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【アイディア】スーパーGT スバルBRZ GT300 空力と冷却の高い壁

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【アイディア】スーパーGT スバルBRZ GT300 空力と冷却の高い壁

スーパーGT 2019
スバル STIの先端技術 決定版 vol.34

令和になって最初のレース、スーパーGT2019の第2戦富士スピードウエイでは、このレースからドライバーを保護する目的でもある「エアコン」ないし「クールスーツ」の使用が義務付けられた。そこでスバルが走らせるGT300のBRZにはどんなドライバー冷却装置を搭載しているのか取材してきた。

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エアコン装備はレギュレーション規定

スーパーGTのレギュレーションでは第2戦から第7戦までは、ドライバーを暑さから守る「冷却装置」を搭載しなければならない規則があり、いよいよ暑さも本格的になってくるというわけだ。これはFIA-GT3のレギュレーションでも義務付けられており、GT3レギュレーションで製造されたマシンには「エアコン」が標準装備されている。

もっとも市販車のエアコンとは異なり、かなり冷却効果は部分的なもののようで「快適」とは程遠いようだ。ドライバーの井口選手に聞くと部分的に冷気が来るようになっていて、体の一部に冷気が当たるだけだと。例えば首の周辺、そしてシートにも冷気は当たるようになっているという。

したがって、そのエアコンだけでは暑さ対策としては厳しいらしく、チームによっては酷暑の時期になるとクールスーツも併用するドライバーもいるということだ。そうした規則の中、BRZ GT300ではクールスーツを使用している。

BRZ GT300はクールスーツを着用

こちらはドライバーが直接身につけ、ベストのような格好のクールスーツを着用している。かつてはこのクールスーツにパイピングされた管の中を水が通る構造となっていたが、チームが使用するスーツは5ZIGENのARDが提供されている。このARDの構造は、面で冷却できる特殊な構造になっており、以前のようにパイプの当たる部分だけが冷えるものから、全体が冷えるものへと変わり、快適性はかなり向上したというコメントが井口、山内両選手からあった。

また、この冷却には通常水が利用されるが、すぐに温まってしまうため、氷を使うのが一般的だという。しかしチームを運営するR&Dスポーツではさらに改良を加え、ドライアイス→氷→水という順番で水が流れる構造とし、常に冷える状態を維持する装置を使っている。

とくにドライアイスの使い方にはノウハウがあり、単純にドライアイスを使うだけでは、すぐに氷ってしまい、水流しないという。そのため、氷を徐々に解凍して水が流れるように細工してあるのがR&Dスポーツのノウハウなのだ。

また、レースカーに搭載するドライアイスや氷、水の重量はレギュレーションの最低重量の範囲で搭載されるわけで、クールスーツを着たから重量増とはならない。ただし、蒸発や流れ出してしまう不測の事態も想定し、つまり、レース後の車検で最低重量違反とならないように、2kg程度は余分に重量換算をして搭載しているという。このあたりもチームのノウハウで、自らハンデウエイトを搭載することにならないように計算しているわけだ。

宇宙飛行士も着用するクールスーツ

このARDの冷却ベストはインナーの上に着用し、その上から耐火レーシングスーツを着る。冷却水はマシンのセンターコンソール付近に差し込み口を設け、ドライバー交代時でもすぐに差し替えができる工夫がされている。またドライアイスや氷の追加という作業もレース中のピットインの時間内で作業が可能ということなので、快適性の持続が期待できるわけだ。

余談になるが、このクールスーツは宇宙飛行士が船外活動する際にもクールスーツを着用しているというから、人間を冷やすという狙いでは効果の高さが証明されているわけだ。

一方、マシンへの工夫としてはルーフに開口部を設け、車内に熱が滞留しない工夫がされている。そしてヘルメットには外気をあてる専用のカバーを取り付け、走行風がヘルメットに当たるようにしてある。これは真夏のレースの時、かなり効果があるようで、欠くことのできない装備ということだ。

エンジン房内の整流

一方、空気の流れをコントロールするマシンの空気抵抗とダウンフォースの研究では、エンジンルーム内の空気をどのようにコントロールするかを研究している。

空力ボディの計測結果によって、今季のGT300BRZはトップスピードやコーナリングスピードが向上し、低ドラッグ、ハイダウンフォースの車両になってきている。そして、さらに見えない壁をコントロールすることで、ダウンフォースをあげたり、抵抗を減らしたりするトライが続けられているのだ。

その一例として今回はエンジン房内の空力についてSTIモータースポーツ技術統括部の野村章氏に話を聞いてみた。エンジンルーム内へ空気を引き込みたいということと、引き出したいという要素とがあるわけで、どのように流し、排出するか複雑な空力追求が行なわれている。

ーー野村
「理論的には飛行機の機体と同様に、車体に沿わせてエンジンルーム内へ入れた方がダウンフォースは出ます。そして、フロントスプリッターでダウンフォースを出すのですが、BRZは熱害の関係でスプリッターが分離しています。そのためエンジンルーム内に入れるものと後方へ流すものの両方に分割されています」

BRZの床下は完全なフラットボトムではなく、エンジンルームとボディ下面で分離しているわけだ。こうした理由から2系統のコントロールが必要になってくるようだ。つまりエンジンルームに入る空気とボディに沿って後方に流される空気の道の制御だ。

ーー野村
「ただ、エンジンルームに引き込んだ空気を排出するのに、今度は上から出した空気は、つまりボンネットフードから排出した空気はリヤウイングにあたり、ダウンフォースを減らしてしまう結果になります。そのため排出は全てサイドからできるといいのですが、GT500のようにホイールハウスにルーバーやラテラルダクトが使えれば可能になるのですが、レギュレーションで制約があるので、そこは簡単にはいかないですね」

つまり、エンジン房内に取り込んでダウンフォースを作った空気をどのように抜くかという最適化が難しいというわけだ。

ーー野村
「当然、サーキットによっても上から抜いた方がいい場合と、下から抜いた方がいい場合があり、前後のダウンフォースのバランスによって変わってきます。ですので、机上検討するのですが、その解析でも実際はエンジンルーム内には、パイプやリンク類が複雑に絡み合っていますから、正確な解析が難しいということがあります。さらに、エンジン、ターボという熱源があり、冷えた空気の流れの話とは別なものとなり、インタークーラー、ラジエターの効率も影響してくるので、難しさがあります」

そして残念なことに、我々にはどのように空気を取り込んでいるのか?マシンの外観からは判断できないのだ。つまり、フロントスポイラーからのフラットボトムへつながる床下部分での話で、見えない空気の流れを見えない場所でコントロールのトライをしているということだ。

こうした難解な壁にはトライを繰り返すことでデータや知見が増え、その高い壁はいい意味で成長の糧になっていることは間違いない。そうした研鑽はSUBARUの市販車やSTIのコンプリートカーへ反映できることは間違い無く、スーパーGT参戦が財産になっていくということなのだろう。

レース結果

この第2戦は77周目にマシントラブルで28位に終わった。左フロント下あたりからの発火もTV映像で確認できているが、詳細な原因はレース当日の取材段階では不明だった。もちろん、この記事が掲載されるころには解明し、対策されると思うが次戦は得意の鈴鹿なので、ぜひ優勝を期待したいものだ。

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