徹底した「挑戦」で、高級車のヒエラルキーを打破!
世界の自動車メーカーが挑戦するも、未だ成功に至らないジャンルがある。それが「小さな高級車」だ。これまで登場してきたモデルはコンパクトな実用車に豪華な装備……といったクルマばかり。「見た目」は高級車でも、本質的な部分まで高級な本物はなかった。
レクサスが新型コンパクトクロスオーバーSUVの「LBX」を初公開。日本での発売は2023年秋以降を予定
今回、そこにレクサスが真っ向から挑戦した。イタリア・ミラノで世界初公開されたLBXである。LBXに与えられたミッションは高級車の「ヒエラルキー」を変えること。つまり、「高級車=権威の象徴」からの脱却を意味している。車名はLexus Breakthrough X(cross)-overの略。開発のキッカケはブランドホルダー、豊田章男氏の「本物を知る人が素の自分に戻れ、気負いなく乗れる高級車を作りたい」という強い想いだったという。
開発陣はヤリスクロスの基本コンポーネントをベースに提案を行うが、豊田氏は「この程度のモデルしかできないのなら、要らない」と一喝。いきなりプロジェクト終了の危機に陥った。トヨタのエンジニアは「与えられた素材で全力を尽くす」仕事は得意。だが、豊田氏は「高級車のヒエラルキーを変えるためには、「リファイン」ではなく「挑戦」をしなければダメ」という覚悟を伝えたかったのだ。
LBXのチーフエンジニア、遠藤邦彦氏は、「デザイン統括のサイモン・ハンフリーズと話をすると『プロポーションのいいクルマを作るには、ちゃんとしたパッケージじゃないとダメだね』と。その後、佐藤プレジデント(現社長)に相談をすると、『いばらの道かもしれないけれど、行こう』と背中を押してくれたので、『思い切ってやりたいことをやる!!』と決心しました」と語る。
機能を凝縮した主張あるデザイン。パッケージングは前席優先のパーソナル志向
LBXは、実質的にゼロから理想像を追求した初めての小さな高級車である。エクステリアは凝縮感が印象的だ。全長×全幅×全高4190×1825×1560mmのコンパクトサイズながら強い存在感を受ける。フロントは「ユニファイドスピンドル」と呼ばれるフード造形とシームレスグリルが個性を主張。前後オーバーハングが短いサイドビューは、大径タイヤ(17/18インチ)と相まって独特の安定感を生み出す。リアは新世代レクサスのアイコンでもあるLシェイプの一文字シグネチャーが目を射る。ドシッと踏ん張りのあるスタンスは、日本の伝統の「鏡餅」がモチーフだそうだ。
インテリアの造形とイメージもLBX専用。最新レクサス共通の「TAZUNAコクピット」の概念を踏襲したうえで、新しさに挑戦した。具体的には横基調のスッキリしたインパネ上面を持ったモニターがコンソールに溶け込むデザインである。12.3インチのフル液晶メーター、9.8インチタッチディスプレイのデザインを含め、個人的には新世代レクサスの中で最も自然かつ整ったレイアウトだと感じた。ドアのアンラッチ機能には、NXから採用がスタートした電気制御が可能なeラッチシステムを設定する。
シートポジションもこだわりのひとつ。ヤリスクロスに対してヒップポイントを15mm低め、それに合わせてステアリング/アクセル/ブレーキの角度をLBX専用に調整した。車両の挙動を感じやすく正確な運転操作ができるシート性能にもこだわっている。実際に座ってみたが、クロスオーバーというよりハッチバックに近い着座感だった。リアシート/ラゲッジは必要十分といったスペースだが、LBXのキャラクターは基本的に前席優先。デメリットにはならないはずだ。
基本のインテリアコーディネートは5種。クール/リラックス/エレガント/アクティブ/アーバンという世界観を設定。そして各部の表皮色/シートベルト/ステッチ/配置構成/トリム加飾を自由に選べる「Bespoke Build」が用意される。これは、なんと約33万通りの組み合わせが可能なオーダーメイドシステム。豊田会長からのアドバイス「最後の最後にLBXを仕上げるのは、お客様」の具体化だそうだ。LBXが真のプレミアムであることの証明のひとつである。
「電気リッチ」な走りの1.5リッターHVを全車に採用。フットワークはすべてがFスポーツに相当する
メカニズムはほぼLBX専用設計である。形式だけを見るとヤリスクロスの流用に思えるが、実際はその面影はない。
パワートレーンは全車ハイブリッド。直列3気筒1.5リッターエンジンは音・振動を抑えるためのバランサーシャフト付き、ハイブリッドシステムを含むトランスアクスルは高出力なノア/ヴォクシー用の第5世代を採用している。バッテリーは大電流を流せるバイポーラ型ニッケル水素。システム出力は100kWだが、前記のアイテムを活用することで「電気リッチ」な走りを実現しているそうだ。
遠藤氏は「ポイントは『電気の使い方』です。電気で走る/加速する領域を引き上げ、その間にエンジン回転を上げる準備をすることでGの立ち上がりをリニアする制御をしています。結果として繋がりがいい、気持ちいい加速が実現できました」と自信を見せる。駆動方式はFFに加えて電動4WD(E-Four)が設定されている。
プラットフォームは形式上GA-Bと呼ばれるが、その内容は、LBX専用である。ボディ骨格はフードのアルミ化、ホットスタンプ材の積極的な採用、短ピッチ打点技術や構造用接着剤の採用部位拡大(乗員に近い部分は高減衰タイプを使用)、局部剛性アップ(カウル構造/インパネ内部構造)を実施。シャシー系はジオメトリー刷新のフロントサスペンション(キャスタートレールが大きい)、3点締結の入力分離型アッパーサポート(剛性を確保しながらしなやかな足の動きを実現)、アルミ鍛造ナックル(バネ下重量軽減)、新開発のショックアブソーバー(極微低速の減衰力確保)を採用。リアサスはFFがトーションビーム式、4WDがトレーリングアーム式2リンクダブルウィッシュボーン式を使う。遠藤氏に「なぜ、FFはダブルウィッシュボーン式にしないのか?」と聞くと、「運動性能のために、クルマをできるだけ軽くしたかった」と教えてくれた。
走りの考え方は「真っすぐ走るクルマを作ったうえで、気持ちいいハンドリング」。ロールステアをリニアにするために、サスペンション部品のバラつきを徹底的に減らしているそうだ。遠藤氏は「LBXのフットワークは全車が「Fスポーツ」だと思って開発しました」と語る。要するに「レスポンスに優れるクルマ」を目指したに違いない。実際に乗ってみないと判断はできないが、ここ最近登場した新世代レクサスの実力を考えると、期待は高まる。
レクサスのDNAである静粛性も抜かりなし。音や振動の発生源を抑制する「源流対策」にこだわる点は、初代LSからの伝統だ。
生産はトヨタ自動車東日本・岩手工場が担当。旧関東自動車時代にレクサスの生産をしていた経験が評価され、世界でいちばんコンパクトを上手に作れる工場と判断された。なお、LBXの品質管理はセンチュリーを担当する部長が行っているという。コンパクトプレミアムとして、万全の生産体制を整えた。
先進安全技術に関しても「小さいから……」という妥協はまったくない。最新のLexus Safety System+を採用。プロアクティブドライビングアシストやドライバーモニターと連動したプリクラッシュセーフティ、レーダークルーズコントロール、レーンディパーチャーアラート、ドライバー異常対応時システムなどが用意されている。
LBXはレクサス・ラインアップの中では最も小さなモデルになるが、その内容を知れば知るほど兄貴分以上のこだわりが凝縮されている。いままでありそうでなかった「真」の小さな高級車、LBXがレクサスのゲームチェンジャーになるのは間違いないだろう。気になる日本発売は今年の秋以降を予定している。
レクサスLBX主要諸元
モデル名=LBX
駆動方式=FF/4WD
全長×全幅×全高=4190×1825×1560mm
ホイールベース=2580mm
パワートレーン=1.5リッター直3DOHC12V+モーター
プラットフォーム=GA-B(レクサス専用開発)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
(4WD:2リンク・ダブルウィッシュボーン)
タイヤサイズ=225/60R17 or 225/55R18
乗車定員=5名
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みんなのコメント
>結果として繋がりがいい、気持ちいい加速が実現できました
これが本当であれば欲しい。
MTじゃないですよ!