真っ平で広大な空間を演出。「フルフラットシート」はなぜ減っている?
ミニバンを筆頭とするカテゴリーでは、前後のシートを倒して連結させられるフルフラットシートを採用しているモデルが多数存在。なかには1列目~3列目まで繋げた状態でフラット化できるミニバンもあったほとだ。
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しかし、今ではフルフラットシートが可能なモデル自体も減っているほか、フルフラットと言っても、シートに凸凹が多く、平らにならないモデルも多い。
一世を風靡したフルフラットシートはなぜ減ったのか?
文/渡辺陽一郎 写真/HONDA、TOYOTA、NISSAN
【画像ギャラリー】車内に出現する広大な空間!! 減りゆくフルフラット&回転対座シート
■かつてはオールフラットも!! フルフラットシートの隆盛
写真は1996年登場のライトエースノア。フルフラットシートの発祥はライトエースなどにまで遡る。意外と古くからある機能なのだ
かつてのミニバンには「フルフラットシート」というアレンジが多かった。2列目と3列目、1~3列目など、複数のシートをリクライニングして連結させ、車内をベッドのように使えるものだ。2列シート車でも、前後のシートを繋げてフルフラットシートにできる車種があった。
フルフラットシートの発祥は、ミニバンの前身とされる商用車をベースにしたワンボックスワゴンに遡る。ノアの前身とされる1971年に発売された初代ライトエースワゴン、1976年の初代タウンエースワゴンには、それぞれ2/3列目をリクライニングして連結させるフルフラットシートが用意されていた。
1985年に発売された2代目ライトエースには、世界初の装備として、3ウェイ回転シートも採用された。2列目を通常の前向き、サイドウインドウに向かって座る横向き、3列目と対座させる後ろ向きの3段階に固定できる。1980年代には、フルフラットシートと回転対座シートが定番のアレンジとして定着した。
ライトエースとタウンエースは、1996年にライトエースノア/タウンエースノアに発展している。ワンボックスボディを脱して、エンジンをボンネットの下に搭載するミニバンスタイルになり、運転感覚も自然な印象に変わった。
この世代でもフルフラットシートと回転対座シートは採用を続けた。フルフラットシートは、3列すべてをリクライニングさせて連結できる「オールフラット」が特徴だ。この時代には、3列のシートをすべて連結できるミニバンも珍しくなかった。
2001年に登場した2代目も同様のシートアレンジを備えたが、オールフラットは見られない。2列のシートをリクライニングさせて連結させる方式になった。
写真はホンダ S-MXのフルフラットシート。3列ミニバンではないが、ほぼ完全フラットに近いシートアレンジは特長のひとつだった
ステップワゴンも、ノア系3姉妹車と同じく1/2列目、2/3列目の連結は可能だが、3列をすべて繋げる機能はない。回転対座シートも見られない。セレナのシートアレンジも、2/3列目のフルフラットシートのみだ。
コンパクトミニバンのシエンタでは、初代モデルには1/2列目、2/3列目を連結させる機能があったが、現行型には採用されていない。
また、初代と2代目デミオ、S-MX、初代ラウム、初代ラクティスなどのコンパクトカーも、かつては前後席を連結させるフルフラットシートを採用したが、今は廃止されている。
■なぜフルフラット&回転対座シートは廃れたのか
写真は2代目ステップワゴン(2001年発売)の回転対座シート機能を使ったアレンジ
これらのシートアレンジが簡略化・廃止された理由をミニバンの開発者に尋ねると、以下のように返答された。
「フルフラットシートや回転対座シートは、ミニバンが普及する段階では大切なセールスポイントとされた。しかし近年、お客様にリサーチすると、回転対座シートはほとんど使われていない。
フルフラットシートも、室内長によってはシートのサイズを削ることになり、3列のすべてを繋げる機能は採用していない」
回転対座シートは、室内長に余裕がないと、向き合って座る乗員同士の膝が互いに干渉してしまう。狭い車内で2列目を回転させる操作も面倒だから、使用頻度も下がる。
ちなみに1989年登場の4代目ハイエースワゴンは、ボンネットのないワンボックスボディだったので、全長は4430mmでも室内長は3150mmに達した。それが現行ノアの標準ボディは、全長は4695mmだから4代目ハイエースワゴンよりも265mm長いが、室内長は2930mmなので220mm短い。
今のミニバンはワンボックスボディに比べると空間効率が低く、フルフラットシートや回転対座シートに馴染まない。
また、回転対座機能を設けて、前面衝突時にシートベルトによって乗員をしっかり支えるには、相当なコストも要する。前面衝突時にはシートに強い負荷が加わるからだ。大半のミニバンは、2列目に前後スライド機能を装着するから、それだけでも開発が難しい。回転機能まで加えると機能が一層複雑になる。
■高まる安全への関心や“座り心地”重視の流れも影響
写真は現行型セレナの2列目シート。このようにキャプテンシート採用車が増えたこともフルフラットシート機構が減った一因に
フルフラットシートも同様で、開発者のコメントにあったとおり、全席フルフラットを可能にするには、座面や背もたれを短くしなければならない。
そして、シートとして乗員の体をしっかり支えられる形状にすると、フルフラットにした時には、表面に大きなデコボコができてしまう。シートの機能とベッドの寝心地は比例せず、どちらを取るかを迫られる。
今のミニバンでは、2列目にセパレートシートを採用する車種が増えた。このタイプでは、2列目の中央部分が抜けるから、フルフラットにしても寝心地が悪い。むしろ2列目に足を支えるオットマンを装着して、これを持ち上げて、背もたれもリクライニングさせた方が快適だ。
子供のいる世帯では、チャイルドシートが普及した。ミニバンの2列目にチャイルドシートを装着すると、フルフラットシートのアレンジが可能でも、使用頻度は大幅に下がる。チャイルドシートを脱着する必要が生じるからだ。
昔は後席のフルフラットシートに子供を寝かせながら走っているワンボックスワゴンやミニバンを見かけたが、衝突時や急ブレーキ時の安全確保を考えると、きわめて危険な使い方だ。このようなユーザーが減ったことも、フルフラットシートのニーズが下がった理由だろう。
ステップワゴンのホームページを見ても、フルフラットシートの写真は掲載されているが、シートの上に長い荷物を載せている。寝転んでいるような写真は掲載されていない。もちろん駐車中なら寝ていても問題はないが、誤解を招く可能性も皆無ではない。
結局のところシートでは、疲れにくい快適な座り心地が重視される。今は疲労の防止を含めた安全意識の向上もあり、フルフラットシートや回転対座シートは人気を下げた。当然の成り行きだ。
実用性の高いミニバンは自転車などを搭載できる積載性を売りにしているモデルも多い。更なる安全性の向上も課題のひとつだろう
それでも安全意識の課題は残る。カタログやウェブサイトに、後席を畳んで自転車を積んだ写真を掲載する車種は少なくない。
その開発者に「自転車を積んだ状態で衝突安全試験(あるいはシミュレーション)を行い、乗員への加害性を確認しているのか」と尋ねると、知っている限りではすべて「そのような試験は行っていない」と返答された。
「自転車などを確実に固定できるフックをディーラーオプションで用意しているのか」という問い掛けにも、用意していると返答された車種は少ない。
「ディーラーオプションで用意すると、安全性を確認する必要も生じて、用品の価格が高まる。だから敢えて用意していない」という返答もあった。
関心の高い衝突被害軽減ブレーキは進化したが、置き去りにされた安全性もある。シートアレンジを利用して荷物を積んだりする時は、「この状態で交通事故に遭遇したらどうなるか」ということを常に考えていただきたい。
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みんなのコメント
結局回転させたのは数えるくらいしかなく。
要らないよな。。と心の中でつぶやいたものでした。