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ヘリ前方の「ひも」の正体とは――100年以上現役、航空安全と運航効率を支えるヨーストリングの知られざる効果

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ヘリ前方の「ひも」の正体とは――100年以上現役、航空安全と運航効率を支えるヨーストリングの知られざる効果

空の基準装置ヨーストリング

 クルマやバイクを運転する際、人は感覚的に「右に曲がっている」「左に曲がっている」と認識できる。それは道路や引かれたラインといった基準があるからだ。地上での日常的な移動は、ほとんどが2次元的な感覚で成立する。

【画像】えっ…! これがヘリコプターの「飛ぶ仕組み」です(計13枚)

 しかし、空の移動では

「3次元上」

で方向を判断するのが難しい場合がある。そこでヘリコプターには、基準となる「ヨーストリング」が備えられている。グライダーや飛行機でも使われることがある装置だ。

 ヨーストリングは、航空機の前後軸に対する相対的な気流の方向を示す装置である。

・ヨー(偏揺れ)
・ストリング(ひも)

を組み合わせた言葉で、和訳すれば「偏揺れひも」となる。スリップ・ストリングとも呼ばれ、真っすぐ飛行しているかどうかを判断する重要な指標だ。

 ヨーストリングは、世界初の有人動力飛行を1903年に成功させたライト兄弟のウィルバー・ライトが発明したとする説が有力だ。航空史上、最も初期の計器でありながら、現在でも現役で使われている。

 現在は精度の高い計器が存在するが、ヨーストリングには低コストで軽量、電力を必要とせず壊れることがほとんどないという強みがある。アンテナのように電波を送受信するわけでもなく、センサーでもない。それでも高感度で即時に有用な情報を提供する。万一計器が故障しても、剥がれ落ちない限りヨーストリングは使用可能で、冗長性にも優れている。

横滑り防ぐ低コスト計器

 ヨーストリングはキャノピーや機首上部など、乱流の少ない部分に取り付けられる。飛行中、相対気流がひもを後方に押し流し、空気の流れに沿って動く。航空機が傾けば、ひもはそのずれを即座に示す。

 ヘリコプターが飛行すると機体に空気が当たる。フロントガラスのヨーストリングが垂直であれば直進中だ。左右に傾けば、相対風を受けて横滑りしていることを意味する。斜めに向くヨーストリングの反対側に、機体が向いていると考えられる。右にひもがなびけば機体は左、左にひもがなびけば機体は右を向いている。

 旋回中もヨーストリングは横滑りを検出し、修正の目安となる。意図に反して機体が傾いた場合は、ラダーペダルを踏んで安定させる。左右のペダルを操作すると、テールローターの推力が調整され、機体の向きを制御できる。左ペダルを踏めば左に、右ペダルを踏めば右に機体が向く仕組みだ。

 テールローターは機体を安定させるだけでなく、ヨー、つまり機首の向きを水平方向に制御する役割も持つ。船のかじのような機能である。

飛行安全支える点検必須

 ヨーストリングは高感度で、微小な横滑りにも即座に反応する。そのため、計器より早くズレを検知できる利点がある。しかし、限界も存在する。強風や乱気流では表示が不安定になりやすい。局所的な乱流やローターのダウンウォッシュによる影響を受け、プロペラやローター後流による一定の偏りも生じる。

 雨や氷結、汚れによって視認性が低下する場合もある。ホバリングや低速飛行では機能が制限され、高速飛行時のような自然な風が当たる状況での有効性に比べると限定的だ。

 パイロットはヨーストリングだけに依存せず、計器や自身の感覚と併用することが求められる。コックピットの計器は横加速度を示すが、ヨーストリングは空気流そのものを視覚的に示す点で異なる。両方を組み合わせることで、より正確な判断が可能になる。

 ヨーストリングは定期点検も欠かせない。飛行前に取り付け位置を確認し、中心線と揃っているか、損傷や汚れがないかを点検する。構造がシンプルなため点検は短時間で済むが、信頼性を確保するためには必須の作業である。

飛行支えるシンプルひも

 ヨーストリングは黎明期から現在に至るまで、ヘリコプターやその他の航空機にとって非常に有効な飛行補助装置である。

 コックピットには高度な機械式計器が並ぶが、意外にもひもを貼り付けただけの装置が飛行の安全に重要な役割を果たしていることがわかる。

 ヘリコプターに乗る機会があれば、機体の前方に目を向けてヨーストリングを確認してみると、そのシンプルな仕組みの重要性を実感できるだろう。(タクヤ・ナガタ(ライター))

文:Merkmal タクヤ・ナガタ(ライター)

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みんなのコメント

27件
  • she********
    書いてある事は正しいのだがこの写真じゃどれがヨーストリングか詳しくない人には分かんねぇだろ・・・
  • tos********
    グライダー操縦経験者ですが、ウインドシールドにテープで一端を留めただけの毛糸が当たり前にありました。機体が僅かでも横滑り(ラダーとエルロンのバランスが悪い)と横に傾くので、なくてはならないもの。
    にしても、その「紐、糸」の画像が1枚も無いのは何故? 手抜き。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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