわせているのが「カブリオレ」だ。
オープンモデルの場合、広い開口面積を持つためにどうしてもボディ剛性は低くなる。が、やはりそれを感じさせないのがポルシェの凄いところ。
タルガ4とカブリオレの違いは、インドアかアウトドアか、といったところ。プールしかり、テニスしかり。インドアは天候に左右されず、快適に楽しむことができる。が、臨場感と開放感ではアウトドアが勝る。スピードに依存しないオープンエアを楽しむならば、スポーツカーのポルシェでなくても、と思うかもしれない。しかし、オープン時でさえ、200km/hオーバーの安心感と快適性を提供してくれるのがポルシェなのだ。何しろ、このスピード域で、しかもオープンで、助手席で寝ていられるほど快適なのだから(私が以前にドイツで実証済み!)。
残念ながらこれは日本では体験できないが、それもまたゆとりとして、あるいは日本のスピード域ではボディ剛性の差など感じられないくらい高い運動性能を楽しむことができる。
かつてポルシェは、もっとストイックだったような気がする。それは「キャラクター」として、というのもあるのだろう。しかしそれだけでなく、純粋に運動性能を追求すると、快適性との両立は難しかったという当時の現実もある。ところが997シリーズの911モデルは、乗り心地、静粛性、そしてハンドリングのすべてが高い次元でバランスされている。それによって、派生モデルのキャラクターもより明確に、個性的に洗練されたのだ。(文:佐藤久実/Motor Magazine 2007年4月号より)
ポルシェ 911タルガ4S 主要諸元
●全長×全幅×全高:4425×1850×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1610kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3824cc
●最高出力:355ps/6600rpm
●最大トルク:400Nm/4600rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:4WD
●最高速:280km/h
●0-100km/h加速:5.4秒
●車両価格:1589万円(2007年)
[ アルバム : ポルシェ 911タルガ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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