際立つモデルを生み出してきたランボルギーニ
ランボルギーニは、斬新なスタイリングやカラーリング、圧倒的なパフォーマンスで、常に際立つモデルを生み出してきた。同時に、自然環境への負荷を減らすことにつながるとしても、ドライビング体験へ影響を及ぼす新技術の導入には否定的でもあった。
【画像】ランボルギーニ・エスパーダとアヴェンタドール 歴代のミドシップ・モデル イスレロも 全141枚
エンジンのダウンサイジング、高効率なターボチャージャー、電気の力を借りたハイブリッド・システム。ランボルギーニは、これらに背を向けてきた。最近までは。
しかし2022年、同社はアヴェンタドール・ウルティマエで、半世紀以上も進化を重ねた自然吸気のV型12気筒エンジンへ別れを告げた。現在は、設計が一新されたユニットを積んだ、ハイブリッド・スーパーカーの開発が終盤にある。
次世代への試乗が許されるまで、もう少し時間がある。イタリア北部、ボローニャ近郊に位置するランボルギーニ本社へ赴き、エスパーダとアヴェンタドールを比較する、絶好のタイミングだといえる。当初365psだったユニットは、780psまで増強されている。
牧歌的なサンタアガタにスーパーカー・メーカーが誕生したきっかけは、トラクターで財を成したフェルッチオ・ランボルギーニ氏が、フェラーリの品質へ疑問を抱いたことだった、というのは広く知られた事実だと思う。クラッチプレートの耐久性で。
ビッツァリーニが設計したV型12気筒
労働環境への不満が募り、フェラーリでは大規模なストライキが1961年に発生。有能な技術者を少なからず失っていた。そのタイミングで、独自のスーパーカーを作ろうと考えたフェルッチオは、幸運に恵まれたといえる。
ランボルギーニは能力に長けた技術者、ジオット・ビッツァリーニ氏を招き入れることが叶った。彼には、設計がほぼ完了していたF1用の1.5L V型12気筒エンジンをベースに、大排気量ユニットを生み出すという任務が与えられた。
ビッツァリーニは4か月でフェルッチオの要望に応え、当時のフェラーリ製V12ユニットを上回る性能を引き出した。排気量は3464ccで、ダブルローラー・チェーン駆動による2本のカムが、2列のシリンダーヘッドに組まれていた。
新しいエンジンがお披露目されたのは、1963年のイタリア・トリノ・モーターショー。最高出力は、その頃としては秀抜な365psを達成していた。ところが、ビッツァリーニはランボルギーニに長くいなかった。
気分屋として知られており、レース用エンジン以外の設計を依頼されたことで、フェルッチオとの関係性を悪化させたという説がある。ライバルメーカーのイソから、単に魅力的な移籍の誘いを受けただけだったと考える人もいる。だが、定かではない。
ビッツァリーニの後任を担ったのは、こちらも有能なジャンパオロ・ダラーラ氏。1964年の発表に向けて設計が進んでいた、フロントエンジンのランボルギーニ350GTへV12エンジンを適合させる仕事が任された。
過小評価されてきた2+2のエスパーダ
ダラーラは、ドライサンプ・オイルシステムをウェットサンプ式へ置き換え、ダウンドラフトのウェーバー・キャブレターをサイドドラフトへ変更。280ps/6500rpmを発揮するよう、マイルドにデチューンを施した。
量産が始まると、排気量は程なくして3929ccへ拡大。このユニットは後継モデルのランボルギーニ400GTへ採用され、ミドシップのミウラにも積まれた。その後、FRレイアウトのエスパーダとイスレロ、ハラマのボンネットにも収まった。
最高出力は、主にカムシャフトの違いでモデル毎に調整され、最もハイチューンな状態といえたミウラ SVでは390ps。初期のカウンタックの動力源にもなった。
1968年に発表された2+2のグランドツアラー、エスパーダは、華やかな2シーター・スーパーカーたちの陰になり、過小評価されてきたランボルギーニといえる。しかし最近は、エキサイティングなクラシックカーとして注目を高めている。
低く長いボディには4脚のシートが組まれ、フロントにはスーパーカーと同じV12エンジンが収まる。マルチェロ・ガンディーニ氏が描いたスタイリングは、2023年にあっても魅惑的。ベルトーネ社のコンセプトカー、マルツァルがその源にある。
今回ご登場願ったエスパーダは、1973年式。後期に当たるシリーズ3(S3)だ。
低く寝かされたバケットシートはレザー張り。着座位置は極めて低く、アスファルトでお尻を擦らないか少し心配になる。見惚れるほど長いボンネットが伸び、左右に切り込まれたNACAダクトが、タダモノではないことを想起させる。
遥かに野性的で、厚みがあるサウンド
前方で熱を放つのは、3929ccのV型12気筒。各バンクに2本のカムが組まれ、その上部に6基のツインチョーク・ウェバー・キャブレターが整列する。最高出力は370ps/7500rpm、最大トルクは41.4kg-m/5500rpmがうたわれた。
ボローニャ郊外の一般道を走らせる。エスパーダのボディは、圧倒されるほど幅が広く感じられるが、実は1867mmしかない。
アクセルペダルを少し傾けるだけで、4本出しのマフラーから聴き応えのあるシンフォニーが奏でられる。発売当時は、世界最速の4シーターモデルだった。0-97km/h加速を6.5秒でこなし、最高速度は254km/hに届いた。
フェラーリのV型12気筒のように、完璧に調律された音色とは異なる。遥かに野性的で、厚みがある。荒々しい雄牛のロゴと、よく似合う。
パワーステアリングが装備され、ステアリングホイールは軽すぎるかもしれない。大きなボディを、車線の中央には留めやすい。
重心位置は今の基準でも低く、前後の重量配分は52:48と理想的。前後ともダブルウイッシュボーン式のサスペンションが長いボディを支え、優れたシャシーの能力を簡単に引き出せる。
見た目の印象を裏切るほど、エスパーダの身のこなしは敏捷。乗り心地はしなやかでも、ボディロールは最小限だ。
タイトコーナーからの立ち上がりで右足へ力を込めると、フロントノーズを小さく震わせ、怒涛の突進が始まる。躊躇なくノイズを撒き散らしながら。
この続きは後編にて。
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