現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 時が止まった町「ヴォルテッラ」で、カタツムリと格闘す──イタリア・トスカーナ州をドライブする。【特集|クルマで旅しよう!】

ここから本文です

時が止まった町「ヴォルテッラ」で、カタツムリと格闘す──イタリア・トスカーナ州をドライブする。【特集|クルマで旅しよう!】

掲載 更新
時が止まった町「ヴォルテッラ」で、カタツムリと格闘す──イタリア・トスカーナ州をドライブする。【特集|クルマで旅しよう!】

古代ローマ以前から人々が

ヴォルテッラ(Volterra)は、イタリア中部トスカーナ州ピサ県の町である。2009年には、吸血鬼と少女を描いたストーリー映画『ニュームーン トワイライト・サーガ』の舞台として設定されたことでも人気となった。遡れば、イタリア映画界の巨匠ルキノ・ヴィスコンティによる1965年のサスペンス『熊座の淡き星影』も、ヴォルテッラで物語が展開された。
州都フィレンツェからは、いくつかの行き方がある。おすすめは一旦シエナ方面に向かって南下し、コッレ・ヴァル・デルサの町から国道SS68を辿るルートである。なぜなら途中、あっという間に通り過ぎてしまう、まるで撮影用セットのような村をいくつも経由すること、直後にまるで地球の始まりのような壮大な丘陵を楽しめるからである。
ドライブ旅行を強く勧めるのは、事実上唯一の公共交通機関である路線バスが1日数本ときわめて少ないことだ。加えていえばバスの車上で、ひたすら連続するカーブと、あまり補修されていない舗装に身をまかせるのは、人によってあまり快適ではない。しかしそうしたアクセス環境のおかげで、極度なオーバーツーリズムに陥っていないのもこれまた事実である。
SS68は、ほとんどが対面通行だ。飼料用の藁束を山積みしたトラクターや、自家製ワインの瓶を大量に積んだ三輪トラックが前方を阻んだら、風景を楽しみながら大人しくついていこう。

この冬食べたい! 高速道路SA・PAのご当地あったかグルメ8選。 ラーメン、うどん、丼など盛りだくさん。


幾重ものワインディングを辿ってゆくと、やがて標高531メートルのヴォルテッラが丘の彼方に見えてくる。


旧市街の石畳には、貝の化石を頻繁に発見できる。観光案内所のロベルタさんは、説明する。「はるか昔、わずか10キロメートル離れた地点まで、一帯は海だったのです」。採石すると、おのずと化石が含まれているのである。景色も壮大だが、歴史のスケールも大きい。


ヴォルテッラは、さらに3つの時代の面影を今日に伝えている。ひとつは郊外の墳墓で、紀元前10世紀頃(諸説あり)からローマに先立ち文明を築いたエトルリア人によるものである。
もうひとつは、現在の旧市街のすぐ外を見渡せばわかる。紀元前1世紀末期に富裕市民の寄進で建てられたローマ劇場だ。その脇には紀元3~4世紀に追加された浴場も。なんと、これらの遺跡は1950年代まで土に埋もれたままだったという。


そして旧市街には中世・ルネッサンスの館が軒を連ねる。メインストリートのウィンドーを飾る白い彫刻やオブジェは、かつてヴォルテッラに莫大な富をもたらしたアラバスター石によるものだ。内部を見学できる「パラッツォ・ヴィーティ(Palazzo Viti)」は、19世紀にアラバスターで財を成した一家の館である。


つのだせ、やりだせ

ヴォルテッラ名物のひとつに、カタツムリ料理がある。個人的な述懐をお許しいただければ、これには思い出がある。約30年近く前、まだイタリアに住み始めた頃のことだ。知人の紹介でヴォルテッラに住むお年寄りと知り合った。そのおじさんはすでに年金生活者だったが、現役時代は石工をしていた。まさに前述の石畳を切って街路に埋めたりしていたのである。
おじさんは「今度は昼を一緒に食べよう」と誘ってくれた。彼は夫人と住んでいたが、趣味で料理を得意としているらしい。ただし、朝早くに来いという。当日行ってみたら、おじさんは筆者にボウルを渡し、庭に出た。そしてカタツムリを探し始めた。筆者も彼にならって、見つけてはボウルに入れていった。それを長時間かけて煮て、当日のランチにした。当時筆者はまだイタリアで学生をしていたが、「こんなに不思議な体験ができる国なのだから、何か書けば日々のメシ代くらいにはなるのではないか」と、ぼんやりと物書きになることを考え始めたのだった。
おじさんは惜しくも数年前、天国の人となった。だから今回ヴォルテッラを訪ねるにあたり、あの懐かしい味が食べられる店がないかと考えた。 地元出身の知己を頼って尋ねたところ、1件のトラットリア、つまり大衆食堂を教えてくれた。念のため電話をすると、「なるべく早くに来たほうがいい」と勧める。あまり寒くなると、カタツムリがいなくなるからだという。そこで慌てて翌日行ってみることにした。
店はイタリアの大衆食堂の例にもれず、入口にバールが併設されていて、地元の人がバリスタと話に興じている。その声が天然BGMになっている。「カタツムリを食べに来た」と告げると奥へと案内された。外からは想像できないくらい中は広い。椅子に座って開いたメニューにカタツムリ料理は載っていない。なぜなら今や養殖物とはいえ、期間が特定できないからである。そればかりか、ウェイターの若者さえあることを知らず、彼に厨房に聞いてもらい、やっとオーダー完了となった。


食べるために出された唯一の“食器”は、洒落たエスカルゴフォークなどではない。普通の楊枝(ようじ)である。素朴このうえないが、やはり殻から具を掘り出しにくい。気がつけば童謡『でんでんむしむし・かたつむり』の歌詞「つのだせ やりだせ あたまだせ」を歌っていた。
具がもつ弾力と、濃厚な香草ソースの絶妙な調和。食べたあとは殻を口につけ、中に入っているソースをチュッと吸い込む楽しみもある。それをひたすら繰り返す。向かいの一人客も同様に掘ってはチュッを続けている。トスカーナ伝統の塩無しパンで皿に残ったソースをすくって食べ終わるまで、およそ1時間半を要した。


帰路、今度はヴォルテッラを背にしてSS68の下り坂を辿っていると、若者が運転するクルマが後方から迫ってくるのをミラー越しに確認できた。錆の浮いた初代フィアット・パンダだ。
だが、地元在住者で日頃から走り慣れているのだろう。明らかにコーナーひとつひとつを体得していて速い。普段なら「パンダごときに抜かれるか」と思う筆者だが、素直に追い越させた。なぜなら腹の中で、昼に食べたカタツムリが「おい、俺みたいにゆっくり行こうぜ」と呟いたからだった。


INFORMATION
おすすめルート: フィレンツェ・アメリゴ・ヴェスプッチ空港から高速道路A1号線Firenze Impruneta インターチェンジ下車。そこから自動車専用道路フィレンツェ-シエナ線でColle Val d’Elsa インターチェンジで降り、国道SS68で約1時間。
ヴォルテッラ-ヴァル・ディ・チェチナ-ヴァルデラ観光協会ウェブサイト
www.volterratur.it
トラットリア・ダ・ヴァド|Trattoria da Badò
住所:Borgo San Lazzero, 9 56048 Volterra (Pisa)
営業時間・定休日など詳細はTripadvisor参照

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

この冬食べたい! 高速道路SA・PAのご当地あったかグルメ8選。 ラーメン、うどん、丼など盛りだくさん。
この冬食べたい! 高速道路SA・PAのご当地あったかグルメ8選。 ラーメン、うどん、丼など盛りだくさん。
くるくら
「趣味ないんだよな~」な人は読んでみて! クルマがあるからできる「+αの趣味」9選
「趣味ないんだよな~」な人は読んでみて! クルマがあるからできる「+αの趣味」9選
WEB CARTOP
チョーヤのノンアル梅酒「酔わない!The CHOYA」はカクテルアレンジがおすすめ。銀座のバーで楽しむ休日。【ノンアルのおいしいカーライフ Vol. 04】
チョーヤのノンアル梅酒「酔わない!The CHOYA」はカクテルアレンジがおすすめ。銀座のバーで楽しむ休日。【ノンアルのおいしいカーライフ Vol. 04】
くるくら
日本とヨーロッパは1本の路線でつながっている? 東京にある国道の起点のひみつ。【川辺謙一の「道路の雑学」Vol.2】
日本とヨーロッパは1本の路線でつながっている? 東京にある国道の起点のひみつ。【川辺謙一の「道路の雑学」Vol.2】
くるくら
なぜマクラーレンはクルマ好きを魅了するのか? 新型プラグインハイブリッド「アルトゥーラ スパイダー」の絶妙な味わい。【試乗レビュー】
なぜマクラーレンはクルマ好きを魅了するのか? 新型プラグインハイブリッド「アルトゥーラ スパイダー」の絶妙な味わい。【試乗レビュー】
くるくら
懐かしのTV番組『走れ! ケー100』を完全再現! ワンオフ製作の6輪の青い「機関車」は公道走行可能…半年で作り上げました【マイクロカー図鑑】
懐かしのTV番組『走れ! ケー100』を完全再現! ワンオフ製作の6輪の青い「機関車」は公道走行可能…半年で作り上げました【マイクロカー図鑑】
Auto Messe Web
車中泊のプロ・森風美が行ってよかった! おすすめキャンプ場5選【西日本編】
車中泊のプロ・森風美が行ってよかった! おすすめキャンプ場5選【西日本編】
くるくら
総長のビュイックで練習し、運転免許を取得!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第30回
総長のビュイックで練習し、運転免許を取得!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第30回
くるくら
クルマ、何に乗ってるの? 僕たちの愛車紹介 #16|日産 ステージア
クルマ、何に乗ってるの? 僕たちの愛車紹介 #16|日産 ステージア
くるくら
ずらり並んだ「絶品干物」を自ら選んで定食化! お箸が止まらなくなる「ヒモノ食堂」は素通り厳禁【懐かしのドライブイン探訪その6】
ずらり並んだ「絶品干物」を自ら選んで定食化! お箸が止まらなくなる「ヒモノ食堂」は素通り厳禁【懐かしのドライブイン探訪その6】
WEB CARTOP
高速のSAにある「演歌のCD」どんな人が買ってる!? あえて今「CD/DVD」を置く理由とは
高速のSAにある「演歌のCD」どんな人が買ってる!? あえて今「CD/DVD」を置く理由とは
くるまのニュース
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
Auto Messe Web
米国にある「廃車の山」で見つけたお宝 40選 前編 ジャンクヤード探訪記
米国にある「廃車の山」で見つけたお宝 40選 前編 ジャンクヤード探訪記
AUTOCAR JAPAN
オーナーは桐島ローランドさん 葉山町にオープンした新スポット『Felicity Cafe』とは
オーナーは桐島ローランドさん 葉山町にオープンした新スポット『Felicity Cafe』とは
バイクのニュース
地中に埋まっていた「サイデスカー」をレストアして路上復帰! ホンダ「カレン」ベースの「原付カー」の燃費はリッター50km!!【マイクロカー図鑑】
地中に埋まっていた「サイデスカー」をレストアして路上復帰! ホンダ「カレン」ベースの「原付カー」の燃費はリッター50km!!【マイクロカー図鑑】
Auto Messe Web
370万って意外と安くね!? オークション登場のスワット車両がガチでスゴい
370万って意外と安くね!? オークション登場のスワット車両がガチでスゴい
ベストカーWeb
【比較試乗】街乗りからオフロード走行まで可能な本格オフローダーを比較検証。タフな相棒の戦闘力は?「ランドローバー・ディフェンダー vs トヨタ・ランドクルーザー vs メルセデス・ベンツ Gクラス vs ジープ・ラングラー」
【比較試乗】街乗りからオフロード走行まで可能な本格オフローダーを比較検証。タフな相棒の戦闘力は?「ランドローバー・ディフェンダー vs トヨタ・ランドクルーザー vs メルセデス・ベンツ Gクラス vs ジープ・ラングラー」
LE VOLANT CARSMEET WEB
昭和天皇の御料車に座った!「タイプ770」通称「グロッサー・メルセデス」には後席から運転手に走行指示をするリモコンがあった!?【クルマ昔噺】
昭和天皇の御料車に座った!「タイプ770」通称「グロッサー・メルセデス」には後席から運転手に走行指示をするリモコンがあった!?【クルマ昔噺】
Auto Messe Web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.0316.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

10.0362.0万円

中古車を検索
パンダの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

289.0316.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

10.0362.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村