日本国内の新車販売では、トヨタの独走状態が続いている。ホンダや日産が軽自動車に力を入れ、小型/普通車の販売力が減少傾向。その結果、小型/普通車に限るとトヨタの国内シェアは約50%に達した。
このままトヨタ1強の時代が続くことは、日本の新車販売市場にどのような弊害をもたらすのだろうか? また販売力で圧倒するトヨタに対して、今後ほかのメーカーが期待を持てるカテゴリーについても考察していく。
勝てるのか!?? 脅威のトヨタ国内シェア50%! 今後の小型/普通車競争の行方と見え隠れする弊害とは?
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA、HONDA、NISSAN、平野学
新型エクストレイル販売好調!! 日産の小型/普通車のヒットに歓喜!!
2022年7月20日、ようやく日本デビューとなった新型エクストレイル。VCターボe-POWERなど、新技術も多く搭載され大進化を果たした
日産の新型エクストレイルが、発売から2週間で1万2000台を受注した。この受注速度は、エクストレイルとしては過去最速だという。ただしエクストレイルに興味のあるユーザーなら、同じボディを使う海外版のローグが、2020年に北米で発表されたことも知っているだろう。日本版エクストレイルの発売を待っていたから、受注が一気に増えた。
また先代型の3代目エクストレイルは、日本国内では2013年に発表されて2022年まで販売された。先代型は販売期間が長く、乗り替え需要も溜まっており、フルモデルチェンジを行って受注台数が伸びた事情もある。
そしてエクストレイルの好調な受注は、日産の国内販売に対して、特に大きなメリットをもたらす。2022年1~8月の販売状況を見ると、国内で売られた日産車のうち、ルークスやデイズといった軽自動車が39%を占めたからだ。
今の日産の小型/普通車では、販売が好調なのは、ノート(オーラを含む)とセレナ程度になる。今の日産は小型/普通車のヒットに恵まれていないから、エクストレイルの好調な受注は嬉しいニュースだ。
エクストレイルの好調が喜ばれる背景には、このほかにも複数の理由がある。まずルークスなどの軽自動車は、薄利多売の商品になることだ。製造コストの割に価格が安く、メーカーや販売会社の粗利も少ない。
軽自動車を古くから扱ってきたダイハツやスズキは、販売面を含めて低価格で成り立つ体制を構築しているが、日産などはそうなっていない。販売会社を維持するためにも、価格の高い小型/普通車を堅実に売る必要がある。
ブランドのイメージが変わった?? ホンダの軽重視路線は?
小型/普通車の販売が大切な2つ目の理由は、軽自動車のユーザーが、メーカーではなく車種で選ぶ傾向が強いことだ。販売店からは次の話が聞かれた。
「軽自動車のお客様は、メーカーよりも商品の魅力で選ぶため、他社の車種に乗り替えることも多い。そうなるとお付き合いも短期間で終わる。その点で小型車や普通車のお客様は、メーカーの好みも重視されるから、お付き合いが長続きしやすい。」
3つ目の理由に、ブランドイメージへの影響もある。街中で日産のエンブレムを装着した軽自動車を頻繁に見かけると、日産のブランドイメージもダウンサイジングしていく。上級車種をますます売りにくくなってしまう。
N-BOXが登場してから軽自動車の販売比率が飛躍的に高くなっているホンダ
この典型がホンダだ。軽自動車のN-BOXは、国内で売られるホンダ車の30%以上を占める。軽自動車全体なら50%を超えて、小型車のフィット、フリード、ヴェゼルを加えると、国内で販売するホンダ車の70~80%に達するのだ。
この状況が続いた結果、ホンダのブランドイメージも大きく変わった。「ホンダのミニバンなら、ステップワゴンではなくフリードでしょう」という見方をされる。この影響もあり、オデッセイ、CR-V、レジェンドといった高価格車は、かつては人気が高かったが最近は販売を低迷させた。生産も終えている。
いっぽう、軽自動車は日本独自のカテゴリーだから、商品開発も日本のユーザーを見据えて行う。海外向けに開発された車種と違って、日本のユーザーの共感を得やすい。そのために好調に販売されている。
言い換えれば、軽自動車を扱うと販売台数を増やしやすい。そこでホンダや日産は、小型/普通車が海外向けになって売れ行きを下げ始めると、国内では軽自動車に力を入れるようになった。「国内市場は軽自動車と一部のコンパクトカーやミニバンに任せる」という経営判断が透けて見える。
確かに軽自動車が好調に売られると、車検、点検、修理、保険などの受注も生じて短期的には潤うが、時間の経過に伴って、前述のように儲けが減ったり、ブランドイメージの変化が悪影響を及ぼす。
トヨタ国内シェアは驚異の50%!! この牙城を崩すジャンルはどれだ!??
ここでトヨタの国内シェアをチェックしてみたい。2022年1~8月におけるトヨタのシェアは、市場全体では約30%だが、小型/普通車に限ると約50%に達した。ほかのメーカーが軽自動車を増やして小型/普通車を減らした結果、トヨタのシェアは軽自動車を含むと約30%、除くと約50%という格差を生み出している。過去30年間のトヨタのシェアを振り返ると、以下のようになる。
●トヨタの国内シェアの推移
4輪車全体 小型車+普通車(軽を除く)
1990年 32% 42%
2000年 30% 43%
2010年 32% 48%
2020年 33% 51%
上記のとおりトヨタの国内4輪車市場全体に占めるシェアは、30年前と現在を比べて、ほとんど変化していない。一貫して30~33%で推移している。
ところが軽自動車を除いた小型/普通車に限ると、1990年は42%だったが、今は50%に達する。日産やホンダの売れ筋が軽自動車へ変化したことで、トヨタの市場全体のシェアは変化しないのに、小型/普通車市場では大幅に高まった。
このシェアの変化は、小型/普通車の国内販売ランキングにも影響を与えている。上位に入るのはヤリスシリーズ、カローラシリーズ、ルーミー、ノアなどのトヨタ車が中心だ。ほかのメーカーは、商品力はともかく、販売面でトヨタに対抗するのは難しい。
そうなると他社の商品開発は、トヨタが手掛けない軽自動車に一層の力が入り、小型/普通車の車種数はますます減ってしまう。オデッセイやCR-Vを廃止するホンダがその代表だ。逆に冒頭で触れたエクストレイルの好調な受注は、小型/普通車が衰える流れを食い止める動きとして注目される。
売れ筋路線のオラオラ顔で進化させたヴォクシー&ノアとの競争を避け、優しいデザインに仕上げたステップワゴン
トヨタが強いために商品開発が影響を受けた例として、直近ではホンダの新型ステップワゴンが挙げられる。開発者は「ミニバンを購入するお客様の71%が、オラオラ系やVIP系など存在感の強い外観を好むため、ステップワゴンは優しいデザインに仕上げた」という。
このなかの「オラオラ系やVIP系など存在感の強い外観」とは、トヨタのアルファードやヴォクシーを示している。つまり新型ステップワゴンは、敢えて29%の「存在感の強い外観を好まないユーザー」に向けて、フロントマスクを優しい印象に仕上げた。それによりトヨタ車との競争を避けて、生き残りを図ったわけだ。
しかし実際には、29%の「存在感の強い外観」を好まないユーザーにも、トヨタ車の顧客が多い。そこでノアも、エアロ仕様だけでなく、顔立ちが比較的穏やかな標準ボディも用意した。ミニバンユーザーの29%がステップワゴンを購入するわけではなく、最初からマイナー路線を狙うと、顧客層をさらに狭める危うさを秘める。それでも29%に賭けなければならないのが、軽自動車比率を50%以上に高めてしまったホンダの宿命だ。
今後の動向も気になる。まずトヨタ車が小型/普通車市場で50%のシェアを獲得すると、ステップワゴン対ノア&ヴォクシーのように、さまざまなカテゴリーでトヨタが強すぎて、競争関係が薄れる。
それでも新型ステップワゴンは、デザインに工夫を施してユーザーの選択肢を広げたが、アルファードに販売面で負けたライバル車のオデッセイのように、生産終了に追い込まれるとユーザーの不利益を招く。
日産のエルグランドも、アルファードのライバル車だが、発売から12年を経過して売れ行きを下げた。10年を超えるとフルモデルチェンジを行っても乗り替え需要を期待しにくく、ミニバン需要の先細りも考えると、エルグランドは現行型が最終モデルになる可能性が高い。
以上の状況を踏まえると、トヨタ以外のメーカーから今後登場する小型/普通車で、期待を持てるカテゴリーはSUVだ。日産ならエクストレイル、マツダはCX-5や新型になったCX-60、三菱はアウトランダー、スバルもXVの後継車種を含めて、トヨタとは異なるSUVを用意する。
もともとSUVは個性化を図りやすいカテゴリーで、新型クラウンも、SUVでありながらボディ形状は独立したトランクスペースを備えるセダンだ。SUVには多様性があるため、トヨタとの競争を避ける商品展開を図りやすい。
トヨタの販売店は全国に約4600箇所を展開するから、2100~2200箇所の日産やホンダと比較して、約2倍の販売網がある。販売力の違いは圧倒的で、日産やホンダは軽自動車に力を入れるが、それでは将来に向けて経営的に厳しい。これからはSUVを軸に、電動化も踏まえて、新たな小型/普通車の商品ラインナップを構築していくことになる。
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このライター、間違っても追及されないような役立たないことを選んで、もっともらしいことを書いている。