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創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 後編

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創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 後編

オリジナルはブラックとレッドのツートーン

「以前、100S用のスペアパーツを大量に購入する機会がありました。部品が目当てで、前のオーナーから毎年のように電話をもらっていたんです。ある時、ヘッドガスケットを買おうとしていた彼が口にしたんです。クルマを買わないかと」

【画像】ワンオフの試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 同時期の英製スポーツと比較 全94枚

「もちろん、買いました」。オースチン・ヒーレー100S クーペのオーナー、アーサー・カーター氏が振り返る。ONX 113のナンバーで登録されたワンオフ・ボディは、オリジナルではブラックとレッドのツートーンに塗られていたという。

「ブラックのルーフが好きではなく、すべてレッドに塗装しています。ブラックだと、ハードトップが載っているように見えたんです。でも、スタイリングを手掛けたデザイナーのジェリー・コーカーさんに見せたら、ツートーンの方が好みだったようです」

美しいスタイリングを生み出したジェリーの意見に反対するつもりはないが、筆者もレッド1色の方が見栄えすると思う。コレクターとして熱意も知識も半端ない彼が話す通り、まとまりのある容姿に仕上がっている。

弧を描くルーフがテールエンドと一体になったボディこそ、この100Sの魅力の中心だといっていい。全体的には馴染みのあるフォルムで、モデル名もすぐに思い浮かぶ。だが、明らかに他とは異なる。オースチン・ヒーレーを知っていると、一瞬戸惑う。

非常に美しいプロポーション

間に合せで、ハードトップを溶接したようなクーペとは異なる。丁寧に仕上げられ、プロポーションは非常に美しい。リアのクオーターガラスが、筋肉質に膨らんだリアフェンダーの上へ端正に収まる。ルーフラインが呼応するようにカーブする。

固定ルーフのMGAにも通じる雰囲気がある。しかし、ひと回り大きく、よりスポーティ。真後ろから眺めると、トランクリッドが少々大きすぎるかもしれない。

「クーペのスタイリングを考案するにあたって、ソフトトップとサイドカーテン以上の安全性も得ています。スライド式のサイドウインドウは内側からロックでき、ロードスターのように車内のプルワイヤーが掴めません」

「そのため、当初はなかったドアハンドルが内外に装備されています。ドアロックも、約10年後に登場した3000スポーツ・コンバーチブルまで、オースチン・ヒーレーの量産モデルには与えられていませんでした」。とカーターが説明する。

「クーペではサスペンションのストロークを長くするため、シャシーのリア側に改良が施されています。これが量産モデルへ展開されたのは、1964年5月の3000 Mk5になってからでした」

車内を覗くと、アップライトなバケットシートに細身のステアリングホイール、トランスミッション・トンネルの奥から伸びるシフトレバーなど、オースチン・ヒーレー100の特徴は変わらない。加えて、経過した時間の風情が漂っている。

「インテリアはきれいに掃除した程度です」。レストアされ真新しい内装とは異なる、趣きが好ましい。

ロードマナーに影響を与えるクーペボディ

「わたしが経営する農場のメカニックの助けを借りて、エンジンはリビルドしています。作業はとても楽しかったです。走りは、ノーマルの100Sほどバランスが良いとは思いませんでした。少し重い感じがするんですよ」

カーターの印象には一理ある。多くの点で、クーペボディがロードマナーに影響を与えている。通常のロードスターよりボディ剛性は遥かに高い。公道を飛ばしても、乱雑な振動が伝わってくることはない。乗り心地も良いようだ。

車内は、気温が上昇しなければ快適。オースチン・ヒーレーを運転した経験を持ちなら、エンジンの熱ですぐに車内が暖かくなることをご存知かもしれない。クーペだから、その熱がこもる。

2660cc 4気筒エンジンの最高出力は、142ps以上はないと考えられている。それでも勇ましいノイズを放ち、積極的に回転する。

トランスミッションは、マイナーチェンジ後のBN2型用4速マニュアルが載っている。シフトレバーのストロークが長い。ファイナル比は3.66:1で、オプションだったショートサーキットやヒルクライム用のデフが組んである。

大きな排気量を活かし加速は力強く、4000rpmまで一気呵成に吹け上がる。ドライバー横のサイド排気で、オーバーラン時の破裂音が鮮烈に耳に届く。

大きな愛情を抱いていた創業者

100S クーペを購入後、カーターはヒーレー・モーター社を創業したドナルド・ヒーレー氏ご本人を訪問した。買い戻したいと提案されたそうだが、丁重にお断りしたという。しかし、それから数10年が経過し、そろそろ潮時だと考えている。

「100S クーペは滅多に姿を表すことがなく、それが神秘性を高めていますね。スタイリングと、創業者が所有していたという歴史で、ヒーレー・ファンを越えた魅力を放っているようです」

「とてもハンサムなクルマですし、メーカーのスペシャル・テスト・カーの1台だったという付加価値もあります。部品だけでも貴重といえるでしょう」

「ドナルドさんは、このクルマに抱いていた愛情を話してくれました。どのオースチン・ヒーレーより、運転を楽しんでいたように受け取りました。量産化されなかったことは、とても残念な結果でしたね」

ドナルドも、かつての愛車が公道を再び元気に走ることを望んでいるはず。ペランポースまでの道を思い切り楽しむことこそ、オースチン・ヒーレー100S クーペの次期オーナーにとって、最高の堪能方法だといえる。

協力:ジョー・ジャリック氏、ボナムズ・オークション、アーサー・カーター氏、ピーター・ヒーリー氏
撮影:マルコム・グリフィス氏

※この記事は2015年12月に執筆されたものです。2015年12月6月に開催されたオークションで、63万9900ポンドという高値で落札されました。

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みんなのコメント

3件
  • こういうクルマが沢山生産され、今も現存している。イギリス自動車文化の奥深さを感じます。
  • まさに「伊達食う虫も好きずき」ってやつ。感銘受けた人には珠玉の逸品だけど,個人的には,ずんぐりムックリしすぎ。
    存在感はスゴい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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