自動運転システムや先進安全技術は、交通事故や渋滞の削減、ドライバーの負担軽減など、交通社会に大きな変革をもたらすことが期待できる技術として、精力的に開発が行われている。
そのなかでも、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は、安全かつ快適なドライブを実現するうえで、いまや必須の機能として注目されている。どうしてこれだけのニーズがあるのか、その成り立ちと今後の見通しなどを解説する!
運転に不安を覚えた中高年必見! いま安全運転支援システム「ACC」が必要な理由
文/フォッケウルフ
写真/フォッケウルフ、トヨタ、ホンダ、スバル
■安全運転をサポートしながらドライバーの負荷を軽減!
自動運転システムや先進安全技術は、交通事故や渋滞の削減、ドライバーの負担軽減など、交通社会に大きな変革をもたらすことが期待できる技術として、精力的に開発が行われている。特に先進技術を利用してドライバーの認知・判断・操作を支援し、安全かつ快適なドライブを実現する機能を持った「ASV(先進安全自動車)」は、ここ数年で一気に普及が拡大した。
2015年まで20%以下だった先進安全技術の装備率は、5年も経たないうちに70%を超えた
ASVは、もともと交通事故の減少を目指したものだが、自動運転を実現するうえでも必要な技術だ。このASVに関する技術の開発・実用化・普及を促進するためのプロジェクトがあり、「ASV推進計画」と銘打って平成3年度から約30年にわたる取り組みが行われている。
2021年11月から新型車への搭載が義務化された「衝突被害軽減ブレーキ」や、「車線逸脱警報装置」「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」といった機能は、新車で購入できる車種のほとんどに採用されている。こうした運転支援機能は安全運転をサポートするのが主たる目的だが、運転支援によってドライバーの負荷軽減を可能にするものもある。それがACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)だ。
ほかの運転支援機能より世間的な認知度は高くないようだが、ACCの機能は、一定速度を維持して走行する場面で、自動的にアクセル開度やブレーキングなどを制御するというもの。
過去には速度をあらかじめ設定しておくことで、それを維持して走行できるCC(クルーズ・コントロール)という機能もあったが、こちらは周囲の交通状況に関係なく設定した速度を維持するため、前方にクルマが走っている状況で車間距離を一定に保つためには、ブレーキ操作を行う必要があり、いまいち使い勝手がよくなかった。
ACCは、従来のCCを発展させたもので、車間距離を一定に保つためのセンサーとコンピューターがクルマに搭載されており、速度を維持しながら、前方の車両の速度が遅くて追いついてしまったり、別の車線から車両が割り込んできたりしたときには、クルマがスピードを自動的に落としてくれる。
高速道路や自動車専用道路を利用している時などは、アクセルとブレーキの操作は、ほぼクルマ任せで運転できる。交通の流れに合わせて速度を調整するので、運転負荷の軽減に効果が期待できるわけだ。
前方を走るクルマをセンサーやカメラで捉え、車間距離を一定に保ちながら走行することができる
ACCが車間距離を一定に保つため、クルマにはミリ波レーダーまたは光学式カメラセンサー、あるいはその両方が搭載されている。それぞれに特徴はあるが、前走車との距離を計測し、その情報に基づいてアクセルやブレーキを自動で制御している。
一般的に、ミリ波レーダーは雨や霧などの悪天候下や夜間でも影響を受けにくく、照射距離が長い(200m前後)ため、より高い車速にまで対応することができる。一方の光学式カメラセンサーは、カメラが映した情報をデジタル化することができるため、車両だけでなく道路の白線なども認識できる。
今どきは状況をカラーで認識できることから、赤く点灯する前車のブレーキランプを認識できるようになり、これまで以上に素早く、精度の高い減速操作ができるようになっている。ミリ波レーダー+光学カメラセンサー搭載車は、両方のメリットを併せ持っていることから、どちらか一方のACCよりもより高度な制御を可能にしている。
■ACCのメリットと使いづらい部分とは?
どんな状況下においても運転操作を楽しみたい! と考える人にとってACCは無用の長物だと思うが、一度使ってみると、とにかく運転が楽になる。特に「全車速対応」のACCであれば、時速30km前後で流れているやや混雑している高速道路でも、前走車の加減速に合わせて安全な車間を保ちながら追従してくれる。
さらに、「完全停止」までサポートするACCでは、自動で停止したあとも停止状態を保持してくれる。いずれの場合も、アクセルとブレーキを頻繁にして速度と車間を調整しなければならない渋滞時の煩わしさからは解放される。渋滞にハマって時間のロスは避けられないが、精神的なストレスは大幅に軽減できる。運転がおっくうになってきた中高年にとって非常にありがたい装備なのだ。
低速域や渋滞時に追従できるACCじゃなくてはダメ、というわけではない。前走者に追従して速度と車間をコントロールできるだけでも運転はかなり楽になるし、意思の疎通がスムーズに行えないボイスコントロールよりは、はるかに重宝する機能だと言える。
近年では軽自動車でもACCの搭載が当たり前になりつつある。ベストセラーのN-BOXは、単眼カメラとミリ波センサーを併用している
ただしACCも万能ではない。基本的には高速道路や自動車専用道路での使用が推奨されているとおり、一般道など状況の変化に富んだ場所では、運転が楽になるどころか、むしろ危険度が増してストレスは倍増。結局、ドライバー自身が操作したほうがより効率的かつ安全にドライブできる。
それから高速道路や自動車専用道路でも状況によってはACCにヒヤッとさせられることがある。たとえば、高速道路のジャンクションとか首都高速道路など、きつい曲率のカーブに差し掛かったときはACCのセンサー検知範囲から前走車が外れてしまうことがある。その時追従していた速度がACCの設定速度よりも低かった場合は、前走車がいなくなったことによって設定速度まで自動的に加速し始めることになって驚かされることがあるのだ。
高機能なACCを搭載した車両では、ドライバーのステアリング操作量からカーブの曲率を検知して自動的に減速制御を行うものもあるが、カーブでは操作をACC任せにはせず、手前でドライバーがブレーキを踏んでACCを解除するほうがいい。
また、複数の車両が目指すレーンに向けて左右に移動する料金所手前も、ACCのセンサーが目標とする前走車を捉えにくく、ドライバーの想定とは違う動きをすることがあり、これもヒヤッとさせられる危険な状況と言える。
それ以外にも高速道路の合流や流出、濃霧や降雪、豪雨といった、目視で状況が確認しづらい時には、ACC作動の要であるセンサーの検知精度が下がってしまう可能性があるので使わないのが賢明だ。
■次に控える技術とACCの上手な使い方
将来的にACCは、CACC(コーペラティブ・アダプティブ・クルーズ・コントロール)への発展に向けた技術開発が進んでいる。CACCでは、既存のACCの機能に加えて車々間通信することで、速度や車間距離などをこれまで以上にきめ細かく制御することが可能になる。
たとえばACCでは、センサーで前車の接近を検知するとアクセルを緩めたり、ブレーキ制御を行って減速するが、CACCでは、前走車のドライバーがアクセルペダルから足を離した瞬間に、その情報が無線を通じて後続車に伝わる。クルマ同士が意思の疎通をするかのごとく制御を行うので、タイムラグのない追従走行が行えるというわけだ。
CACCによる制御は、車々間通信が行われている複数の車に対して同時期に行われるため、下り坂から上り坂に差し掛かった際に発生しやすい「サグ渋滞」の解消にも効果をもたらすと期待されている。
ハンズフリー走行が可能な「2.0」をはじめ、日産のプロパイロットはいくつかのモデルがあるが、どれも操作がイージーで扱いやすい
CACCは先のことになるが、現状ACCはさまざまなクルマに採用されている。運転を楽しみつつも、ときには楽もしたい。特に高速道路や自動車専用道路は、状況の変化に乏しく、一般道よりも高い速度を維持して走り続けねばならない。ドライバーは自車だけでなく、周りのクルマに対しても気を使わねばならないわけだが、こうした状況で走行するのは意外に難しく、疲労も蓄積しやすい。
ACCの利用は、ドライバーの運転負荷の軽減だけでなく、副次的に事故の減少や渋滞の緩和、環境性能の向上といったメリットも期待できると言われている。もちろん、使う側も注意を払う必要があり、ACCに頼り切った運転は好ましくない。車種によって機能や特性は異なるが、それを理解したうえで効率的に使えば、快適かつ安全なドライブに役立つのは間違いない。
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