25年間も姿を隠したシャシー番号8897SF
シャシー番号8897SFが振られた、フェラーリ500 スーパーファストのパワーステアリングは、2000kmほどで故障。高速域や濡れた路面での感触が改善することを知り、オーナーのサミュエルズ氏は直さなかったようだ。
【画像】超富裕層のためのグランドツアラー フェラーリ500 スーパーファスト 同時期の250とディーノ 現行の812も 全108枚
主張される273km/hの最高速度を叶えるべく、彼はマイク・パークス氏へチューニングを依頼。しかし、実際にその速度がオリジナルで出ることが判明し、そのままクルマは戻されている。
1967年にサミュエルズはこの世を去り、2番目のオーナーとなったのがJAPエンジニアリング社のジャック・ピアース氏。リアワイパーを取り付け、ボディカラーをビアンコ・ポロへ塗り替えた。ホイールはレーシング・アロイへ交換された。
1977年に手放されると、フェラーリ・コレクターのジャック・クラウザー氏が購入。1985年まで管理し、走行距離を10万3000kmまで伸ばした。その後、複数の人物を渡り歩き、1991年にクラシックカー・コレクターが入手し仕舞い込んだようだ。
以降、シャシー番号8897SFは25年間も姿を見せることはなかったが、クラシックカー・ブローカーのサイモン・キッドソン氏が発見し購入。フェラーリのレストアを得意とするGTOエンジニアリング社へ引き取られ、2人のオーナーを楽しませた。
現在、この500 スーパーファストを管理しているのは、グレートブリテン島の南東部、グロスターシャー州に拠点を置くフェラーリ専門店。NAN 399Dのナンバーで登録し直されている。
エレガントでアグレッシブな曲線美
ボラーニ社製のワイヤーホイールへ、ドーナツのように太いタイヤが組まれている。ボディは低く滑らかで、実際以上にワイド&ロングに見える。エレガントでアグレッシブな佇まいが、強い印象を残す。
シンプルなデザインに思えるが、フロントフェンダーの峰が途切れることなく後方へ繋がり、とても魅惑的。サイドウインドウとリアガラスの関係性など、少しまとまりの悪い部分もあるとはいえ、パネルのギャップは小さく、曲線美に惹き込まれてしまう。
ホワイトのボディにタン・レザーの内装というコーディネートが、落ち着いた優雅さを引き立てている。眩しく輝くクロームメッキが、絶妙な軽快感を生んでいる。
フロントヒンジのボンネットを開くと、オイルフィルターとディストリビューターが2基並んだ5.0L V12エンジンが姿を表す。オイルフィラー・キャップが凛々しい。
搭載位置は低く後方で、大きなエアクリーナー・ボックスの下にトリプル・キャブレターが問題なく収まる。ラジエターは、耐久レース・マシンのように巨大だ。
インテリアは、この年代のフェラーリでは見慣れた雰囲気といえるが、パネル類のフィット感や仕上げの水準は非常に高い。ドアやトランクリッドを閉めると、カシリと収まる音が鳴る。高精度な仕事の表れだろう。
大きなナルディのステアリングホイールが、スッキリとしたキャビンの中で強く主張する。ダッシュボードには、所狭しとメーター類が並ぶ。灰皿には、フェラーリとピニンファリーナの旗がクロスしたロゴがあしらわれる。
聴き飽きることのないサウンドトラック
少しタコメーターを覗き込む格好になるものの、ドライビングポジションは自然。キーを挿してスターターモーターを回す。軽いフライホイールが組まれたV12エンジンが、唸るうようなクランキングノイズを響かせて目覚める。
500 スーパーファストは、想像以上に運転しやすい。幅が広く感じられ、小回りも余り利かないが、運転席からの視界は広く他の交通と交わりやすい。クラッチペダルは適度な重さで踏める。ブレーキペダルは、力を込めると素早く制動力が立ち上がる。
車内は高級感に満たされている。ステアリングホイールも重めだが、乗り心地はフラット。リジッドアクスルのリア・サスペンションは、速度域が増すほど印象が良くなる。
ステアリングの感触も同様。腕を大きく動かす必要はあるものの、ある程度のスピードが出ていれば正確に反応する。
このシャシー番号8897SFには、電動パワーステアリングが最近追加されている。軽く操舵できる反面、高速コーナーが連続するような場面では、フィルターを挟んだような印象を与える。本来なら、秀でた安定性を手応えを通じて実感させてくれるはず。
V12エンジンは、聴き飽きることのないサウンドトラックを奏でる。ボンネットの裏側に防音材が貼られているものの、アクセルペダルを傾ける前から、濃密な音響体験を提供する。
車齢を重ねる毎に印象を豊かにしていく
アクセルレスポンスは鋭い。回転は粘り強く、5速マニュアルのトランスミッションと完璧に調和している。
どっしりとした感触を伴いながら、正確にシフトレバーが動く。念のため5000rpm以下へ制限しても、30km/hから160km/h以上まで3速でまかなえる。
滑らかに吹け上がる仕草は、タービンエンジンのよう。地平線の先へ突き進むような、吸い込まれる加速へ浸れる。37台の500 スーパーファストは、この優越的な体験を選ばれしオーナーへ提供してきたに違いない。
低速域で流していると、タイミングチェーンやタペットのメカノイズが目立つ。ウェーバーキャブレターが空気を吸う響きと、12本のピストンによる燃焼音が重なる。クルマ好きなら、間違いなく感動してしまうだろう。
現在までのところ、34台の500 スーパーファストの行方が判明している。その中には、アクシデントで破壊された2台も含まれる。
筆者も過去に違う車両を目撃し、運転してきたが、今回以上に状態の良い例はないだろう。始めてステアリングホイールを握ったのは、30年ほど昔になるが。
久しぶりの体験に、完全に気持ちが奪われてしまった。500 スーパーファストは、車齢を重ねる毎に印象を豊かにしていくようだ。その事実を知ることができ、とても嬉しい。
協力:ボブ・ホートン社、キッドストンSA社
フェラーリ500 スーパーファスト(1964~1966年/英国仕様)のスペック
英国価格:1万1518ポンド(新車時)/200万ポンド(約3億6200万円)以下(現在)
生産数:37台(プロトタイプ含む)
全長:5029mm
全幅:1778mm
全高:1295mm
最高速度:278km/h
0-97km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1395kg
パワートレイン:V型12気筒4962cc 自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:405ps/6500rpm
最大トルク:41.9kg-m/4000rpm
トランスミッション:4速・5速マニュアル(後輪駆動)
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みんなのコメント
ランボルギーニのエスパーダかな?!
過去カーグラで走り続ける250LMを取材していた。
郵便車のような朱色のボディ、同色でライトが塗りつぶされていた。
凄みのあるLMだったので印象にある。
フェラーリに、耐久性能を求めてはいけない。
飾りになる為に生まれてきたのだから。