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ピュアなV8ガソリンエンジンを積んだミドシップ・フェラーリは最後かもしれない

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ピュアなV8ガソリンエンジンを積んだミドシップ・フェラーリは最後かもしれない

歴代V8モデルへのオマージュ、と言われるトリブートという車名からマラネッロの近未来戦略を紐解きつつ、京都へ。そして、東名から京都のワインディングまで、V8をミドに積む最新のフェラーリに乗った結論とは。

車名からマラネッロの近未来戦略を考察すると

自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第19回

『F8トリブート』という車名の意味を軽んじてはいけないんじゃないか。今回、このクルマを京都まで持ち帰ることになって、まず思ったことがそれだった。

先に名前を吟味しておこう。F8とはフェラーリの8気筒ということだ。マラネッロがよく使うネーミング方法で、それはいい。問題はトリブートのほうだ。それ自体の意味は尊敬のこもった賛辞や称賛、である。アーチストが出すトリビュート・アルバムやトリビュート・ソングでよく耳にする。クルマの世界でも、マツダ・トリビュートはともかく、アバルトに以前『695トリブート・フェラーリ』という限定車があった。フェラーリに敬意を表したモデル、という意味合いだった。

そうすると、F8トリブートとは、フェラーリの8気筒に敬意を表するという、なんだか自分で自分を褒めちゃっている感じになって、ちょっとした違和感を覚えてしまう。それゆえ、深読みしたくなってしまうのだ。

73年にディーノ308GT4としてデビューしたマラネッロ初のV8ロードカー。なかでもF8トリブートには“V8ツインターボ”という同じ形式のエンジンを積んだF40(フェラーリ40周年記念モデルだった)へのオマージュさえ見て取れる。それゆえF8トリブートの意味は、公式的にはフェラーリの歴代V8モデルへのオマージュ、と言われているのだ。

もしそうなのだとすれば、ナゼ今になって、車名というカタチを取ってまで自らの歴代V8モデルへの称賛を大々的にアピール(これ以上効果的な方法はない)しなければならないのか?という新たな疑問が湧いてくる。

Rei.Hashimoto合理的な結論がひとつある。もうこの世代でピュアなV8ガソリンエンジンを積んだミドシップロードカーは終わりを告げる、という可能性だ。

あながち突拍子もない想像でないことは、もう1台のミドシップV8モデル、SF90ストラダーレの立ち位置を考えてみればよく分かる。SF=スクーデリアフェラーリ、つまりはマラネッロビジネスの根幹であるフェラーリ・レーシングチームの90周年を祝ったストラダーレ=ロードカーであり、シリーズカーだ(限定車ではないということ。これ大事)。ミドに積まれているのはV8ツインターボエンジンで、3個の電気モーターを加えて1000psを発揮するハイブリッドスーパーカーである。そんなSF90が、長年マラネッロのフラッグシップモデルとして崇められてきたV12エンジンをフロントに積む2シーターモデルよりも(価格的に)“格上”とされたのだ。

マラネッロはV8ターボ&ハイブリッドを伝統のV12自然吸気よりも上に置いた。いまだかつてV8がV12の格上だったことなど、シリーズモデルではなかった(F40は限定車)。その意味するところを素直に受け止めたなら、こうなる。

これからはV8ハイブリッドがV12に変わるフラッグシップユニットになる、と。おそらくV12はラ・フェラーリのようなン億円のスペチアーレ用としていっそうハイブリッド化を進めたうえで残されることだろう。12気筒エンジンはマラネッロの魂でもあるからだ。けれども、シリーズモデルでは排ガスや騒音などの対策を今よりも徹底するべく、最上級でもV8となる可能性が高い。そのとき、現在のV8モデルは発展的にダウンサイズするほかなくなる。F8トリブートには、“締めくくり”という意味が込められたのではなかったか?

F8トリブートおよびスパイダー、そしてFRのローマおよびポルトフィーノの改良版で、メインシリーズとしてのV8エンジン搭載モデルが終わる可能性が高い。残ったとしてもそれは価格的に現在の12気筒モデル以上。気軽にはもう乗れない(12気筒はさらに! )。ほとんど同時に現れた2台のミドシップモデル、F8トリビュートとSF90ストラダーレから紐解いた、それがマラネッロの近未来戦略ではあるまいか。

Rei.Hashimotoその仕立ては毎日乗って楽しいスーパーカー

鬼を笑かしてばかりいても仕方ないので、今はまだ、V8ツインターボをミドに積むメインモデルシリーズの最新版としてのF8トリブートに注目しておこう。

F8トリブートは458イタリア、488GTBの系譜に列なっている。厳密にはフルモデルチェンジとはいえない。従来なら2世代ごとに、例えば360モデナとF430がそうであったように、プラットフォームを一新するのがマラネッロの常だった。ところが驚いたことに今回はもうひと世代使うことにした。そこにもV8シリーズ戦略の見直しのありか=時間稼ぎ、を感じるが、それはさておく。

なるほど全体のシルエットや、特にフロントスクリーンまわりは458や488と共通する。とはいえディテールが違う。エアロダイナミクスが大胆に改められた。

F154型V8エンジンは488ピスタ用と同じ最高出力720psを得た。それは多分にライバル、マクラーレン720Sを意識したものだろう。ピスタ開発で得た知見をもとにパワートレーンやシャシー制御を進化させた、とはいうものの、トラック性能を第一義としたピスタとはキャラクターが異なる。F8トリビュートは、毎日乗って楽しいスーパーカー。快適性とスポーツ性能とのバランスを高次元で計っているのだ。

Rei.Hashimoto公道では静かで快適、刺激はサーキットで

いつものように東名で京都を目指す。すでに458イタリアの登場あたりから、フロントアクスルは落ち着き始めていたとはいえ、このF8でさらに安定感は増している。ミドシップの二駆とは思えないほどに、かっちりと路面を捉え続ける印象が強い。それ以前のミドシップモデルの場合には、たとえばフロントフェンダーの峰を視点の置き場のひとつにして真っ直ぐ走っていくという、言ってみればデザインの助けも借りつつ高速クルージングを楽しむことが必要だったが、F8はそんなことをしなくても坦々と真っ直ぐ走ってくれる。ドアミラーに映るエアインテークの美しい造形を楽しむ余裕さえあった。

クルージングにおけるスイートスポットは、やはり高めだ。新東名の120km/h区間をクルーズすると3千回転以下で十分に事足りたが、気持ちのよい速度域はもう少し高めなので、気を抜くと勝手に速度違反領域で走ってしまっている。イタリアのアウトストラーダは130km/h規制だから、そのあたりが最も心地よく感じるギア比になっているのだろう。

それにしても静かだ。エンジンも静かなら、ボディが風を切る音も目立つことはなく、さらにいうとタイヤによるロードノイズも少ない。ぼーっとドライブしているとフェラーリであることを忘れてしまいそうになる。否、飛ばす気にさせないという点ですでにこれまでの跳ね馬とはキャラがまるで異なる。

音や振動というものは、クルマの速度を上げたくなるようにドライバーの心に作用する。それが抑制されているのだから、むやみにエンジン回転を上げて飛ばしたいという気にならない。突っかかってくるスポーツカーがいても、まるで英国車をドライブしているときのように、さっさと走行車線に戻るという余裕があった。フェラーリのミドシップでそんな気分になるだなんて。488ですでにそういう感じだったとはいえ、改めて凄い時代になったもんだと思う。

思い返せば、初めてF8を試したマラネッロで同乗したとき、あまりに静かで乗り心地が良いものだからあっという間に寝落ちしたものだ。そんなこと、フェラーリの試乗会ではかつてなかった。寝落ち速度でいうと、ロールス・ロイス級であった。

Rei.Hashimoto今回のドライブでも、フェラーリの運転席ではあるまじきことに何度か眠くなってしまった。ターボエンジンの囀りは低回転域でとても心地良い。踏み込んでも公道速度域ではさほど唸らせる必要がない。やむなく何度か高回転域のサウンドを聞かねばならなかった。

上に回すと聞こえてくるのはやはりフェラーリサウンドだった。しかもターボエンジンだというのに高回転域までリニアに回っていく。パワーもしっかりとついてくるから、フィーリングも文句なし。ただしそこまでやってしまうとロードカーとして楽しむ域を超えてしまうので、やはりサーキットでタマに解放してやるほかないだろう。ゆっくり走ると快適だが刺激がない。刺激を得るにはアウトバーン以外の公道では無理。最新スーパーカーが同様に抱えるジレンマである。

無給油で関西に着く。80リッター弱は入るので、高速域でリッター7km/lだとしても600km近くは走る計算だ。実際にはもう少し伸びてくれる。この手のクルマの場合、GTとしての実用性は、燃費の良さではなくタンク容量で決まると言っていい。

最新スーパーカーは飛ばさなくても良さが分かる

土曜日だったので帰宅する前に、クルマ好きの集まる京都の有名スポット「カフェセブン」に立ち寄った。集まった好き者たちもまた、その静かさに驚いたようだ。フェラーリがやってくるとその音ですぐに分かる、という時代がもうじき過去になるということかもしれない。

とはいえ、そのまま快適なツーリングを楽しんだというだけでは、せっかくの最新フェラーリを試すという機会がもったいない。カフェセブンのまわりに四方八方へと広がるワインディングロードでその性能を堪能する。

特筆すべきはそのブレーキ性能である。ガツンと効く。けれどもコントロールしやすい。効き過ぎて扱いづらいという印象がない。それでいて迅速に効く。市販車で最も良いブレーキフィールのひとつだ。それゆえ、安心して踏んでいける。

Rei.Hashimotoもちろん、720psが唸りをあげたときの加速は、激速だ。景色の流れやGの掛かり方には、もはや手に負えない感が満ち満ちている。けれども決して怖くない。シャシーの制御力がすさまじいからだ。後輪は常にその太さで路面を捉えているという感覚をドライバーに伝えてくるし、前輪はというと高速道路でのあの安定感はうそのようにドライバーの思い通りに動く。それらが、乗り手の右アシの状態に合わせて協調して働く。限界を知るには、やはり公道では話にならなかった。

静かに、そして快適なドライブを楽しむことにも長けている。翌日、ボクは美山までドライブした。木々に囲まれ緩やかに続くカントリーロードを、流れに乗って走らせる。それだけでいいクルマだと知れる。ああ別に飛ばさなくてもこのクルマの良さは分かるんだな。それこそが最新スーパーカーの要諦でもあった。

赤い跳ね馬はいまなおどこへ行っても注目の的。ならばやはり公道では紳士的なドライブを心がけたほうが良さそうである。

文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic

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