フルモデルチェンジしたレクサス「RX」の高性能グレードに、自動車研究家の山本シンヤがアメリカで試乗した。
NXからのフィードバック
1998年に“高級セダンの快適性を兼ね備えたSUV”として開発され、登場したのがRXだ。初代および2代目こそ、日本でのレクサス開業前だったためトヨタ「ハリアー」として発売されたが、2009年に登場した3代目からはレクサスRXとしてわが国でも発売されている。グローバルにおけるレクサス最量販モデルとしてビジネスをけん引する重要な1台だ。
5代目となる新型は、単なる世代交代だけでなく、デザインや走りといったあらゆる部分を。“次世代レクサス”として色濃く体現したモデルである。日本導入時期は現時点で未定であるものの、ひと足さきに、アメリカ・サンタバーバラで行なわれた国際試乗会で体感してきた。
初代RXのコンセプトは歴代モデルに受け継がれてきたが、はたして新型はいかに? というのも、おなじメカニズムを採用した新型「NX」のスポーティな走りに、筆者は「新型RXもスポーティに振った走りだったら嫌だなあ……」と、心配だった。しかし、走り始めて数10mで「おっ、これは紛れもなくRXだ!」と、感じた。なぜか?
ステアリング切り出しの滑らかさや正確性の高さ、意のままのハンドリング、バネ上振動の収まりが良いシットリとしたボディコントロール、凹凸を優しく吸収しつつもフワフワさせない乗り心地……と、いった基本性能は新型NXよりも上だ。
おそらくリアまわりの骨格の刷新や、リアマルチリンクサスを採用した新世代プラットフォームなどの採用と、NXからのフィードバックが効いているのだろう。
2度おいしい
ただし、RX500h Fスポーツパフォーマンスだけはほかのモデルとは別格だった。Fスポーツパフォーマンスは”Fスポーツを超えるFスポーツ“を目標に設定された新グレードで、専用の内外装&フットワークに加えて、専用パワートレインを搭載するのが特徴である。
そのパワートレインはフロントに2.4リッター直列4気筒ガソリンターボ+モーターパラレルハイブリッド+クラッチ機構付き6速AT、リアに高出力モーターを搭載。この前後のパワートレインを協調させて4輪の駆動力を緻密に制御するシステムが「DIRECT4」だ。これはBEV(バッテリー式電気自動車)の「RZ」で初採用された技術になるが、新型RXのそれはハイブリッド用である。
フットワークも専用のリニアソレノイドAVS、後輪操舵角が拡大(最大4度)されたDRS(ダイレクト・リア・ステア)、21インチ専用タイヤ(ミシュラン・パイロットスポーツ4)、6ピストン対向キャリパーなども奢られる。
実際に乗るとパワートレインはモーターアシストと言うよりも電動の過給機のようなイメージで、THSII(シリーズパラレル式)にはない“小気味よさ”、“伸びの良さ”、そして“ダイレクト感”を持った「気持ちいいハイブリッド」である。システム出力は367hpで2トンオーバーの重量級ボディを「速い!」と、言わせるだけのパフォーマンスは備わっている。
クラッチ機構付6速ATはトルコンレスとは思えない滑らかさと、トルコンレスらしい小気味良さを両立。若干、停止直前の回生ブレーキからメカブレーキへの受け渡し時こそ僅かにギクシャク感があるのが気になったものの、市販時までに改善されるはずだ。
運転するととにかくクルマが小さく・軽く感じる。その走りはSUVとは思えないレベルで、下手なスポーツカー顔負けの意のままのコーナリングが可能である。これは優れた基本素性にくわえて、クルマの接地荷重に応じて4輪の駆動力を緻密の制御するDIRECT4による旋回性と、安定性を高いレベルで両立させる後輪操舵の合わせ技によるものだ。しかし、制御モノにありがちな“機械に曲げられている感覚”はなく、まるで「運転が上手くなった?」と錯覚してしまうほど自然なコーナリングだ。
このように記すと、本格的なスポーツ系グレードのように思う人がいるかもしれない。しかし普通に走らせている分には、上記のアイテムは完全に黒子へ徹し、RX本来の上質な走りをつくる。乗り心地はほかのグレードと比べるとわずかに硬めであるが、リニアソレノイドAVSの絶妙な塩梅のセットアップにより、ちょっと引き締まった程度。快適性に不満はなかった。
RX500h Fスポーツパフォーマンスは普段はプレミアムクロスオーバーSUVに恥じない乗り味であるものの、ひとたびアクセルを踏むと、心躍るような加速を楽しめるなどひと粒で2度おいしいグレードと言える。
「RXを壊せ」
RXには他に2.4リッター直列4気筒ガソリンターボ(RX350)、2.5リッター直列4気筒+モーターのハイブリッド(RX350h)とプラグイン・ハイブリッド(RX450h+)も用意する。
この展開はNXとおなじであるものの、RXへの搭載にあたり静粛性が大きく引き上げられているのが印象的だった。絶対的なパフォーマンスはNXより重量があり、わずかに劣るものの、アクセルを踏んだ時の穏やかな特性は逆にRXらしいジェントルな味付け。動力性能に不満は感じなかった。
エクステリアは一見キープコンセプトに感じるものの、新旧を見比べると別物。ボディに溶け込んだスピンドルグリル、ホイールベース延長や前後トレッド拡幅などによるスタンスの良さなどによって“伸びやかさ”や“柔らかさ”を感じるデザインだ。
ちなみにボディ後半のフローティングクオーターピラーは先代から受け継がれた部分だが、新型では立体的なデザインになった。
インテリアは物理的なスイッチを減らし、タッチパネルとステアリングスイッチに多くを集約させた操作系を採用(レクサスでは「TAZUNAコクピット」と呼ぶ)。メーターフードからドアトリムまで連続的につながる造形を採用し、水平方向の伸びやかさと奥行きを感じるデザインになっている。
NXで採用されたダイアル式ドライブモードは廃止されタッチパネルでの操作に変更された。すでにSNS上では賛否が出ているが、ステアリングスイッチのカスタム機能にドライブモードが埋め込み可能なのは、NXからの進化だ。
ちなみに大型タッチディスプレイの操作性は悪くないが、直感操作がしにくい部分やチープアイコン/アニメーションは要改善。この辺りは開発陣もシッカリと認識しているので、OTAによるアップデートに期待したい所だ。
新型RXの開発時、ブランドホルダーでもある豊田章男社長は「RXを壊せ」と語ったそうだ。それを開発陣は「コアモデルだからこそ“挑戦”が必要」と理解してクルマづくりを行なったというが、結果“RXらしさ”はさらに色濃くなったように感じた。全方位でNXの兄貴分らしい“大人の余裕”を備えた1台に仕上がったと思う。
文・山本シンヤ
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