2013年1月から販売が開始された三菱の初代アウトランダーPHEV。これまでの常識では語れないこのクルマの最も大きな特徴は「充電できるプラグインハイブリッド」であること。その特徴を生かし無給油で東京から九州まで行けるか? 国沢光宏がチャレンジした(本稿は「ベストカー」2013年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)。
文:国沢光宏/写真:中里慎一郎
中古車狙ってる人必見!! 無給油・充電だけで「1000km」走ってわかった初代アウトランダーPHEVの実力
■アウトランダーPHEV 東京~九州 スリリングなロングドライブテスト
ナビの目的地を九州に入ってすぐのガソリンスタンドにすると目的地までの距離は1010kmだった
アウトランダーPHEVが好調に売れている。私からすれば「普通のガソリン車より総合コストで考えたら安いのだから当然でしょう」ですけど……。日本のユーザーって慧眼だ。よいモノはキッチリ売れます。
いっぽう、プラグインハイブリッドの上手な使い方となれば、いまだに手探り状態。当たり前のことながら、ガソリンだけ入れて走るハイブリッドではない。かといって電気だけで走る電気自動車でもない。どうやったらその性能を引き出せるのか?
編集部からの指令は「満タンで九州まで行ってほしい!」。調べてみたら九州の玄関口、門司まで1000kmをわずかに超える距離。
燃料タンク容量45L+電池容量12kWh。高速道路を60km/hで走ればリッター20kmくらい走るだろうから、900km。さらにEV走行モードで30km/h巡航すると60kmくらい走れる。つまり他人に迷惑かけてトータル960km。下関近くまで行く距離だ。こんな記事をベストカーに載せたら、フルボッコかと。そもそもそんな走り方などしたくない。
そこで考えた。PHEVの普通の使い方をしましょう、と。クルマに乗っていれば食事もしなければならないし、休憩だって必要。その間、充電するという作戦だ。むしろ可能な限り安価な電気を使って走るべきだと思う。
広島県の呉はお隣、江田島とともに海軍さんの街。てつのくじら館は全長76m、重さ約2000tという潜水艦あきしおの実物展示が目玉だ
毎日の足としてアウトランダーPHEVに乗る時は、皆さん電気自動車として運用することだろう。ロングドライブの時だって電気で走ったらいい。「ガソリン主体で走る」ということ自体、PHEVがわかってないと思う。
東京のスタート場所をどこにしようか迷ったけど、急速充電器を使える三菱自動車の本社にした。燃料満タンで14時にスタート。
とりあえずEV走行モードのまま(電気なくなるまで電気自動車)、遅い昼ご飯食べるべく海老名SAに向かう。充電時間は30分ながら、25分でクルマに戻る。次の利用者を待たせないのが急速充電器利用のマナーです。海老名SAの充電器の利用は1回100円。6.6kWh入りました。
アウトランダーPHEVの電費は6km/kWhほどだったので、海老名SAで充電した100円で約40km走れる計算。同じ距離をガソリンで走ると450円(約3L)くらい必要。このあたりがPHEVの面白いところ。
時間あればすべてのSAで急速充電していけばいいのだけれど、そんなことしてたら電気自動車と同じ。PHEVはガソリンでも走れるのだ。足柄SAを通過し、そのまま西へ向かい、駿河湾沼津SAに立ち寄る。トイレ休憩の10分で急速充電を切り上げます。
路面に吸い付くような走りは乗り心地のよさを生む。また4WDロックは雪道や悪路だけでなく雨天の高速走行で効果があることがわかった
走行は車間距離制御付きレーダークルーズコントロールシステム(ACC)を90km/hにセット。ガソリンタンク容量が45Lなのでガソリン+電気の総合燃費が約23km/L以上になれば九州に届く計算。
三重県の御在所SAで晩ご飯のためピットイン。アウトランダーPHEVにも100円の急速充電器でゴハンを食べさせる。ここまでの総合燃費は24km/L。
何とか九州まで到達できる可能性を感じさせますね。問題は御在所SAの先だ。困ったことに、ここから高速道路の急速充電器がなくなってしまう。
今回のテーマは「普通のドライブと同じように走る」ことなので、587km走った姫路で宿泊。急速充電は3回。1日のドライブなら3回程度だと思う。気になる燃費というと、23km/Lを割り込んでいます。これじゃ九州にたどり着けぬ。
どうしようと思っていたら、ホテルの近所に急速充電器を持つ三菱自動車のディーラーがありましたね! ついでに少し遅めの朝ご飯。普通のドライブなら姫路城見物も兼ね、急速充電したらよろしかろう。
続いて中国地方の観光名所である倉敷。i-MiEVを生産している三菱自動車の水島工場が近いためか、大型ショッピングモールには4基の急速充電器が!
知らぬ街のショッピングモール散策は楽しい。さすが瀬戸内、おいしそうな魚介類が多数! お買い物なら90分タイプの中速充電器を使えばよろしい。ケーキなんぞ食べている間に30分充電して7.16kWhを飲み込む(約45km走行可能)。
コクピット
本日3回目の充電は福山東IC近くの『福山くるま生活』。充電をお願いすると「取材ですか?」。なぜバレる?
ここの社長は環境派とのこと。ボランティアで急速充電器を設置したそうな。ぜひとも御挨拶したかった。
福山は坂本龍馬の『いろは丸事故』やジブリの『崖の上のポニョ』の舞台になった“日本で最も癒やされる港町”と呼ばれる鞆の浦が近い。ぜひとも坂本龍馬が歩いただろう石段積みの岸壁などめでてほしい。尾道ラーメンも忘れずに。
ここから急速充電器なし! 残走行距離と総合燃費を考えれば九州突入は難しいかもしれないという状況。
後で紹介するPHEVならではの省燃費走行テクニックをフルに使い、何とか持たせなくちゃならない。高速道路でエンコしちゃシャレにならないため、途中で予備に5Lを補給。
関門海峡トンネルを抜けたところにあるガソリンスタンドで給油したら、走行距離1029km。39.9Lも入りましたね! タンク容量45Lだったので文字通りギリギリセーフ!
「壇ノ浦の戦い」「巌流島の決闘」「下関戦争」など数々の歴史の舞台になった関門海峡に高速道路の関門橋が架かり、クルマが走り始めたのは1973年11月14日のこと。今年で丸40年になる
■EV走行モードとHV走行モードを使い分けろ アウトランダーPHEVのBEST DRIVE術
さてさて。ここからがアウトランダーPHEV分析の本番である!
最も大きな特徴は「どんな走り方をしてもガソリン使うより電気のほうが安い!」というもの。高速道路をハイブリッド走行モード(以下HV走行と略)で走った時の燃費は、80km/h巡航でおよそ16km/L。100km/h巡航だと14km/Lといったイメージ。
EV走行モードで走ったなら、電費を6km/kWhとして30km走るのに150円(家庭用の電気料金を1kWh/30円として計算)、HV走行モード15km/Lとすれば、1Lあたりのレギュラーガソリンを160円として320円。EV走行モードならHV走行モードの半分ですむ。
したがって、短い移動距離なら100%電気自動車で走ったほうがお得ということになる。そして抜群の効率を誇るのが街中。普通のガソリン車よりも燃費がいいHV走行モードのアウトランダーPHEVと比べ、エネルギーコストで2分の1。同じクラスのガソリンエンジンを積むSUVと比べたら3分の1のエネルギーコストだ。
アウトランダーPHEVの走りを引き出す重要なスイッチがセーブモードとチャージモード。こいつと回生レベルセレクターを操れば、好奇心いっぱいのドライブができる
今回の総合燃費は22.94km/L。それを当てはめれば燃費8km/Lのガソリンエンジン車からアウトランダーPHEVに乗り替えれば、走行1万kmあたり13万円以上も安くすむのだった(1L160円で計算)。
長距離ドライブではどうすべきか? もちろんEV走行モードで走ればOK(電気がなくなったら自動的にHV走行モードに切り替わる)。まったく問題ない。されどクルマ通なら、燃費を伸ばす方法がある。速度が遅いと電気自動車有利。速度が上がればガソリン車有利、という特性を上手に使ってやるというもの。以下、具体的に紹介したい。EV走行モードが圧倒的に有利なのは、ノロノロ走行が多い街中や渋滞路。電気自動車って遅いほど電気を食わない。
ノロノロ渋滞時の電費をチェックしてみたら、8km/kWh近く走ってます。対して80km/h巡航すると6km/kWhまでダウン。ところがHV走行モードだと逆転。ノロノロ走行のほうが燃費が悪いのだ。
ここまで読んで「なるほど!」と理解していただけたことだろう。バッテリーに貯めた電気だけじゃ到達できない距離を走行する場合、渋滞や街中をEV走行モードで、高速巡航はHV走行モードで走ればアウトランダーPHEVの効率のよさをフルに引き出せるワケ。
例えば一般道を20km走り、そこから高速道路に入って150km。高速道路降りて30kmの場所に行くとしよう。この場合、最初の20kmを電気自動車走行になるEV走行モードで、高速道路に入ったらHV走行になる『セーブモード』とする。
再び一般道になったら自動的にEV走行モードになる。するとEV走行モードのまま高速道路を走るより、総合燃費を伸ばすことができる。高速道路のSAで急速充電できれば、さらにエネルギーコストを引き下げられます。
この特性をさらに生かすことも可能。高速道路を走っている時は、上りと下りがある。大ざっぱに言えば、上り区間をHV走行モードで走り、下り区間になったら電気自動車にすればよろしい。東名高速を東京方面から名古屋方面に走ると、大井松田から登り坂基調になっていく。ここはエンジン主体のHVで走ったほうが有利。そして御殿場から先の下り坂は電気自動車のEV走行モードで走るというもの。これでアウトランダーPHEVの最高効率を引き出せます。
今回アップダウンの多い(数km単位で上り坂と下り坂がある)山陽道でこのテクニックを細かく使って総合燃費を稼いだ。さらにここでひとつテクニックを。『セーブモード』のボタンを押してもバッテリー残量がある時は即座にエンジンは始動しない。
そんな時は『チャージモード』を選ぶと、すぐにエンジン始動。チャージモードのままだと燃費が悪くなってしまうため、エンジンがかかったらすぐセーブモードに切り替える。これで燃費を稼ぎました。
『チャージモード』は(走っていると少しずつ電気が貯まっていくという制御)どうやって使ったらいいか? 1日目、岡崎ICから先で3kmくらい渋滞していることがわかったため、手前から『チャージモード』に入れ、3kmだけ電気自動車として走れるぶんの電力を貯めてみた。
HV走行モードで小刻みにエンジンがかかるより、EV走行モードのほうが効率がよいだろうという狙い。この使い方、果たして得なのか損なのか不明です(もう少し検証が必要)。
一般道のEV走行モードの電費を伸ばす時に有効なのはBモード。パドル操作により、回生制動ゼロの『B0』から、ガソリン車であれば2速ギアを落とした程度の回生を行なう『B5』まで6段階の回生ブレーキを選べる。
なかでも世界中の市販電気自動車で初めて採用した『B0』がすばらしい! 下り坂などで『B0』を選ぶと、電車のような滑走状態になります。回生を行なうと電費がよくなると勘違いしてる人も多いようだけれど、大きな間違い。
エネルギーを100%回生できないからだ。上を見て70%という感じ。30%をロスしている。滑走している状態なら消費エネルギーゼロ。停止する時は『B1~B5』を使い回生をかけ、最後にフットブレーキで止まる。これまた電車と同じでございますな。
といった具合で普通に走れば普通に走るアウトランダーPHEVながら、いろんな「燃費低減」のポケットを持っている。こいつをフルに使いこなそうとすると、なかなか奥ゆきがあって楽しい。
鞆の浦名物のボンネットバスとの2ショット。1958年式というから国沢光宏と同級生だった。ちなみに鞆の浦は『崖の上のポニョ』の舞台でもある
アウトランダーPHEVはロングツアラーとしての資質も高い。まずはレーダー・クルーズコントロールシステム(ACC)。通常の追随走行モードのほか、渋滞時のノロノロ走行にも対応している。
不思議なモノで、アクセルもブレーキも踏まずに渋滞の中を走っていると、案外ストレスがない。長距離ドライブで一番イヤな渋滞が苦にならないからありがたいです。
参考までに書いておくと、90km/h巡航と、追い越し車線を平均100km/hで走った場合、100km先の到着時間は7分弱しか変わらない。
安全性だってバッチリだ。30km/h以下であれば不注意によってブレーキをかけ忘れても自動停止してくれるFCMも付く。危険が迫れば『注意』というコーションだって出してくれる。
カメラで走行レーンも常時確認しているので、居眠りなどで車線を逸脱しそうになったらアラームまで鳴らしてくれます。
もちろんドライビングミスなどないほうがいいに決まっているけれど、事故防止効果という点で高く評価しておきたい。帰路、広島の鞆の浦から約760kmを一回の休憩だけで走ったが、予想以上に疲れませんでしたね。
そうそう。帰路で豪雨に遭遇。ダメもとで『4WDロック』モードを試してみたところ、スタビリティが大幅に向上した。通常もフルタイム4WDだがロックモードにすると前後にしっかり駆動力を伝える4WDになる。ステアリングの落ち着きまで違うからタイしたモンだ。
多少燃費は落ちるかもしれないけれど、安心感を考えればリーズナブルだと思った。機会があればぜひ雪道も走ってみたい。アウトランダーPHEVならガンガン行けることだろう。
国道2号線は関門国道トンネルになっていて全長は3461m、料金は150円だ。下関ICをおり、流れに乗ったアクセルワークでトンネルを抜け、念願の九州上陸をはたした。1029.7km走り、使ったガソリンは44.88L。総合燃費は22.94km/L
■アウトランダーPHEV価格
・Gプレミアムパッケージ:429万7000円
・Gナビパッケージ:397万8000円
・Gセーフティパッケージ:366万4000円
・G:356万9000円
・E:332万4000円
(平成24年度クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金が対象)
■PHV&EVの味方「チャデモチャージ」とは
三菱自動車、トヨタ、ホンダ、関電工、中部電力、鈴与、兼松、日本政策投資銀行、アルバックの大手9社が組織して作られたのが「充電網整備推進機構」だ。
全国の急速充電器のネットワーク化を図り登録手数料1575円と月額基本料金1050円を払えば、充電は何度でも無料となる。なお支払いはクレジットカード払いになる。
上記のホームページから申し込めば、カードが手元に届く。安心してPHEBやEVに乗ることができる。
チャデモチャージカードがあれば、チャデモマークのある全国の急速充電器を利用できる
■テストでわかったアウトランダーPHEVの性能
Q. EV走行距離はどのくらい?
A. 約40kmが目安。今回三菱自動車本社で満充電状態で走り出し、東名の海老名SAまで4kmという地点で、表示がなくなった。数字は44kmで高速道路ならこのくらいが目安だ。一般道なら50kmも狙える
EV走行距離は約40kmが目安
Q. 実際にかかった費用はどのくらい?
A. 高速代が全部で1万4050円(ETC割引含)、ガソリン代が7066円、締めて2万1116円。東京~小倉間の新幹線料金は指定席特急料金込みで2万1690円とほぼ同額
コスパ良しとみるか、悪しとみるか
Q. 一番燃費がいい走り方は?
A. エネルギーモニターの出し入れがない状態が最もいい。この状態では回生レベルセレクターでB0にすれば電車のような滑走になり、消費エネルギーはゼロとなる。この状態がベスト
Q. 渋滞走行時の燃費は?
A. 渋滞時はEVで走ったほうが絶対にお得。6km/kWh以上走るはずなので、1kWh当たり30円として30km渋滞時も150円で走る計算。渋滞が予測される場合は電気を貯めておくべし
渋滞が予測される場合は電気を貯めておくのが吉
Q. チャージモードの燃費は?
A. 100km/h巡航中で、駆動用バッテリーへ充電するため、燃費は9.2km/Lまで低下した。駆動用バッテリーは約30km走行中に7セグまで回復(フルは16セグ)した。上手に使いたい
チャージモードの燃費は9.2km/Lまで低下
Q. 上りか下りかの判断は?
A. 高速道路を走っていると上りか下りかがわからなくなるが、左のパワーモニターが、アクセルオフ状態でもチャージ側に振れていないと、負荷がかかっている上りだという証拠になる
左のパワーモニターをチェック!
Q. 静粛性はどんなもの?
A. 80km/h巡航で60dB、100km/hで61dBくらいと超静か。ほとんどタイヤの転がり音だけで駆動系の音は感じない。クラシックやジャズのクリアな音源を聴きながら走りたいクルマだ
静粛性。ほとんどタイヤの転がり音だけで駆動系の音は感じない
■三菱 アウトランダーG プレミアムパッケージ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4655×1800×1680mm
・ホイールベース:2670mm
・車重:1820kg
・エンジン:直4DOHC MIVEC
・総排気量:1998cc
・最高出力:118ps/4500rpm
・最大トルク:19.0kgm/4500rpm
・モーター最高出力(フロント/リア):82ps/82ps
・最大トルク(フロント/リア):14.0kgm/19,9kgm
・JC08モード燃費67.0km/L
・EV走行距離:60.2km
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
【画像ギャラリー】食事の間に充電し、また走る。アウトランダーPHEVと国沢さんの旅路をギャラリーでチェック!(12枚)
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