■新型フェアレディZを北の大地で試乗してみた
2022年1月に日本仕様が発表された日産新型「フェアレディZ」。同年4月には全グレードの価格が明かされました。
しかし、同年7月には半導体不足やコロナによる影響や、予想を超える注文により7月末日をもって一時停止となっています。
そんな新型フェアレディZですが、先代モデルからどのような進化を遂げているのでしょうか。
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1969年に登場、50年以上に渡ってその歴史を積み重ねてきたフェアレディZ。その最新モデル・7代目新型フェアレディZに試乗してきました。
試乗ステージは北海道・陸別町にある「日産北海道陸別試験場」にある高速周回路とカントリー路。欧州の道路を忠実に再現しており、現地の道を知る人なら「あっ、そうそう」と思うような道路環境です。
おまけに試乗日は雨と400psオーバーのFRにとっては厳しいコンディションです。
試乗前に実車をチェックです。
日本刀をイメージした引き締まったプロポーションと歴代モデルのオマージュ(フロント周りは初代、リア周りは4代目)をバランスよく織り込むことで、過去と未来を上手にバランスされたデザインに仕上がっています。
個人的にはプロトタイプより量産車のほうがカッコいいと思う数少ない1台です。
ボディカラーは豊富に用意されていますが、個人的なツボは「バーガンディ」。初代のマルーンを思い出す色で、イエローやブルー、レッドの元気な印象に対して、大人の渋さを感じさせます。
インテリアは横基調の機能的なレイアウトでどことなく2/3代目の絶壁インパネの面影が残るデザイン。
メーターは12.3インチのフルデジタルディスプレイを採用する一方、伝統の3連メーターはアナログのままと、エクステリアと同じく過去と未来をバランスさせました。
実際に運転席に座ると、視界に余計な物が入ってこないため、タイトなのに開放感があるという不思議な感覚。
ステアリングやシートも体にスッと馴染む感じで、形状や触感に相当こだわっていることがよく解ります。
では、実際に走ったらどうだったのでしょうか。
ちなみに新型の車両型式はZ34、つまり形式上はビックマイナーチェンジですが、個人的には5代目→6代目の進化幅よりも大きいです。
先代、先々代はスポーツカーのパフォーマンスは備えていましたが、すべてにおいてよくいえば「豪快」、悪くいえば「大味」な部分が否めませんでしたが、新型は豪快さをシッカリと残しながら最新スポーツカーらしい繊細で滑らかな乗り味に仕上がっています。
エンジンは405ps/475Nmを発揮する3リッターV6ツインターボでスペック的にはスカイライン400Rと同じに思えますが、実際に乗ってみると「似て非なる物」です。
歴代最強といっていい絶対性能の高さはいうまでもありませんが、それよりもいい意味でターボらしさを感じない段付きのないトルク感とアクセルの応答性の良さ、思わす回したくなる伸びの良さとサウンドと、官能的で繊細な特性に仕上がっています。
ちなみにターボチャージャーにはスピードセンサーを装着、3連メーターには珍しい「ターボ回転計」が表示されており、視覚的にも楽しめます。
6速MTは先代の改良版ですが、先代のゴリゴリした印象は薄れ、硬質なタッチながらもスッとシフトが入るフィールでリズムが取りやすくなっています。
シフトダウン時に回転を同期させるシンクロレブコントロールの制御も進化。先代は「オレも負けてないな」というレベルでしたが、新型は正確性が高く「トータルでは敵わない」レベルです。
9速ATは、大型SUV「タイタン」をベースに新開発されています。
実は当初は先代の7速ATを改良して搭載予定でしたが、開発陣は「やっちゃえ日産」したそうです。
レシオカバレッジ(変速比幅)は世界最大の9.0となり、シフトの繋がりの良さはもちろん、エンジン特性とのマッチングはMTよりも上だと感じました。
滑らかさよりもシフト感(シフトショックではない)があることや、走行状態に合わせたシフト制御(緩いブレーキだとシフトキープ、強いブレーキだとシフトダウン)など、心地よいATです。
先代は「ゆったり乗るためのAT」でしたが、新型は「スポーツするためのAT」です。正直MTとAT、選択は相当悩むと思います。
■フットワークやハンドリングはどうなのか?
フットワークはどうでしょうか。基本骨格は先代を踏襲と熟成方向の進化に思えますが、実際には車体はフロントセクションやリア開口部周りはほぼ新設計。
サスペンションはジオメトリ変更やモノチューブショックアブソーバーの採用、そしてラックアシストEPSの採用など、ほぼ刷新されています。
この辺りは開発陣のずるがしこさですが、「知り尽くしたリソースを活かしきると『1+1=3』になる」を実感する走りです。
現代のスポーツカーに求められる重要な要素は「一体感」と「高揚感」のバランス、GTカーに求められる走る場所/環境を選ばない「安心感」と「懐の深さ」、そしてコントロールのしやすさにも繋がる「過渡特性」ですが、新型は着実にレベルアップしています。
ただ、単に洗練されただけではなく、ハイパワーFRの豪快さや火傷しそうなドキドキ/ワクワクつまり“Zらしさ”は薄れていません。
直進時はステアリングに軽く手を添えているだけでビシーッと走ります。Z初となるEPS採用のステア系は、操舵力こそ最近のクルマにしては重めですが、先代よりは軽くなっており、操舵感もいいベアリングに変えたかのような滑らかさとスッキリ感があります。
アウトバーンを模した高速周回路は路面状態がさまざまなですが、硬質ながらも足が良く動いて路面をいなしている印象で質の高い乗り心地になっています。
その結果、外乱の影響も受けにくくハイスピード領域も緊張感なく安心。この辺りはモノチューブダンパーの特性を活かした独自のサスペンションセットアップ(ガス圧を活かした柔らかめの減衰設定)と「GT-R(R35)」のノウハウを応用した空力操安が効いているのでしょう。
ハンドリングはどうでしょう。
まずコーナリングの一連の流れに連続性があること、そしてまるで前後重量配分が適正されたかのようなバランスの良さを実感します。
先代は車体/サスペンション共にどこか突っ張った印象で、それが故に細かい操作が難しかったのですが、新型はその辺りがすべてクリアになっておりとにかく繊細な操作にクルマが忠実に反応します。例えば、白線に沿ってのコーナリングなどは実にお見事にこなします。
先代はウエット路面などでは「いつ破綻するの?」とドキドキしながら走っていたのを覚えていますが、新型は常に冷静です。
といっても、400psオーバーのFRなので常に安定志向ではなく、ラフなアクセル操作をするとクルマは不安定な方向(=オーバーステア)になりますが、そのときの動きも唐突な物ではなく対処できるレベル(もちろん最後は電子制御が作動)なので、十分コントロールできる範囲にあります。
つまり、安心を担保しながらFRの旨味をシッカリと味わえます。ただ、その限界は相当高いので、無理は禁物。
ちなみに18インチと19インチ両方試乗しましたが、大きな違いはなく、強いていえば18インチはクルマの動きは穏やか、19インチは応答性の鋭さ、減衰感のある乗り心地や見た目のカッコよさがあり、総合的なバランスという意味では19インチのほうが優れていると感じました。
※ ※ ※
個人的には先代とは別物で「Z35」と呼んでいいと思っています。
それは応答性が高いエンジン/トランスミッション、剛性アップよりも剛性バランスや力の流れが適正化された車体、それに合わせてセットされたサスペンション、細かい操作を可能にするステア系など「●●が凄い!!」ではなく、さまざまな要素が統合的に絡み合って実現。つまり「フェアレディZとしていいよね」というクルマになっています。
細かいことをいえば、「運転支援デバイスがプロパイロット2.0だといいよね」、「ハンドリングは安定/楽しさのバランスがもう少し欲しい」、「性能/環境のバランスはもう少し考えたいよね」と気になる所が無いわけではありませんが、新型フェアレディZの歴史が続いた。
そして、クルマの開発は愚直にやること、基本に立ち返ること、そしてパッションが重要だということを、改めて実感しました。
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