日本車は規格が決まった軽自動車や厳しく制約されているコンパクトカーが多くラインナップされている。
昭和までは2Lを超える排気量には高額な自動車税が課せられるといった枠が多かったこともあり、「限られた小さな枠に盛り込む」というダウンサイジング技術を昔から得意としていた。
【金メダル級モデルが大連発】2020年の新車が日本を席捲する!!
当記事ではそんな小さなクルマに搭載された「当たり前に使っているけど、実はすごい技術」をピックアップする。
文:永田恵一/写真:HONDA、DAIHATSU、SUZUKI、平野学、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】新型タントは世界初、軽自動車初の宝庫
新型ダイハツタントのD-CVT
新型タントに搭載された新開発CVTのD-CVTは、世界で初めてスプリットギアを採用したCVTだ。
一般的なCVTはベルトを使い、プーリーの径を変えることで変速を行う。それに対し、D-CVTはベルトだけでなくギアを組み合わせて駆動する。
新型タントはDNGAを初採用すると同時に 世界初の画期的CVTを登場させた。クラスを超えた走りに新開発のD-CVTの貢献は大きい
発進時は従来どおりベルト駆動ながら、一定速度に達したらギアを併用することにより高効率に動力を伝達することができる。クラスを超えたスムーズな加速を実現しているわけだ。
さらに、D-CVTは、これまでのCVTの変速比の幅はATで換算すると6速が限界と言われていたのに対し、8ATに匹敵するワイドな変速比を実現しているのも凄いところだ。これで高速走行時などの静粛性も向上している。
高効率で燃費はよくなり、スムーズな加速、静粛性の向上などによる走りの質感の大幅アップに大きく貢献している画期的なCVTとなのだ。
通常のCVTがベルトのみなのに対し、D-CVTは伝達効率の高いギアを併用するのが特徴で、燃費、静粛性、加速性能にとも大きく進化
ダイハツタントのピラーレスドア
ダイハツは助手席側のセンターピラーレスドア、『ミラクルオープンドア』として2代目タントで初採用。すでにこれはタントのアイコンとして浸透
2003年登場の初代タントは現在の軽自動車の売れ筋となっている、それまでのワゴンRやムーブの全高を高めスライドドアと使い勝手に優れる軽スーパーハイトワゴンというジャンルを開拓したモデルである。
2007年登場の2代目タントではさらなら乗降性やチャイルドシートの付けやすさ、大きな荷物の出し入れのしやすさに代表される使い勝手を向上させるべく、左側のセンターピラーレスドア(前ヒンジドア、後ろスライドドア)を採用。
助手席側のセンターピラーがないため乗降性に優れている。衝突安全性能はドアにピラーの役割をする構造物を盛り込んだピラーインドアを採用して克服
以降現行モデルも含めセンターピラーレスドアはタントのアイコンとなっているのだが、実用化には左右同等のボディ剛性、側面衝突の安全性確保、シートベルトを埋め込んだ助手席シートの開発など、課題も多かったが克服して商品化。
そのセンターピラーレスドアはタントだけの唯一無二の武器になっているだけに、実用化した成果は大きかった。
ホンダのセンタータンクレイアウト
2019年中にフルモデルチェンジされるホンダのコンパクトカーであるフィットの初代モデル(2001年登場)の開発にあたり、大きな狙いとなったのが「フィット1台で万能に使える広いキャビン、ラゲッジスペースを持つコンパクトカーを造る」ということであった。
2001年にロゴの後継モデルとしてデビューした初代フィットだが、センタータンクレイアウトを採用していなければロゴの二の舞になった可能性もある
実現のため全高を高くする、エンジンルームを小さくするといったことも行われたのだが、決め手に欠けたのも事実だった。
そんな時にできた新技術が「エンジンを積むクルマには絶対必要だけど、大きなスペースを取る」燃料タンクを、リアシートがあるクルマならたいていリアシート下に置く燃料タンクを前席下に置くセンタータンクレイアウトである。
センタータンクレイアウトの採用により室内が広くなったのはもちろん、リアシート下が空いたことでリアシートを倒せばフラットで高さのある広いラゲッジスペースができたのに加え、リアシート座面の跳ね上げも可能になり観葉植物のような高さのある荷物の運搬にも対応。
リアシートの下側にガソリンタンクを配置するのが常套手段ながら、ホンダは助手席下に配置することを決断。広い室内と重量バランスの最適化を両立
結果初代フィットは狙いどおり格上のミドルクラスを軽く凌駕する広いコンパクトカーとなり、この点は歴代フィットのよきDNAとして受け継がれている。
登場自体は古いが、進化を続けていてN-BOX、N-WGNといった軽自動車に幅広く採用され、広さはホンダ車では当たり前のこととなった。
軽自動車でナンバーワン人気のN-BOXにも新世代のセンタータンクレイアウトが採用されている。広さはもちろん、バランスのいい走りにも大きく貢献している
スズキのエコクール
アイドリングストップは今では付いていないクルマのほうが珍しいくらい当たり前の装備になっている。
しかし普通のエンジン車にアイドリングストップを組み合わせた場合、夏場はアイドリングストップ後エアコンのコンプレッサーが動かないため15秒もすると生ぬるい風となり、エアコンを働かせるためエンジンが始動し、アイドリングストップによる燃費向上効果は薄れてしまう。
2012年にデビューした5代目ワゴンRは意欲作だった。エネチャージ、エコクールという新兵器を一気にで採用して現在の礎を築いたモデル
その点に着目したスズキはエアコンの構成部品のひとつであるエバポレーターに蓄冷剤を入れ、エアコン使用中のアイドリングストップ時間の延長に寄与するエコクールを開発。
エコクールは低コストながらアイドリングストップ時間の延長による燃費向上に小さくない効果を持ち、エアコン使用中の燃費低下防止に貢献。
社内の文房具などでも無駄を徹底的に嫌うスズキらしい装備で、スズキだけでなくトヨタ車でも同様の装備を持つクルマがあるくらいで、地味ながら燃費向上に貢献し、普及もしている装備だ。
アイドリングストップは燃費の向上が見込まれるが、夏場にエアコンが効かなくなるのが最大のネック。それを克服した画期的発想を讃えたい
ダイハツコペンの電動メタルトップ
オープンカーの電動メタルトップはクーペに近い快適性と簡単にオープンにできるため積極的にオープン走行をしたくなるという大きなメリットを与えてくれる機構である。
電動メタルトップにはコストや重量増、ラゲッジスペースが狭くなるというデメリットもあり、基本的には高級オープンカー向けの機構なのだが、それを一番不利な軽自動車に押し込んだのが初代コペンである。
電動メタルトップ=高級車、高額スポーツカーの世界的な固定観念を打破したのがコペンで、世界で最も安い電動メタルトップ搭載車に君臨
コペンの電動メタルトップは同時期に登場した4代目ソアラの電動メタルトップと遜色ないスムースな動きをするだけでなく、オープンにしても軽自動車ながら一応のラゲッジスペースを確保している。
驚きはその価格で電動メタルトップを採用しながら約150万円と激安であった。世界を驚かせたのは言うまでもない。
初代コペンはどちらかといえばプロムナードカー(お散歩クルマ)だったが、それはそれでユーモラスなスタイルに似合ったキャラクターであり、軽自動車の維持費の安さも含めマツダロードスターとは違った方向でオープンカーに対する敷居を低くした功績は大きい。
写真左はオープン時でしっかりとトランクスペースを確保。写真右はルーフ収納時で、高さは限定されるがルーフ下には収納スペースを確保しているのはすばらしい
軽自動車のターボ技術
軽自動車のパワーウォーズの申し子、初代アルトワークスの頃は突き抜けるようなパワー感による気持ちよさとは裏腹に扱いにくいエンジンだった
現在世界的には排気量の縮小、エンジンの小型化で燃費を向上させるダウンサイジングターボが普及し、日本車のダウンサイジングターボでそれほどいいものがないのは残念だが、その中で高い技術力を感じるのが最近の軽自動車のターボエンジンだ。
かつての軽自動車のターボはアクセル操作に対する出力特性がピーキーで、パワーが出ればそれでいいというシロモノで燃費もクルマによっては高速道路を飛ばすと10km/L程度というクルマも珍しくなかった。
しかし現在の軽自動車のターボは排気量が1000cc程度に増えたようにトルクフルで扱いやすく、燃費もNAとそれほど変わらないことも多いうえに、価格も10万円高程度ですむことも増えており、軽自動車の進歩を後押ししている。
これは軽自動車がターボの恩恵を強く受けているのも事実だが、軽自動車のターボ技術が急速に進んでいる賜物でもある。
最新の軽自動車のターボエンジンのすばらしさには舌を巻く。
NAに匹敵するほどのスムーズさ、それでいてパワー、トルクはしっかり盛り上がる現代の軽自動車のターボエンジン。高速道路での燃費はNAを凌駕
★ ★ ★
日本車が特に軽自動車やコンパクトカー向けのダウンサイジング技術を得意としているのはやはり規格や枠といった縛り、必要性によるものが大きく、「目標が決まるとすごい力を発揮する」というある種の日本人の国民性の象徴ともいえる。
外国メーカーのエンジニアが日本に対して脅威に感じているのは、この小さなクルマたちだといわれているのも当然の話だと思う。
全幅が狭い軽自動車はサイドからの衝突安全性能の確保が厳しいなか、サイドエアバッグなどの積極採用により衝突安全性能は飛躍的に進化しているのはすばらしい
小さなボディというのは最大の制約になり、軽自動車ではそれが顕著なわけだが、安全性を高めるのに大きく貢献している安全ボディ構造なども見逃せないポイントだ。
ここ数年日本車のダウンサイジング技術はあまり浮かばないが、再び外国人がアッと驚くようなダウンサイジング技術を見てみたいものである。
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