第18回コッパディ東京に登場した白眉の1台
うちわのオフ会から大々的なサーキットイベントまで、昨今は我が国でもヒストリックカーイベントが花盛りだが、中でも全国をまたにかけて開催され、内容的にも上質で非常に充実したイベントとして知られるのが『SERIE DI COPPA GIAPPONE(セリエ・ディ・コッパ・ジャポネ)』だ。日本訳すれば『日本杯シリーズ』。その名の通り京都や名古屋、八ヶ岳などの各都市で年間5回ほど開催されるラリー形式の走行系イベントとなる。
【画像】ベントレー4 1/2リッター第一号車『オールド・マザー・ガン』と第18回コッパディ東京の様子 全67枚
そんなシリーズ、2024年の最後を締めくくるのが11月23日(土・祝)に開催された『第18回コッパディ東京』だ。スタート&ゴールは東京汐留にあるイタリア街の一角、汐留西公園。エントラントはここを起点に芝の増上寺や東京タワー、神田明神や上野公園、浅草雷門など都心の名所を、コマ地図に従い自慢の愛車で巡るという趣向だ。
今回のイベントにも1926年式ブガッティT13ブレシアから1975年のディーノ208GT4まで、100台を超える古今東西のヒストリックカーがエントリーリストに名を連ねた。一連のブガッティをはじめ、ランチア・ラムダ、フィアット508S、オースチン・セブン、MG J2ミジェット、アルビス4.3リッター、キャデラック・フリートウッド60スペシャルといった貴重な戦前のモデルが数多く参加すると言う点でも、このコッパディ東京は一見の価値ありなのだが、今回のイベント参加車の中でも白眉の1台が、1927年式ベントレー4 1/2オールド・マザー・ガンだ。
1927年6月に当時の会長ウルフ・バーナード名義で登録
現車は1927年製。ロールス・ロイス傘下に収まる前であるW.O時代の生粋のベントレーという点でも貴重な存在であるが、さらに特筆すべきはこの個体の持つ来歴。レジストレーションナンバー『YH 3196』を掲げたこのクルマは、当時のベントレー会長ウルフ・バーナード自身の名義で1927年6月に登録されたもので、4 1/2リッターのプロトタイプにして第一号車である。
このYH 3196はさっそく1927年のル・マンに出走しそのポテンシャルを見せつけたが、不幸にも多重クラッシュに巻き込まれリタイヤ。しかしレース後に修復が行われ、捲土重来を期してエントリーした翌1928年のル・マンでは、バーナート・ルービンとウルフ・バーナード自身のドライブにより総合優勝を遂げ、見事リベンジを果たしている。ちなみに『オールド・マザー・ガン』とは、当時のベントレー・ボーイズやワークスチームのスタッフがこの個体につけたニックネームである。
そのような貴重な個体がなぜ日本に? と思う方もいらっしゃるかもしれないが、オーナーのお名前を聞けば納得だろう。その方こそクラシック・ベントレーとロールス・ロイスのコレクターとして世界的にも知られ、日本におけるベントレーとロールス・ロイスのレストア、メンテナンスの第一人者でもある涌井清春さんなのである。
生き様を通して発信し続けてきた涌井清春さんだからこそ
涌井さんのコレクションにこのオールド・マザー・ガンが加わったのは2007年初頭のこと。イギリス人にとってこのモデルが国外にあると言うことは、日本人にとって東大寺や法隆寺が海外に移築されているのと同じくらい大変なことであろうと容易に想像がつく。
しかし30年以上の長きにわたり、日本にも古いクルマを心から愛する人間がいるのだと言うことを、その生き様を通して発信し続けてきた涌井清春さんだからこそ、彼の地の人々も「彼だったら心配ない」と思ったのだろう。日本に棲みついて17年ほどになるオールド・マザー・ガンだが、今まではミュージアムの中にいることが多く、今回のような公道走行イベントに参加するのは初めてだと言う。
「自分のコレクションの中でも究極、特別な1台ということもあり、今までは畏れ多いとあまり外に連れ出してこなかったのです」と涌井さん。しかし、ヒストリーを持ったクラシックカーは美術作品などと同様、オーナーは未来への伝承のために一時的に預かっているに過ぎないとも考える涌井さんである。
「自分ももう決して若くはないので、これからは出来る限りこういったイベントにも参加してオールド・マザー・ガンのことを広く知らしめ、後世に託す準備も必要だと思いましてね。実際に公道を走ってみるとシャシーの剛性感は高く、トルク感も大きい。サスペンションもハードで、そこはやはりワークスのレーシングマシンですね」と語ることができるのも、長年数多くのW.O.ベントレー作品と付き合ってきたから涌井さんだからこそだ。
こうした経緯で2024年の東京に降り立った1928年ル・マン優勝車、1927年式ベントレー4 1/2オールド・マザー・ガン。当日の走りを見られた者は、まさに眼福であろう。
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