極小のクルマには評価すべき点が沢山
とある日曜日の、飾らないカーミーティング。空腹を満たすため、朝食に持ってきたベーコン・サンドイッチを口にする。美味しいな、と思った瞬間に、イエローの小さなクルマが横切った。
【画像】とある女性がハマるマイクロカー ウィリアム・サイクロ 古いバルブルカーと最新の電動モデルも 全117枚
人だかりができたトライアンフ・スタッグやロータス・エスプリが並んだ一角へ、ヨロヨロと停車。片側のドアが開くと、身を屈めながら女性が降り立った。彼女は、三輪のマイクロカーを軽々と押して、空いていた駐車枠に並べてみせた。
好奇心旺盛なクルマ好きは、臆せず近寄っていく。筆者もその1人だ。大きくて高そうなクラシックカーなら、そんな反応にはならないだろう。
BBCの人気番組、トップギアでは、ジェレミー・クラークソン氏がピールP50というマイクロカーに乗り、ビルの中を移動していた。もちろん、笑いを誘う大胆な演出ではあったが、冷静になって考えれば、極小のクルマには評価すべき点が沢山ある。
イエローのウィリアム・サイクロを所有するのは、ルイーズ・バレット氏。彼女も、同様な意見を持っている。1985年に販売された電動のスリーホイラー、シンクレア C5も含めると、4台のマイクロカーを所有しているそうだ。
そのすべてを、深く気に入っているという。「三輪か四輪のクルマでの冒険といえますね」。そう話すパレットの普段の移動手段は、フィアット500らしい。
47ccスクーター用エンジンが載ったサイクロ
彼女がマイクロカーへ興味を抱いたきっかけは、COVID-19で混沌としていた、勤務先の病院だった。救急外来を担当している時に、患者の死を目の当たりにし、自身の意識へ変化があったという。
「人生がはかないものだと、改めて感じました。わたしは、型破りなものへ強く惹かれてきたんですよ。そんな時に偶然、インターネットのイーベイで、ウィリアムを発見したんです」。と当時を振り返る。自宅は、半世紀ほど前の小物で溢れているのだとか。
「即決で、2000ポンドで購入。次の朝に、(グレートブリテン島東部の)エセックス州まで引き取りに向かいました」
しかしその日、パレットはロンドンの南、サリー州までサイクロを運転することはできなかった。魅力的な古いマイクロカーだが、往々にしてメカニズムは気まぐれだ。
このサイクロは、スクーター・メーカーのランブレッタ・フランス社が、1966年のパリ・モーターショーで発表した前輪駆動モデル。同社の社長、MH.ウィリアム氏が設計を手掛け、47ccのスクーター用エンジンが搭載されている。
自宅へ連れ帰った彼女は、エンジンをオーバーホール。グラスファイバー製ボディは補修された。それでも、不調はつきものらしい。2022年にブルックランズで開催されたイベントへ向かう途中のことを、パレットは気まずそうに話す。
マイクロカーの運転には鉄の心臓が必要
「順調に走っていたんですが、片道2車線の高速道路で故障。路肩へクルマを寄せると、消防車が偶然近づいて来たんですよ。隊員が車線規制してくださって、助かりました」
「その1人から、クルマは諦めた方が良いと忠告されました。もちろん、わたしは拒否して、ロードサービスへ電話。見てもらうと燃料供給のパイプが外れていたのが原因で、すぐに復調したんです」
「ところが心配だったのか、ロードサービスと消防車は、ブルックランズまで追走してくださいました。迷惑をかけてしまいましたね・・」
小児看護に携わっているだけあって、不測の事態には耐性があるらしい。サイクロを運転するには、鉄の心臓が必要だと笑う。
「最高速は32km/hがやっと。走っていてクラクションは珍しくないですし、ドライバーの中には、怒鳴ってくる人もいます。でも、殆どの人は好意的に見てくれているようです。ガス欠になっても、足漕ぎペダルが付いているので、自力で動かせるんですよ」
筆者が取材を申し込むと、快く自宅へお招きいただいた。サイクロへ試乗させてくれるという。
小さなガレージには、1974年式のミニ・コムテッセが停まっていた。見た目はサイクロと似たシングルシーターだが、左側はガルウイングドア。パブの駐車場で発見し、500ポンドで買ったそうだ。
もう1台、1970年式のSEABフリッパーもある。これは四輪車で、2023年にコレクターの遺品として、1200ポンドで譲り受けたとのこと。
グレートブリテン島を巡り寄付を集める計画
それでも1番チャーミングに見えるのは、イエローのサイクロ。1976年式で、今でも公道走行できる世界唯一の個体だと、パレットは考えている。最近、2万ポンド(約384万円)で売って欲しいと連絡があったが、彼女は断ったらしい。
小さなステアリングホイールの後ろへ、筆者の身体を押し込む。ノブを引いてボタンを押し、エンジン始動。アクセルペダルを踏むと、ゆったり発進してくれた。
加速はのんびりだが、すぐに25km/hくらいでの巡航に落ち着く。エンジンは、想像に反して滑らかで静か。思いのほか、スピードも乗せやすい。
ステアリングホイールの反応は、驚くほどダイレクト。笑ってしまうほど、クルクルと小回りが利く。ところが、調子に乗って走っていると、速度抑止用のスピードバンプで横転しそうになった。
「そのことを、説明し忘れていましたね」。サイクロから降りて報告したら、マイクロカーを愛するパレットが笑顔で教えてくれた。とはいえ、運転はとても楽しい。
「週末は、ホームレスの支援団体で活動しているんです。チャリティーとしてグレートブリテン島を巡って、寄付を集めたいと考えています。小さいですが、車中泊しながら」
番外編:バブルカー&マイクロカー博物館
英国には、1950年代のバブルカーや、マイクロカーを専門にコレクションした、小さな博物館「バブルカー・ミュージアム」がある。2階建てで、英国のメーカーだけでなく、フランスとドイツのモデルも展示されている。
実際に乗れる、バブルカーもあるという。英国へ旅行された際に、立ち寄ってみてはいかがだろう。詳細:www.bubblecarmuseum.co.uk
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みんなのコメント
バン バン ババン バアアギャ ・・キィイ・・・ 覚悟する事だな