■シトロエンの名車「DS」の後継車として「SM」は企画された
2020年は、自動車界における「アニバーサリーイヤー(記念の年)」の当たり年といえるだろう。自動車史上に冠たる名作たちが、記念すべき節目の年を迎えることになった。
個性派として知られるブランド、シトロエンのなかでももっともアヴァンギャルド的なモデルとして、コアなファンからは熱愛されるシトロエン「SM」もそのひとつ。1970年にデビューし、今年でちょうど50歳となった。
そこで今回は、われわれVAGUEでその誕生ストーリーを紐解き、シトロエンの歴史に輝く1台への敬意を表することにしたい。
●オートルートの女王の座を守るため
今では事実上途絶えてしまっているが、かつてのフランスには「グラン・ルティエ(Grand Routier)」と呼ばれる自動車のジャンルが存在した。
第二次大戦前後の「ドライエ」や「ドラージュ」、1950-60年代の「ファセル・ヴェガ」などに代表されるこのジャンルは、英語の「グランドツアラー(Grand Tourer)」に近いニュアンスながらスポーツ性を希求することなく、よりゴージャスで耽美的なクーペ/デカポタブル(カブリオレ)たちによって体現されていた。
一方1919年の創業以来、アヴァンギャルドながら実用本位のクルマ創りをおこなってきたシトロエンだが、一度だけ、結果として極上のグラン・ルティエになるモデルを上梓したことがあった。それが今を去ること半世紀前、1970年にリリースされた「SM」である。
SMの誕生から15年前、1955年にセンセーショナルなデビューを果たしたシトロエン「DS」シリーズは、アヴァンギャルドの極みのようなクルマながら、同時代のヨーロッパを代表する大ヒット作でもあった。
しかし、その唯一最大の弱点は絶対的なアンダーパワー。DSに搭載されたパワーユニットは4気筒OHV、最終期に設定された2.3リッター燃料噴射版でも130psという、例えばメルセデスなど他国のライバルたちに比べれば大人しいものだった。
この時代、ドイツの「アウトバーン」からフランスの「オートルート」、さらにイタリアの「アウトストラーダ」まで高速道路網が急速に発展していたヨーロッパ大陸において、シトロエンDSがデビュー当時から君臨していた「オートルートの女王」の地位からいずれ陥落してしまうのは、火を見るより明らか。それは、マーケットにおける訴求力にも影響が及ぼしかねない問題と見られていたのだ。
そこでDS、あるいは「2CV」らの生みの親でもあるシトロエン社技術陣トップのアンドレ・ルフェーブル主任技師は、部下であるジャック・ネ(Jacques Ne)技師とともに、高性能・高級モデルの開発に着手することになった。
DSのデビュー翌年、1956年から早くも立ち上がったプロジェクトでは、後輪駆動も含めた可能性が模索されたというが、最終的には当時の市販車では初となる「200km/hオーバーを可能とする前輪駆動車」が目標となっていく。
ネ技師は、DS用シャシー/ボディを短縮した試作車で開発作業をスタート。「ハイドロニューマティック」による完全油圧作動のサスペンションとブレーキシステムはDSと共通。サスペンション形式もDSと同じものとされることになったが、一方パワーアシスト付きのステアリングは、クイックなギア比とされながらも高速走行での安定性を向上させるべく、高度な油圧制御をおこなう速度可変式に進化。
また、ステアリング舵角を油圧で常に中立に戻そうとする「セルフセンタリング」機構も、はじめて採用されることになった。
しかし絶対的なパフォーマンス向上のためには、心臓部のレベルアップは必須条件である。そこで、2CV用エンジンの開発も指揮したヴァルテル・ヴェッキア技師は、まず本来はOHVヘッドを持つDS 21用の2.1リッター直列4気筒エンジンに、16バルブ+4キャブのDOHCヘッドを組み合わせた高度な試作エンジン「15N」を1961年に完成。社内で「モデルS」と呼ばれていたDSベースのクーペ型プロトタイプに搭載して、実際に180km/hの最高速をマークしたとされている。
ところが、それでも満足には至らなかったシトロエン首脳陣は、イタリアの高級スポーツカーメーカー「マセラティ」と資本提携を締結。実質的な子会社となったマセラティに高性能エンジンを開発させるという、まさに「おきて破り」の方策に打って出たのである。
■マセラティのエンジンを搭載した「SM」とは、どんなクルマ?
マセラティ社との提携契約が結ばれたのは、1967年のことだった。こののちマセラティ社の主任設計者ジュリオ・アルフェエーリは、完成を急ぐシトロエンの要請に応えて、既存のV型8気筒エンジンから2気筒を削り、落としたかにも見える、新しいV型6気筒4カムシャフト(バンクあたりDOHC)2670ccエンジンの設計を、わずか3週間で終了させたといわれている。
●マセラティ製のスーパーカー・エンジン
初期の生産型では3基のキャブレターを組み合わせて170psを発揮。当初の目標を大きく上回る220km/hの最高速を獲得することになった。
そして、いかにもシトロエン的にアヴァンギャルドだが、同時に戦前以来のフランス製高級ツーリングカー「グラン・ルティエ」の伝統をも彷彿させる流麗なクーペボディのデザインは、開発スタート時には2CVやDSをはじめとする戦後シトロエンの傑作のすべてを手掛けた名匠、モダンアートの造形作家としても活躍していたフラミニオ・ベルトーニが担当することになっていた。
ところが1964年にベルトーニが逝去してしまったため、シムカ社からシトロエンに移籍した直後のロベール・オプロンがベルトーニの原案を引き継ぎ、彼を中心とした社内スタッフによって完成に至ったとされている。
ゴージャスなスタイリングを誇りつつもリアに実用的なテールゲートを備えた、このクーペボディにおける大きな特徴はヘッドライトにある。こちらもハイドロニューマティックに連動し、内側の一対がステアリングの操舵と同じ方向に照射するというシステムが導入された。
かくして試作車モデル「S」にマセラティの「M」が組み合わされたともいわれるネーミングがなされたシトロエン「SM」は、1970年春のジュネーヴ・ショーにて発表。大きな反響を得るに至る。
また2年後の1972年には、178psにパワーアップした電子燃料噴射仕様が追加。
さらにその翌1973年には主として北米マーケット向けに、エンジンの供給元であるマセラティが自社のミッドシップ2+2スポーツモデル「メラク」に搭載していたものを若干ディチューンした、2965cc+トリプルキャブレターのV型6気筒エンジン(180ps)を搭載したモデルが加えられた。また、ほぼ時を同じくして3速オートマティック・トランスミッションの組み合わせも可能とされた。
ところが1970年代中盤を迎えた時期、石油ショックに伴うガソリン価格の高騰や受動安全対策、排ガス対策などへの対応がメーカーに突き付けられるなど、時代の機運は高性能スポーツモデルには厳しいものとなってゆく。
しかも3リッター版が追加された翌年、経営状況が急速に悪化していたシトロエン社がプジョー・グループ傘下に収まったことを受けて、シトロエン、そしてフランスのプライドを一身に背負っていたはずのグラン・ルティエ「SM」は1975年、1万2920台を作り終えた段階で生産終了を余儀なくされてしまったのである。
往年のシトロエンは、モデル別の生産期間が長いことでも知られていたのだが、SMはデビューからわずか5年でフェードアウト。また同一の、あるいは近いキャラクターを持つシトロエンのクルマが、幕引きから45年を経た現在に至るまで作られたことはなく、文字通りシトロエン史上空前・絶後の1台となっている。
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