2023年のFIA F2チャンピオンで現在はザウバーのF1リザーブドライバーも務めるテオ・プルシェールは、今季から日本のスーパーフォーミュラに参戦していたが、マクラーレンからのインディカー・シリーズ参戦が決まったことに伴いスーパーフォーミュラから離脱することになった。この動きについて、ザウバーのアレッサンドロ・アルンニ・ブラビ代表に話を聞いた。
昨年は参戦3年目にしてF2タイトルを手にしたプルシェール。まだ20歳と若く将来有望なドライバーだが、2024年シーズンに向けたザウバーのシートに空きはなく、戦いの舞台を日本に移した。
■ザウバーがF2王者のプルシェールを日本に送り込んだ理由。チーム代表の言葉から漂う“レッドブルとは違う”アプローチ
ザウバーとしては、F1リザーブドライバー業と並行してレースプログラムを組むことで、プルシェールのレーシングドライバーとしての感覚やキレを保たせたいという意図があった。そのためには、F1に次ぐコーナリングスピードを持つとも言われるスーパーフォーミュラで経験を積ませるのは良い選択肢と言えたのだ。
つまりザウバーの考えの根底にあったのは、レッドブルのようにプルシェールの実力をスーパーフォーミュラという舞台で試したいのではなく、レーシングドライバーとしての経験を積ませる、そして万が一F1ドライバーになるという道が断たれた場合にも、プロドライバーとしてキャリアを積むチャンスを与えるということだった。
実際アルンニ・ブラビ代表も日本GPの際、motorsport.comに対し「彼(プルシェール)は我々のリザーブドライバーだが、万が一、正ドライバーになる機会を得られなかった場合、トヨタとの繋がりでWECだったり、スーパーフォーミュラやスーパーGTのGT500で走るチャンスも開けると思っている」と話していた。
そしてプルシェールは名門TEAM IMPULからスーパーフォーミュラへのデビューを果たし、3月には鈴鹿サーキットで開幕戦を戦った。そこでは主にセットアップが噛み合わず結果は18位に終わったが、ザウバーは経験が少ない中でプルシェールが見せたテストでの速さや対チームメイトでのパフォーマンスに関しては満足感を口にしていた。
しかしそんな中で、プルシェールには新たなチャンスが開けることになる。『アロー・マクラーレン』としてインディカー・シリーズに参戦するマクラーレンが、負傷したデビッド・マルーカスの代役を探していたのだ。プルシェールはロングビーチとアラバマでの2戦を代役として戦った後、正式にマルーカスの後釜としてマクラーレンと契約したことが発表された。プルシェール陣営はスーパーフォーミュラでの将来について言及していないが、アルンニ・ブラビ代表をはじめとする関係者の証言から、TEAM IMPULを完全に離脱したことが明らかになっている。
アルンニ・ブラビ代表は、インディカー参戦のオファーがマクラーレンからあった時、プルシェールにとっても「逃すことのできない」チャンスだと感じたという。
「知っての通り、ザク・ブラウン(マクラーレンCEO)から連絡があり、マクラーレンからインディカーに参戦するチャンスを得た。これは彼にとっても将来に向けた最良の選択肢だと思う。そもそもインディカーはF1と並んでシングルシーターカテゴリーの頂点であり、経験豊富なドライバーと競争力のあるフィールドがある」
アルンニ・ブラビ代表はそう語る。
「サーキットのバラエティや、パフォーマンスなどを含めても、世界で2番目の選手権と言えるため、ドライバーにとっては完璧な環境だ。しかもマクラーレンはトップチームだ。だからテオにとっては、F2のようなジュニアカテゴリーや、スーパーフォーミュラでは得られないレベルで仕事をする機会でもあった。だからこのチャンスを逃すことはできないし、もしF1でチャンスがなかったとしても、プロフェッショナルなドライバーになるチャンスを与えられる」
「レーシングドライバーとしての新章をスタートさせることになるが、彼はセバスチャン・ブルデーのように、インディカーで成功を収める新たなフランス人ドライバーとなれる要素を持っている」
現在バルテリ・ボッタスと周冠宇というラインアップでF1を戦うザウバーは、2026年にアウディのワークスチームとなる予定であり、そこに向けて強力なドライバーラインアップを構築しようとしている。来季に向けては既にベテランのニコ・ヒュルケンベルグと契約しており、もう1席のシートは現フェラーリのカルロス・サインツJr.にオファーしていると広く理解されている。
アルンニ・ブラビ代表は、ザウバー育成ドライバーの“第1号”とも言えるプルシェールに来季のF1レギュラーシートが現状用意されていないことを認めた。ただ、ザウバーファミリーから離れるわけではなく、状況次第ではF1チームにお呼びが掛かる可能性もあるとした。
彼は次のように語る。
「我々が来年に向けた(F1の)オフィシャルシートを用意していないという事実は、彼についてこれ以上検討するつもりがないだとか、彼の成長やポテンシャルをこれ以上見るつもりがないということではない」
「ただ彼を適切な環境に置く必要があると思っている。マクラーレンとの契約により、キャリアの大事な時期に彼を成長させる環境に置くことができる。それと同時に、彼を将来的に(F1の)レースドライバーに起用したい時は、呼び戻すことができる。だからマクラーレンとの契約は両者にとって良い契約であり、もし我々が呼び戻したいとなった場合は、彼を来季のレースドライバーとして起用する可能性も残されている」
16歳の若さでF4王者となり、17歳の時にはF3でランキング2位、翌年にはF2に昇格するなど、若くしてトントン拍子に階段を駆け上がったプルシェール。ただF2昇格後は毎年トップクラスの活躍を見せたものの、頂点に登り詰めるのにやや時間がかかってしまった。彼がまだ20歳という事実を忘れてはならないが、それでも「チャンピオンに3年」という事実がやや評価を下げてしまっているようなきらいもある。
これについてアルンニ・ブラビ代表はこう語る。
「我々の現在の状況では、変革の過程でチームを助けられる経験豊富なドライバーが必要だ」
「もちろん彼はジュニアカテゴリーで成功を収めたが、彼がF2チャンピオンになったのは3年目だった。だから現状でニコ・ヒュルケンベルグといったドライバーと比べると、ベストな選択肢ではなくなってしまう」
しかしながらアルンニ・ブラビ代表は、プルシェールを見限った訳でも、低く評価している訳でもないことを強調する。そして彼が期待しているのは、先に述べたセバスチャン・ブルデーのように、アメリカのオープンホイールでの成功を通して一回り成長してF1の舞台にやってくることだ。
「彼を将来に向けた有力なドライバーではないとみなしている訳ではない」
「先ほどテオとセバスチャン・ブルデーのストーリーを引き合いに出したが、それは決して適当に名前を出したのではない。なぜならテオが成功を収めてインディカーでタイトルを争うようになれば、彼は全く違ったポジションでここに戻って来れると思っているからだ」
「彼は今季を学びのシーズンとするだろう。インディカーは非常に要求が高く、ヨーロッパのカテゴリーとは全く違う。そしてトップドライバーとしての地位を確立するために成長できる良いチャンスだ」
「そして将来に向けては、全てのドアがオープンになる。我々はこのマクラーレンとの契約において、ドアを開けておきたかった。彼を呼び戻せる可能性を残しておきたかったのだ。そうでなければ、我々は彼を放出しただろう」
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