930時代の最後に作られた、フラッハバウ+カブリオレの特装モデル
自動車エンスー界において毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」では、中核イベントである「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」や「ラグナセカ・モータースポーツ・リユニオン」にくわえて、欧米を代表する複数のオークションハウスが、カルフォルニア州モントレー半島の各地でクラシックカー/コレクターズカーの大規模オークションを開催しています。そんななか、RMサザビーズ北米本社が2024年8月15日~17日にモントレー市内で開いた「Monterey 2024」オークションでは、このAMWのオークションレビューでも近ごろ常連と化しつつある空冷「911」のフラットノーズに、さらにカブリオレ仕様というスペシャル要素満載のポルシェが出品されていました。
1億円オーバー! 予想を上回る価格のRUF「BTR III」は「フラットノーズ」「カブリオレ」「ターボS用リアエアダクト」の3つの特徴を備えたレアな1台でした
スペシャルな顧客のリクエストで創り出された、スペシャルな911 ターボとは?
ポルシェ「911 ターボ “フラットノーズ”」は、1970年代半ばに国際自動車連盟(FIA)「グループ5」による耐久レース選手権に向けて、「930ターボ」のレースモデルという建前で開発され、世界を席巻した「935」レーシングカーへのオマージュである。その大成功を受けて、当時のレース活動のスポンサーをはじめとする顧客たちは、ロードゴーイングバージョンを切望したという。
いっぽう、この時代にポルシェが用意した「エクスクルーシブ・マヌファクトゥール・プログラム(Exclusive Manufaktur Program)」は、時として「Sonderwunsch(ゾンダーヴンシュ=特別な願い)」と呼ばれ、930シリーズのオプションパッケージを担っていた。その結果、エアロダイナミクスに優れた935を模したボディワークを与えられた「911 ターボ」が登場する。
ドイツ語で「フラッハバウ」とも呼ばれる「フラットノーズ」では、ルーバーを切ったスチール製フロントフェンダーがボンネットとほぼ同じ高さに作られ、リトラクタブル式の2灯ヘッドライトが装着された。
ロッカーパネルはボックス形状のスカートとなり、ワイド化されたリアクオーターパネルに合わせて延長され、サイドストレーキ付きのブレーキ冷却用ベントとオイル冷却用の電動ファンが新たに装備された。また、前後ともワイドなホイールとタイヤが装着される。
1981年から935風スタイルのフラットノーズがヨーロッパ市場のオプションとしてデビューすると、ほんの数カ月のうちに、ポルシェには顧客からのオーダーが殺到する。当然のことながら、これらの「フラッハバウ」を注文したのは、一般的に最も裕福な顧客層であり、多くの場合ファクトリーアップグレードが施されていた。
そして1987年、ポルシェはついに北米向けにも「フラットノーズパッケージ」(オプションコードM505)をカタログに追加した。
この時代の930/911ターボを網羅した書籍『Porsche 911 Turbo: Air Cooled Years 1975-1998』によれば、1987年から1989年までに北米向けに生産された台数は、合計618台と意外なほどに多く、うち356台がクーペで235台がカブリオレ、27台がタルガだったとのことである。
予想よりはちょっとお安め、でも4000万円の壁は超える……
このほどRMサザビーズ「Monterey 2024」オークションに出品された個体は、1989年モデルとして北米向けに生産された、わずか76台のフラットノーズ・カブリオレのうちの1台とのことである。
エクステリアは、魅力的な特別注文色の「バルチックブルー・メタリック」で仕上げられ、ベージュのビニール/本革混成レザーインテリアとマッチしている。カラーコーディネートされたフックス鍛造ホイール、ダークブルーのソフトトップとインテリアトリムのディテールが組み合わされ、この時代の911のなかでも、なかなか見事な存在感を示しているといえよう。
また、この個体には「M505フラットノーズ」パッケージのほか、ストロークを短縮したクイックシフトレバー、運転席側ランバーサポート、しなやかな本革/ビニール混成のレザーシート、「ブラウプンクト・レノ(Blaupunkt Reno)」カセットステレオ、追加アンプ、リミテッドスリップ・ディファレンシャルがメーカーオプションとして装備されていた。
ただ、ローマ数字表記の計器類が取り付けられているようだが、これはアフターマーケット商品とのこと。落札者の希望に応じて、アラビア数字表記の純正品に交換可能とされていた。
アメリカ合衆国での登録履歴を調べられる「カーファックス」レポートの記載によれば、この911 ターボは現在に至る生涯のほとんどをニューヨークとその周辺で過ごしてきたようだ。
オークション公式ウェブカタログの作成時点では、走行距離はわずか2万484マイル(約3万3000km)と年式のわりには少なめで、特別なカラースキームを持つこの希少なフラットノーズ カブリオレをさらに魅力的なものにしている。くわえてエアコンプレッサー、純正のツールロールとカーカバー、オリジナルのマニュアルと保証書も付属するとのことであった。
この希少な911ターボ・フラットノーズ・カブリオレのオークション出品に際して、RMサザビーズは30万ドル~35万ドル(邦貨換算約4400万円~5180万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、モントレー市内の大型コンベンションセンターで挙行された競売では、出品者側が期待していたほどにはビッド(入札)が集まらなかったようだが、それでも終わってみればエスティメート下限を少しだけ割り込む29万1000ドル。すなわち日本円に換算すれば、約4160万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。
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