かつては電気自動車が主流だった
20世紀初頭、1908年に米国のフォードからT型が発売されるまで、クルマは庶民が容易に手に入れられるものではなかった。一台一台ほぼ手作りで組み立てられるような製造方法だったから原価が高く、高価だった。それを変革したのがフォードの流れ作業による生産方法である。それでも、T型が販売台数を伸ばすのは数年後からで、価格が大幅に下がり、身近になるのは1920年前後になる。
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ガソリンエンジン自動車を多くの人が手に入れられるようになるのは、1886年のカール・ベンツによる発明から20~30年経ってからといえる。
それまでの間は、電気自動車がそれなりに人気を得ていた。
1912年に米国キャデラック車に電動スタータモーターが装備されるまで、ガソリンエンジンは人が手動でクランクをまわさなければ始動できなかった。それは誰にでもできることではない。ことに、女性には難しかった。したがって、キャデラックのスタータモーターも、当初は女性向けの装備と位置付けられていたほどだ。
それに比べ電気自動車は、スイッチを入れれば、あとはアクセル操作で容易に走らせられる。そこで、フォードT型を世に送り出したヘンリー・フォードの妻クララは、1915年製のデトロイト・エレクトリック社の電気自動車を愛用していたと伝えられる。時速40kmで、128kmの走行距離を実現していた。
のちにフォード博物館に保存されていたその電気自動車は、60年後に再び走らせようとした際、新しい電池への積み替えだけで動かすことができた。それほど保守点検に手間がいらない乗り物でもあったのだ。
20世紀初頭に電気自動車が人気を集めた様子は、白熱電球を発明したトーマス・エジソンも、自ら発明したニッケルアルカリ蓄電池を活用し、電気自動車を製作したことからも想像できる。鉛電池の約2倍となる約160kmの走行距離を実現できたという。そして、米国ニューヨークのタクシーで実用化された。
エジソンとフォードは、1914年に共同で電気自動車に関する実験を行ったともいわれる。
1895~1930年にかけて、米国には主要な電気自動車メーカーが33社にのぼった。その間、1912年には生産台数が年間3万4000台にもなった。
T型フォード登場でガソリン車の時代へ
電気自動車については、フォルクスワーゲンタイプ1を構想したドイツのフェルディナント・ポルシェ博士も、1900年に製作した最初のクルマは電気自動車であった。ただし、当時からバッテリー性能の低さが課題であり、走行距離を延ばすため、エンジンを発電機として使うハイブリッド車が彼の自作2台目となった。
性能面では、時速100kmに最初に到達したのも電気自動車である。ベルギー人のジェナッツィが製作したジャメ・コンタントが、1899年に時速106kmを記録した。
こうした電気自動車優勢の時代が終わったのには、ふたつの理由がある。ひとつは1900年に米国テキサス州で掘り当てられたスピンドルトップと呼ばれる巨大油田だ。もうひとつが、T型フォードの出現である。
エジソンが白熱電球を発明するまで、夜を照らす人々の明かりはローソクとランプだった。石油産業は、ランプ用の灯油が売り上げのほとんどを占めていた。ところが、エジソンの発明により電灯が普及すると、灯油販売が激減した。そのとき、T型フォードの出現が重なる。石油から灯油を生成する際の残りかすとして扱われてきたガソリンが、T型の普及によって売り上げを伸ばすのである。
スピンドルトップとは、テキサス州の巨大油田である。それまで石油はカリフォルニア州で採掘されていたが、西海岸のカリフォルニアでは、大陸中部や東部への輸送に手間がかかる。テキサス州なら大陸のほぼ中央にあり、全米どの地域へも輸送の利便性が高まった。なおかつ、巨大油田である。
こうして、20世紀の石油の時代がはじまる。そしてガソリンエンジン自動車が、フォードT型の大量生産による値下げも手伝って一気に広がり、時代を築くのである。ことに米国では、1960年代まで1ガロン(約3.8リッター)10~30セントで推移し、「ガソリンは水より安い」とさえ当時はいわれていた。
方や電気自動車は、その後、旭化成に在籍していたノーベル賞受賞者である吉野 彰によってリチウムイオン蓄電池が発明されるまで大きな進化はなく、21世紀になって、ようやく再び日の目を見るようになるのである。
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みんなのコメント
電気モーターならばそう高い精度が不要でなおかつ大出力を取り出せる。
ディーゼル機関車でも初期はエンジンで発電機を回しその電気でモーターを回す方式が多かった。