かつて年間16戦で争われるのが常であったF1。しかしその開催レース数は増加の一途を辿り、今では1年で24戦も開催されるようになった。しかも、まだ新規開催を望む声も、各国から挙がっている状況だ。
F1は年間24戦から開催数を拡大することを目指してはいないとされるが、それでも関係者の負担軽減、移動にかかる予算の削減、そしてF1が目指す2030年までのカーボンニュートラル”ネットゼロ”達成を実現するため、カレンダーに変革が加えられつつある。一部のグランプリの開催時期を移動することで、輸送の効率化が進められているのだ。
■ベルギーGPの隔年開催決定……ここから見えてくる、F1の将来の姿
今後は、新規開催を求める声に応えるため、一部のグランプリをローテーション開催……つまり隔年開催とするグランプリを設け、それらを組み合わせることで、24箇所以上のグランプリを開催できることを目指していくことになる。
2026年からは、スペインのマドリードがカレンダーに追加されることが決まっている。この他、ルワンダやタイ、韓国、日本の大阪が新規開催を望んでおり、アルゼンチンやトルコ、南アフリカも開催を復活させることを目指している。またコロンビアの市街地で”カリブGP”を開催することを検討するため、F1のステファノ・ドメニカリCEOが複数の候補地を視察した。
サウジアラビアでは、現在ジェッダ市街地コースでグランプリを開催しており、キディヤで建設中のサーキットが完成し次第開催地を移すという方向性だったが、今ではその両方でグランプリを開催することも目指していると言われる。
現在のサウジアラビアGPの開催権料は年間5500万ドル(約87億円)とも言われており、さらに同国の国営エネルギー企業であるアラムコはF1の公式スポンサーとして10年間で4億5000万ドル(約711億円)のスポンサー料を支払うことになっている。つまりサウジアラビアは、F1の収入に最も大きく貢献している国のひとつであるのは間違いなく、その影響力も当然大きい。
■ローテーション開催はまもなく開始
F1カレンダーは、レースのために大陸間を行ったり来たりするのではなく、近い国や地域をグループ化し、移動距離を削減できる形にすることを目指している。2024年には、日本GPが前年までの秋から春に開催時期を移し、逆にアゼルバイジャンGPが従来の春から秋へと移動した。これにより、ロジスティクスの困難を一部削減することができた。
次はモナコGPの開催時期を変更し、カナダGPをマイアミGPの直後に移動させることになる。カナダとマイアミの距離は近いが、チケット販売に影響が及ぶほどではなく、近年のF1人気の盛り上がりを考えれば、懸念は限定的であろう。
ただ、新規開催を受け入れるためには、何かを犠牲にする必要がある。それが、ローテーション開催である。複数グランプリを隔年開催とすることで、新たなグランプリを迎え入れる”隙間”を作ろうという手法だ。
マクラーレン・レーシングのザク・ブラウンCEOは昨年のアメリカGPの際、28のサーキットに対応できるシステムを提案したが、年間に開催できるグランプリの最大数は24戦であると主張した。
「カレンダーに関しては、24戦が最大だと思う」
そうブラウンCEOは言う。
「20レースを固定し、8レースを隔年でローテーションして、スポーツを成長させ続けるのが良いと思う。28の市場でレースができれば素晴らしいね。しかし年間で開催できる最大限は24戦だ」
「ローテーションを検討する必要があるが、それは既に始まっている。2024年は初めて24戦を開催したが、これをあと2~3年続ければ、かなり疲れてしまう人もいるだろう」
ドメニカリCEOも、年間の開催数上限は24戦だとしながらも、現在35以上の新規開催を求める候補地と連絡を取り合っていると明かした。そしてそのうち11箇所は現実的な提案であるという。
「中期的には、ヨーロッパでのグランプリのローテーション開催や、その後に予定されている他の新たな選択肢の可能性について、近日中にお知らせできると思う」
「新規開催を希望する新しい開催地からの需要は大きい。我々の選択は、システムとして得られる適切な経済的利益と、我々のビジネスをさらに成長させるのに役立つ可能性があると見込める市場の成長を活用することの間で、常にバランスが取れている」
ビジネス的なロジックは成り立っている。利益を生み出せる新市場は通常、自国のイメージを引き上げたいとして各国政府の支援を受けてきた。つまり、経済的に強力な後ろ盾を持っている。これは何も今に始まったことではなく、リバティメディアがF1のオーナーになる前に初開催された、韓国やインド、マレーシア、バーレーン、トルコなどがこれにあたる。
つまり政府からの資金援助をあまり受けていない欧州のグランプリは、必然的にローテーション開催の対象となるリスクが高い。あるいは、開催が完全に消滅してしまうかもしれない。
1月8日には、スパ・フランコルシャンでのベルギーGP開催契約が2031年まで延長されたことが発表された。ただ2028年と2030年は開催されないことも同時に明らかにされており、この開催されない2年を使って、他のグランプリと隔年開催するということなのだろう。
ローテーション開催が、いよいよ現実味を帯びてきた。
■隔年開催となるグランプリ、そして消滅するグランプリは?
スパ・フランコルシャン以外にも、カタルニアやイモラなどもまもなく現在の契約期間が終了する予定。そしてカレンダーに残るとしても、隔年開催となる可能性が高いと見られる。
中でもカタルニアは、これまでスペインGPを開催してきたものの、2026年からスペインGPの開催地は、半ストリートサーキットのマドリードに移る予定になっている。しかしカタルニアのプロモーターは今後もF1を開催し続けることに熱心であり、カレンダーに残るとしてもグランプリ名が変わるのは避けられないだろう。
歴史的なサーキットでのグランプリが失われるのは、古くからのF1ファンにとっては大問題だ。ドメニカリもF1のCEOに就任した当初は、いくつかの”歴史的”レースを維持する必要があると語っていたが、今やどのグランプリも”安泰”とは言えないかもしれない。
オランダGPは、2026年限りで終了することが決まっている。このグランプリは政府からの支援を全く受けておらず、全てがチケット販売などの収入に頼る格好となっている。マックス・フェルスタッペンというスーパースターがいながら、グランプリ開催を維持できないというのは、なんとも厳しい現実である。
他のグランプリも同様だ。モンツァやハンガロリンクは最近、大規模な改修作業を行なった。こういった資本投資をすることで、F1に対して開催の「意欲を示す」必要があった。モナコでさえ、譲歩する必要があったのだ。
中国GPは2025年限りで契約が切れる予定だったが、5年間延長された。中国は世界の自動車産業にとって無視できない重要な市場であるが、F1の将来は揺らいでいると言わざるを得ない。
2024年は周冠宇がいたこともあり、観戦券の売れ行きは好調だった。しかし周は2024年限りでF1シートを失ってしまった……彼がいなくても、観戦券は同じように売れるだろうか?
しかも中国GPの完売のニュアンスは、微妙である。サーキットは湿地帯に作られているため、場所によっては施設の老朽化が急速に進んでいる。数年前に暴風雨に見舞われた際、仮設スタンドが崩壊するという事故も起きた。またターン12と13の外側にあるスタンドは、スタンドとしては使われておらず、巨大な看板設置場所となっている。
■新たな開催地は?
ドメニカリCEOは、F1開催を求める新たな国や地域が少なくとも11ヵ所あると語っている。それはどこなのだろうか?
サウジアラビアの経済多様化計画「ビジョン2030」の下、首都リヤド郊外で進行中の大規模開発の一環として建設中のキディヤ・スピードパークは、元F1ドライバーのアレクサンダー・ブルツが共同設計。高低差は108mになる予定だ。
サーキットの隣接エリアにはコンサート会場やふたつのテーマパークが作られる予定。そのうちのひとつは、世界初となる『ドラゴンボール』のテーマパークである。
サーキットは2027年に完成予定。当初は現在のジェッダに変わってサウジアラビアGPを開催する見通しだったが、現時点ではサウジアラビア国内で2レース目のグランプリを開催する可能性が高くなっていると考えられている。
ルワンダとアルゼンチンも、F1やFIAと有意義な協議を行なってきた。実際、2024年のFIA年間表彰式は、昨年12月にルワンダで開催された。
またルワンダの高官らは、2024年のモナコGPを訪れたり、9月にはドメニカリCEOとも会談するなど、活発な動きを見せている。1993年以来となるアフリカでのグランプリ開催が実現するなら、このルワンダが最有力であると言えるが、まずはサーキットを建設する必要がある。
一方でアルゼンチンには、すでにサーキットが存在する。しかし同国でF1が最後に開催されたのは1998年。復活開催するには、インフラの再整備が必要不可欠であろう。しかもかつてF1を開催したオスカル・ガルベス・サーキットは、1周の距離が4kmと少しと短く、低速コーナーが連続する。今のF1マシンには適さないかもしれない。
ただ、アルゼンチンの観光大臣や自動車連盟会長らは、昨年11月にドメニカリCEOと会談。昨年ウイリアムズから衝撃的なF1デビューを果たしたフランコ・コラピントが、2026年以降いずれかのチームのレギュラーシートを掴めば、その勢いは加速するだろう。すでにコラピントは、サッカーのリオネル・メッシに次ぎ、アルゼンチンで2番目に有名なスポーツ選手となっている。
なおアルゼンチンGPが復活する場合、政府が財政的な支援をするわけではなく、F1やコラピントのスポンサーであるデジタルサービス・プロバイダーのグロバントら民間企業が開催の主体となるだろう。
トルコは、2005年にF1を初開催したが、2011年限りで開催権を失った。しかしコロナ禍となった2020年には、フライアウェイ戦の中止が相次いだことで開催復活。翌2021年にもトルコGPが開催された。
なおトルコGPの開催サーキットであるイスタンブールパークは、ピレリの現地法人が管理しており、F1開催を目指していることを公言している。
タイもF1誘致に積極的。アレクサンダー・アルボンというタイ人ドライバーがF1に参戦しており、レッドブルの発明者であり同社の株式51%を持つユーヴィディヤ家もタイ人一家である。
すでにドメニカリCEOもタイに赴き、タイ首相と会談。バンコクの市街地コースも承認は間近であると報じられている。しかし、政治情勢の変化によって大きく左右される可能性が高く、慎重にならざるを得ない。
2020年に予定されていたベトナムGPは、開催直前に中止された。これはコロナ禍によるものではなく、グランプリ開催を推進してきた地元政治家のひとりが投獄されたことによるものだった。
この他、日本の大阪での誘致活動も進められている。この計画は2024年の1月に明らかになったもの。F1側との交渉過程については明らかにされていないものの、大阪・関西万博跡地にサーキットを建設する開発計画の存在が明らかになっており、実現の可能性が少しずつ高まっているように感じられる。
ちなみに現在の各グランプリの開催契約期間は、以下の通りとなっている。
オーストラリア(メルボルン):2037年
中国(上海):2030年
日本(鈴鹿):2029年
バーレーン(サヒール):2036年
サウジアラビア(ジェッダ):2030年
アメリカ(マイアミ):2031年
モナコ(モンテカルロ市街地):2031年
カナダ(モントリオール):2031年
オーストリア(レッドブルリンク):2030年
イギリス(シルバーストン):2034年
ハンガリー(ハンガロリンク):2032年
イタリア(モンツァ):2031年
アゼルバイジャン(バクー市街地):2026年
シンガポール(シンガポール市街地):2028年
アメリカ(オースティン):2026年
メキシコ(メキシコシティ):2025年
ブラジル(インテルラゴス):2030年
アメリカ(ラスベガス市街地):2025年
カタール(ルサイル):2032年
アブダビ(ヤス・マリーナ):2030年
イタリア(イモラ):2025年
スペイン(カタルニア):2026年
ベルギー(スパ・フランコルシャン):2031年(2028年、2030年除く)
オランダ(ザントフールト):2026年で開催終了
スペイン(マドリード市街地):2035年
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