学生時代から始まった交通探求
現代社会は効率性と合理性が求められる時代だ。私たちは日々の生活で時間を有効に活用し、成果を最大化することを優先するあまり、心の豊かさや感情の触れあいを犠牲にしがちである。しかし、旅はそんな現実から一時的に解放される貴重な機会を提供してくれる。
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旅情とは、単なる移動や観光にとどまらず、未知の地を踏みしめ、そこで出会う人々や文化、風景と触れ合うことで生まれる深い感情のことだ。旅先での小さな発見や、異なる環境の中で感じる自分自身の変化は、合理性を超えた価値を私たちに与えてくれる。
このリレー連載「現代人にとって旅情とはなにか」では、現代人がいかにしてこの非合理的な旅情を大切にし、日常生活に取り入れていくことができるのかを探求する。さまざまな視点から旅の魅力をひもとき、心の豊かさを取り戻すヒントを提供することで、読者に新たな旅の楽しみ方を提案したい。これからの連載を通じて、旅の本質に迫り、ともにその価値を再発見していこう。
※ ※ ※
筆者(西山敏樹、都市工学者)は路線バスの専門家である。中学生の頃から路線バス事業をずっと研究対象にしてきた。
小学生や中学生の頃は、東京の実家周辺で路線バスに乗りまくり、都内のあちこちをひとりで巡っていた。そのおかげで地理が得意になった。特に鉄道では行けない住宅地や団地を探検するような、少し変わった少年時代だった。
高校生になると、さらに行動範囲を広げて路線バスで移動するようになった。混雑する観光ルートは避けて、本数が少ない生活路線にあえて乗り、楽しみながら都市や地域の現状を自分なりに学ぶようになった。
京都を例にすると、観光客でにぎわう寺院周辺には行かず、大原~朽木、岩屋橋、鞍馬~広河原、周山といった山岳地帯をひとりで巡るような、少し変わった学生だった。
今は都市生活をテーマにした学部や大学院で教えているが、今の専門領域はまさに高校時代までの経験で形成されたものだ。
地方路線バスが映す生活と経済の縮図
少年時代や青春時代にひとりで山奥の路線バスに乗ると、ほとんどの場合、常連の乗客に声をかけられるものだ。
本数が限られた路線バスを利用する人は少なく、よそ者の自分は目立つ存在になる。おそらく、どこの誰なのか気になって声をかけたくなるのだろう。こちらも
「路線バスが好きで、本数が少なく珍しい路線に乗りたくて来た」
と正直に伝えると、自然と会話が始まる。そして、
・路線バスが生活に欠かせない存在であること
・地域交通の変化
・地域産業
・経済状況
などについて教えてもらえるようになる。学生だったからこそ遠慮なく色々と質問できたのも大きかった。
地方の路線バスで終点まで行くと、本数が少ないために来た便でそのまま戻ることがよくある。その間に休憩中の運転士と話すことになるのだが、彼らも「物好きなやつだ」と思いながら接してくれる。そして、
「このバス会社にはこんな貴重な車両があるぞ」
といった話や、
「昔はこんな路線もあった」
といったマニアックなエピソードを聞かせてくれる。そうやって路線バスを通じて地域やそこにある生活を知り、住民や運転士と直接交流するなかで、自然な形で地域の生活や現状を学んでいった。 自分にとっての旅情とは、
「訪れた土地の情報を知ること」
である。その土地の生活や背景を知り、しみじみと思いを巡らせることが旅の楽しみであり、次の都市や交通に関する研究の糧にもなっていく。
地域交通が映す現地の実情
「情報」という言葉は、そもそも日本で造られた漢語だ。1876(明治9)年に酒井忠恕(ただひろ)が訳した『仏国歩兵陣中要務実地演習軌典』で初めて使われ、原語はフランス語の
「renseignement」
に由来する。もともとは軍事的な意味合いが強く、「(敵の)情状の報知」という意味を持つ言葉だった。情報とは、実際の事情や実情を知らせるものだ。
路線バスの旅は、自分にとってその土地と生活の事情を知るための貴重な情報を得る手段だった。特に路線バスを通じた自然な会話やコミュニケーションから生まれるものが多かった。しかし近年では、
・2024年問題
・モータリゼーションの進展
・新型コロナ禍
などの影響で路線バスの廃止が進み、旅自体が難しくなっている。その結果、地域住民や運転士との自然なコミュニケーションも取りにくくなっているのは、本当に残念だ。
人工的な交流場に潜む限界
一方で、鉄道の活性化を目的に、各地で既存車両を改造した観光列車が運行されるようになった。
筆者も観光列車に興味があり、公私ともに多くの列車に乗車している。観光列車では、車内で現地の食材を使った食事を楽しんだり、途中駅で地元の人たちが歓迎してくれたり、伝統芸能を披露してくれることが多い。
観光列車では、路線バスとは違って限られた時間ながらも、地域の人たちと交流する場が設けられている。ただし、停車時間が短く、業務として参加していることが多いため、自然なコミュニケーションをじっくり楽しむのは難しい。観光列車の場合、あくまで
「人工的に作られた交流の場」
に過ぎず、路線バスのように自然な会話のキャッチボールが生まれる環境とは違う。こうした環境の変化で、土地の実情を深く知るきっかけが減ってしまっているのは、本当に残念だ。
モビリティ研究を掻き立てる旅の魅力
本稿の依頼を受けたとき、「旅情」という言葉を改めて辞書で調べてみた。どの辞書にも
「旅に出て感じるしみじみとした思い。旅の情趣」
といった説明が書かれている。「しみじみ」という言葉がポイントだと筆者は考えている。心の底から深く旅先を味わえないと、“真の旅情”にはつながらないと思う。人工的に作られた場や形式的なコミュニケーションからは、心に沁みるような旅情は生まれないと感じる。
飾らない日常の生活路線バスで自然に生まれるコミュニケーションから旅情を感じ、その体験が次の土地の路線バスに乗りたいという気持ちを生む。さらに、真の旅情を得たい、感じたいという気持ちにつながっていく。一方で、どこでも似たような形式の観光列車に乗っても、いつもそうした気持ちになるわけではない。
自分にとって、各地の生活路線バスでの自然なコミュニケーションが旅情を生み、それが繰り返されることで、都市生活やモビリティについて研究したいという好奇心を掻き立ててきた。今後も生活路線のバスや鉄道に乗りながら、旅情を味わっていきたい。
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