GT=グランドツーリングカーというと、今でこそスポーツカーのイメージが強いかもしれない。けれども例えば英国では、バカンスに島国を抜けだして、大陸へと渡り、陽光さんさんと降り注ぐ地中海あたりを目指す高速ツアラーのことを指している。
ボクは以前、英国製GTブランドの代名詞、アストンマーティンやジャガーを駆って、ロンドン付近からドーバーへと向かい、カートレインで海峡を渡ってカレーに上陸、そこからル・マンを目指したことがあった。
車体重量は1535kg。ボディサイズは、全長4683mm、全幅2095mm、全高1977mm。なお、全高はディヘドラルドアを開けた状態でのサイズ。英国内はなだらかなカントリーロードを縫うように走って楽しみ、フランスに入ってからは空いたオートルートをかっ飛ばした。そして、目的地周辺ではたとえ渋滞にあっても気分よく過ごせるだけのラグジュアリィ感溢れる室内に留まることができて……。つまり、ハイエンドなブリティッシュGTに求められる資質とは、パッセンジャーの荷物を積むスペースがちゃんとあって、ハンドリングに優れたスポーツカーであり(英国内)、高速クルーズの得意なツアラーでもあり(大陸内)、豪華で乗り心地のいいプロムナードカー(目的地)でなければいけないのだ。
いずれにしても、ボクの大好きなスーパーカーの世界とは、近いようで遠いカテゴリーではあった。このクルマが登場するまでは……。
ため息が出るほど美しいマクラーレンGTは、アルティメット、スーパー、スポーツに次ぐシリーズ第4弾という位置づけのニューモデルだ。つまり、これまでのマクラーレンとは違うコンセプトの、けれどもミドシップ2シーターのスーパーカーである。
一般的に積載性能が期待できないミドシップ2シーターだが、マクラーレンGTはフロントに150リッター、リアに420リッターの合計570リッターを積載できる。リアゲートは電動式のハッチゲートなので、出し入れもしやすい。前述した英国製GTの資質を統べて備えたGTスーパーカーというわけで、これまでにあったようでなかったカテゴリーだと言っていい(わずかにアウディR8がそれに当たっていたかも知れないが、性能の高さや乗り心地の良さはともかく、積載性に優れているとは言えない)。
GTにとって重要なシート類も様々なこだわりを詰め込んでいる。シートはマクラーレンGTのために新たに設計されたもので、10段階の電動調整が可能。Beadyeyeベースは720Sに代表されるスーパーシリーズだ。パワートレーンや各種制御システムなどメカニズムの主要な部分はスーパーシリーズ用のものに改良を加えてGT用としたもの。なかでも、マクラーレンの骨格であるカーボンファイバー強化樹脂(CFRP)製モノコックボディの“モノセル”は、乗降しやすいようにサイドシルの形状を変更したのみならず、リアにCFRP製のブリッジ構造を付け加えて、大型の電動可能なガラスハッチゲートを装備できるように改変された。
センターコンソールには7インチのタッチディスプレイを搭載。UIはプライベートジェットのグラフィックを参考にしており、直感的な操作が可能。ピークパワーを捨てて常用域でのトルク性能を重視するべく、タービンを小型化し吸排気系の設計を見直した4リッターV8ツインターボエンジンは、搭載位置こそこれまでと変わらないものの上部補機類(インテークやサージタンク)のデザインを変更することで、エンジン上部にスペースを稼ぎ出している。ここに、小さめのゴルフバッグがひとつ入るだけの空間(420リットル)を確保したのだ。フロントの150リットルを併せて570リットルもの積載能力は、この手の高級かつ高性能な2シーターミドシップのスーパーカーには異例であった。
実際にマクラーレン本社のあるウォーキングからドーバーを渡って南仏まで走って来たというならもっと面白かったのかも知れないけれど、国際試乗会の起点となった街はサントロペで、まずはプロムナードカーとしての実力を試すことに。
陽の光のもとで初めて見たGTは、“わ!”っと思わず声が出たほど大きくみえた。それもそのはず、全長・全幅・全高・ホイールベースともにスーパーシリーズより増しており、とくに2mを超える車幅がただモノではない雰囲気を発散していた。
磨かれた玉のように美しいルーフラインにため息が出た。開けやすくなったディヘドラルドアを上げると、CFRPモノコックボディのサイドシルは大きくえぐられており、720Sに比べて随分、乗り降りしやすい。
インテリアにも外観同様、シンプルデザインが貫かれた。最近のレンジローバーあたりとよく似ていて、余計な装飾がまるでなく、ダッシュボードやドアトリム、ステアリングホイールといった主要な構成物のデザイン的な融合が見ていて心地良い。スポーティなアルカンタラ地よりも、ラグジュアリィなオールレザーハイドトリムが似合う。色合いも黒やグレーではなく、ベージュやライトブラウンなど明るい色味のほうがしっくりきた。
V8エンジンが意外にも静かに目を覚ます。不要なノイズの遮断も効いている。遠くでV8のうなりが聞こえていた。スーパーカーの室内としては異例に静かだ。
2つあるドライビングモード、ハンドリングとパワートレーン、をいずれもコンフォートにセットし、変速もオートマチックのまま、昔のホテルをリノベーションした豪華なゲストハウスをあとにした。
ラグジュアリィドライブの新境地水平に切られ高い位置で先端が収束したハンマー型デザインのノーズのおかげでスピードバンプもさほど気にせず乗り越えていける。アクセルをちょいと踏むだけで十二分な力が右アシ裏に感じられ、それが増すとともにスムーズにシフトアップする。ステアリングは軽やかだが、前輪とのダイレクトな繋がりは失われていない。ブレーキのタッチが優しく、それでいて確実に反応し制動する感覚があるから街路での扱いやすさも格別だ。そして何よりも驚いたのは乗り心地の良さだった。
マクラーレンといえばスーパーカーの乗り心地を変えた革命児である。ただでさえ乗り心地がよかった。それがGTで、もっとよくなった。より静かで、スムーズに走り、路面からのショックを良くいなす。それはまるで英国製スポーツサルーンだ。
山間部にさしかかっても、その印象はまったく変わらない、どころか気持ちよさがどんどん増していく。他のスーパーカーなら、そこでためらいなくスポーツかレースモードに換えようと思うようなワインディングロードに入っても、まだコンフォートモードで走っていたいと思わせたほどだ。
この一体感溢れるドライブフィールの心地よさは、他の有名ブランドのどんなGTカーでも味わえないもので、極めてマクラーレンGTにユニークなライド感だと思う。CFRP製ボディは、十分にアシを働かせるという点で、スポーツにも、コンフォートにも有効だと改めて証明した。
全面的にコンフォート、といっても、そこはマクラーレンだ。コンフォートライドですっかり弛緩した身体に気合いを入れ直し、スポーツモードに変えて走り出せば、すっかりその気になって攻め込んでいける。サウンドは明らかに太さを増してラウドになり、乗り手の頭を走れ走れと刺激する。ステアリングはずしりと重みを増し、エンジンの反応も鋭くなって、キレ味鋭く変速する。これは正にマクラーレンのスポーツカーだ。
大きくなったボディサイズもなんのその。南仏の荒れた狭いワインディングロードを難なくこなす。サーキットを走らせても、きっと楽しいはずだ。
スポーツモードをしばし楽しんだのち、心を落ち着かせ、モードをコンフォートに戻して鼻歌まじりのイージードライブを楽しんでいる自分がいた。こんなに早くにスポーツモードから逃れてしまえるなんて! 他のスーパーカーではありえない。
なるほど、マクラーレンGTというスーパーカーは、速さや官能性といったエンジンに関わる魅力よりも、街中から山中、高速まで全域において心地よくクルーズできるシャシーの魅力が優ったスーパーカーだ。そしてそのコンフォートは他のどのGT専門ブランドでもなしえないレベルに達していた。
CFRPモノコックボディをもつスーパーカー=マクラーレンだからこそできた、ラグジュアリィドライブの新境地と言っていい。
文・西川淳 写真・マクラーレン・オートモーティブ 編集・iconic
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