「伝統」のスカイラインか「高級」のISか
国産のプレミアムセダン市場が面白くなっている。まず、2020年秋に2度目のビッグマイナーチェンジを受けたレクサスISの評判がすこぶる良い。 ISはレクサスブランドのセダンのなかではエントリーモデルに位置付けられ、従来型は「高級ブランドの比較的お安いモデル」という印象が強かったが劇的に良くなっているという。一方、ライバルのV型スカイラインは2019年にインフィニティからニッサンにバッジを戻しながら大改良。400Rという硬派なスポーツグレードを設定するなどして話題となった。
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いずれも現行型としてデビューしてから7年以上になるが、良い改良を重ねてきたように思う。冷え込んで久しい国産のセダン市場と異なり、ドイツ御三家のセダンはSUV全盛にあってもなお一定の人気を保っている。その理由はブランド力もあるが、見た目の格好良さと「本物」を感じさせる走行性能の高さだ。日本を代表するプレミアムセダンは、改良を重ねた結果「本物」の乗り味が出せるようになったのだろうか。ISにもスカイラインにも純ガソリンエンジンのスポーツグレードが用意されるが、これからの時代を見据えて今回は両者ともハイブリッドで比較してみた。
初出:CARトップ2021年4月号
レクサスIS300h:作り手の思いの良さが伝わってくる
首を傾げたくなる国や都の方針とは関係なく、オレ自身はガソリンエンジンに電動トルクをプラスしたハイブリッドは今、そしてこれからも本命になると強く感じている。 ガソリンエンジンの気持ち良さに電気モーターならではの厚みのあるトルクを増してパワフルに走り、かつ大人しく走れば燃費が抜群に良くなるというのはパワートレインとして理想的。多くのクルマ好きが受け入れやすい。
今回試乗したレクサスISはハイブリッドの300hで、まずは見た目の変化が好印象。レクサスの象徴、スピンドルグリルを良い感じに際立たせながら、上質さとスポーティさを上手く高めている。圧巻だったのは、峠道を軽く流したときの走りの良さだ。 クルマが動き出した直後から予想以上に乗り味が良くてビックリ! とにかく乗り心地が上質で、優しさを感じさせる。足はほどよく引き締まりながらも驚くほどしなやかで、とても優しい乗り心地なのに頼りなさは感じないなど絶妙の仕上がり。従来型とは別モノになった。本物のプレミアムセダンと呼べる高級感がしっかり出せている。 従来型には「比較的安いモデルだから」と割り切りのようなものが感じられたが、最新型は作り手の気持ちや志の部分から激変したと思えてならない。レクサスのセダンとしてはGSをやめてしまったことでISを底上げしようとの狙いがあるのだろうが、もっと高い志というか、作り手の思い入れの強さが伝わってくるのだ。
この走りの良さをもたらしているのは、デビューが2013年とは思えないほど強くてしなやかになったボディと、そのボディに合わせ込んだセットアップの巧みさだ。ただ単にボディ剛性を高めただけではなく、ボディのしなりや捻れに上手く反応する足の調律が巧くなった印象だ。今回のISはホイールナットをボルトに変更したというが、オレの経験上、そこはいくら変えても走りはあまり良くならない。モデューロの開発でも散々やったから良くわかるが、ボディと足に合った剛性や重量配分を持つホイールを履かせることのほうが大事で、ISはそのあたりのバランスも良いはず。 惜しむらくはパワートレインか。上質さや実用トルクの面では不満はないが、走行モードをスポーツ寄りにしても今ひとつパンチ力に欠ける。ハイブリッドの利点を活かし、電気モータートルクをもう少し強く発揮させて、新しい世代のプレミアムサルーンを演出してほしいと感じた。
日産スカイラインハイブリッド:わかりやすいスポーツ性はとても良い
国産プレミアムセダンのもうひとつの雄、スカイラインGTに乗ると、わかりやすいスポーツ性がとても印象的だ。ボディにも足にもビシッと引き締まった堅牢感があり、無駄な動きを排除した雰囲気で、いかにも走りを重視したセッティングであることが伝わる。 エンジンは3.5Lと排気量が大きいこともあって加速力にパンチがあり、電気モーターの上乗せ分もしっかりと効いている感覚が心地良い。重い車重を重厚感として上手く活かしながら、スカイラインらしいスポーティなハンドリングが楽しめる。 やや古典的とも言えるが、これはこれで十分アリだと思えるし、元走り屋のオトナは好きになれる乗り味だ。決して名ばかりのGTではない。依然として気になるのはステアリングフィール。ステアリングの動きを電気信号に置き換えてタイヤを操舵する、いわゆるバイ・ワイヤ式のステアリングの手応えに違和感を感じる。 ハンドリングそのものは軽快で正確性も高く、路面からの情報も必要なぶんは得られるのだが、操舵量が多くなった際にグニャっとした手応えを伴うところが気になった。オーナーならすぐに慣れる程度だし、これが世界初の市販車向けバイ・ワイヤのステアリングフィールなのだと思えば悪くないとも言えるものの、さらなる自然な手応えを目指して改良してほしいところだ。ISの甘美な手応えのステアリングを握るとなおさらそう思った。
まとめ:本物のプレミアムセダンに望むこととは?
話をまとめると、総じて両者ともになかなかに個性的で、とても良いプレミアムセダンに仕上がっていると評価できる。しかし、本当の意味で「本物」のプレミアムセダンになっているかどうかは、まだわからない。 サーキットで挙動を制御する電子デバイスをカットした状態、つまりクルマとしての素の運動性能の高さもしっかり高められているのかをチェックしてみたいものだ。これまでの国産プレミアムセダンは電子制御ありきのセッティングで、オフにするとたちまち馬脚を露わす。公道ではそれでも困らないわけだが、基本的な素の性能を高めた上で電子制御で盤石とするのがクルマ作りとしては正しい。本物のプレミアムセダンにはそれを望みたいと思っている。
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