グループB時代きっての個性派モデル、その評価はいかに?
1980年代中盤のWRC(世界ラリー選手権)は「狂瀾のグループB時代」と呼ばれる。最少生産台数200台という条件のもと、ラリーで勝つことのみを目的としたマシンたちが激闘を繰り広げた恐るべき時代には、各自動車メーカーがそれぞれの英知を結集し、200台+αのホモロゲート用車両を生産。それらは今でもコレクターズアイテムとして愛好家を魅了し続けている。この2023年8月、北米カリフォルニア州モントレーにて、そんなグループBマシンたちが同時出品されるオークションが実現した。それがRMサザビーズの「Monterey 2023」の特別企画「The World Rally Classics Collection」である。
バブル時代にマツダ系列店でシトロエンが買えた!「BX」はユニークなデザインが特徴的なクルマでした【カタログは語る】
シトロエン流哲学で構築されたグループBカーとは?
1983年シーズンからWRC(世界ラリー選手権)の最上級カテゴリーにすえられた「FIAグループB」規約は、わずか200台のストリートモデルを生産すればホモロゲートが可能であることから、ラリーを主目的とした少量生産車を自由闊達に開発することができた。その結果、当時の自動車メーカーにとっては大胆な新技術を開発・導入するためのプラットフォームとなっていた。
このグループBカテゴリーに、シトロエンは当初コンパクトカーの「ヴィザ(Visa)」をベースにハイパワー+4WD化したホモロゲートモデル「ミル・ピステ(1000 Pistes)」を200台生産し、小排気量クラスで一定の成果を収めてゆく。
そのかたわらシトロエンは、1983年シーズンまでに総合優勝を争うグループBマシンの開発に着手。長い開発・試作段階を経て、当時コンペティション部門のボスだったギィ・ヴェリエによって発表されたのが、シトロエンのニューマシン「BX 4TC」である。
シトロエンの首脳陣はライバルたちの多くとは異なり、ラリー専用設計のモデルではなく、あくまで市販車をベースとして大規模なモディファイを施す手法を選択。市販BXのスチール製モノコックシャシーとハイドロニューマチック・サスペンションシステムはそのままに、プジョー「505」用のリアアクスルをコンバート。エクステリアには専用のエアロパーツと前後の樹脂製ブリスターフェンダーが装着された。
パワーユニットは、同じPSAグループに属するプジョーから拝借した「N9TE」型直列4気筒SOHCにターボチャージャーを組み合わせたもの。ただし当時のFIAのターボ係数1.4をかけても3000cc以下クラスに収まるよう、2141ccにボアダウンされた。また、通常の「BX」では横置き配置のエンジンを縦置きに変更していた。ノーズがやたらと長いのは、そのためである。最高出力はコンペティション仕様の「エボリューション」で380ps、ホモロゲーション仕様の「セリエ200」で200psとされた。
ところが市販車ベースにこだわったこともあって、ラリーカーの車体重量は1150kgと、クラスの最低重量である960kgを大幅に上回る重さに留まったうえに、200台分の生産が遅れ、申請・承認に予想外の時間を要してしまったせいで、1986年1月1日までホモロゲーションは得られなかった。
その結果、世界ラリー選手権で活躍をみせられたのは、グループB時代最後の1シーズンだけ。「スウェーデン・ラリー」におけるジャン-クロード・アンドリューの6位が最高成績となったのだ。
グループBホモロゲート車両としては安価な1300万円で落札
シトロエンBX 4TC セリエ200の生産は2つのシリーズに分けられ、第1シリーズは「XL00……」のシャシー番号で、第2シリーズは「XL30……」で始まる番号で識別されるという。
今回「Monterey 2023」の特別企画「The World Rally Classics Collection」から出品された素晴らしくオリジナルな個体は、シャシーナンバー#XL0069。すなわち、ファーストシリーズの最後の1台であるとともに、現存が確認されているBX 4TCロードカーの中ではもっとも新しいものとみなされている。
ボディカラーは、このモデルのデフォルトであるホワイト。インテリアは同時代のBXに設定されていたスポーティバージョン「BX GTi」などと変わらない、ソフトな黒いファブリックで仕立てられている。
BX 4TC セリエ200は、当初からフランス国内市場向けに販売される予定で、この個体も2000年にパリのコレクターに売却されるまで、フランス某所在住の初代オーナーの手元にあった。2人目のオーナーとともにパリで過ごした時期は短かったようで、2000年11月にトゥーロン近郊に住む3人目のオーナーに売却され、その後18年間は彼のもとで保管された。
そして2018年11月、#XL0069は米国在住のコレクターによって購入され、大規模な整備が施されることになる。このサービスにはクラッチとタイミングベルトの交換が含まれ、当時のオドメーターは5万2532kmを記録していたという。
2022年にさる専門業者を介して現オーナーに譲渡されたものの、2018年の大規模サービス以来660kmしか走行しておらず、RMサザビーズ北米本社が公式カタログを作製した際の走行距離は、5万3192kmだったとのことである。また、オリジナルの工場マニュアル、ジャッキ、スペアタイヤ、豊富な履歴ファイルが付属しているのも、オークションにおいては重要なトピックである。
狂瀾のグループB時代の中でも特別な異彩を放つとともに、21世紀に入ってシトロエンが世界ラリー選手権を制覇する先駆けともなったBX4 TCは、グループBの中でも最も希少なモデルである。実際、全世界で現存するBX 4TC セリエ200はわずか30台程度と考えられており、この完璧な鑑定が施された個体の販売は、非常にエクスクルーシブな「クラブ」に参加する貴重なチャンス。熱心なグループB愛好家であれば、コレクションにくわえるべき1台……といううたい文句を添えて、RMサザビーズ北米本社は10万ドル~15万ドル(邦貨換算約1480万円~2220万円)のエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、実際の競売ではエスティメート下限も下回る8万9600ドル、現在の日本円に換算すれば約1300万円という、かなりシビアな落札価格でハンマーが落とされることになってしまった。この価格は現在の国際マーケットにおける、ほかのグループBホモロゲートモデルの相場と比べると、明らかに安価なものである。
この理由として考えられるのは、WRC選手権における活躍があまりなかったことも大きな要因だろう。そのうえ、ライバルたちの市販バージョンがエクステリア/インテリアともにエキゾティックなスーパーカー的魅力を備えていたのに対して、BX 4TCはアクの強いエアロパーツなどで存在感は示していながらも、あくまで小型量産車であるシトロエンBXの改造車としての印象が強い。
だからこそシトロエン愛好家には多く見られる、あまのじゃく気質のエンスージアストにとってはかなり魅力的とも思われるのだが、やはりそんな変わり者は決して多くないということなのだろうか……?
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むしろ希少性考えたら、まだ爆上がりしてないとも