現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > バス運転手が集まらないのは「不人気だから」なのか? 人手不足の本当の理由 見えづらくしている業界のマイナス思考

ここから本文です

バス運転手が集まらないのは「不人気だから」なのか? 人手不足の本当の理由 見えづらくしている業界のマイナス思考

掲載 89
バス運転手が集まらないのは「不人気だから」なのか? 人手不足の本当の理由 見えづらくしている業界のマイナス思考

「運転手不足で苦境」でもちょっとギャップがある

 バス運転手不足による路線の廃止や減便が続いています。
 
 筆者(成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表)は2014年にバス運転手専門の求人サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」立ち上げに関わり、現在もサービスを監修しています。同サイトは就職イベント「どらなびEXPO」も開催しています。36度目の開催となった2023年10月28日の回には運転手を目指す求職者、約400人が参加し、筆者もステージで参加者向けの講座などを担当しました。

「行っていいよ」右折を譲ってくれるバス ただの優しさではない理由

 会場内はすごい熱気で、相次ぐ「運転手不足でバス業界が苦境」という報道は嘘かのようです。とはいえ、多くのバス事業者が運転手不足に悩んでいることもまた、紛れもない事実です。このギャップはどこから生まれるのでしょうか。

 全国のバス運転手の総数をみると、2000年に10万9000人でしたが、コロナ禍直前の2020年3月時点で13万人超。バス運転手の数は、実は20年間で2割も増加していたのです。2000年にバス事業の参入規制が緩和され総車両数が増加した一方、労働規制は順次厳格化され、一人が1日に勤務できる時間が短くなり、必要な運転手の数が急増したことが理由です。

 次に国全体の人口を年齢別にみると、年間出生数が250万以上あった戦後ベビーブーム世代、いわゆる「団塊の世代」の多くがここ10年ほどでリタイアした一方、2023年の20歳は120万人弱しかいません。この人数には専業主婦などが含まれることを考慮しても、この国は毎年、数十万人もの働き手が減り続けているのです。人手不足のランキングを見ても「情報サービス」「金融」など多様な業種が上位に並び、国全体で極端な人手不足状態であることがわかります。

 つまり、バス運転手は不人気だから不足しているのではありません。少子高齢化により働き手の数が減る一方で、必要な運転手の数が増え、採用が追い付いていなかったのです。

後手に回った結果の今

 さらにコロナ禍で運転手の仕事が一時的に大きく減少したことも影響しました。国の助成金のおかげで給料は支払われましたが、やはり目の前の仕事がないというのは不安です。多くの運転手が他の業種に転職しました。また、比較的年齢の高い運転手の比率が大きいため定年退職者が増加しており、今後は相当な数の補充が必要です。

 1台のバスに必ず1人以上の運転手が必要という点も大きな要素です。たとえば小売店や飲食店は、セルフレジやタッチパネル注文などIT活用により店員の数を減らしています。事務職や工場も同様でしょう。バスはというと、自動運転技術は既に一部が搭載されていますが、必要な運転手数は減りません。いつかは完全な自動運転が実現するとしても相当先のことになりそうで、それまでの間、IT活用により他業種が2割、3割と要員数を減らす中、バスは「1人」を「0.8人」にするわけにはいかないのです。

 バス業界の努力不足という面もあります。バス運転手は業界内での転職が比較的容易で、一人前の運転手に育て上げても競合会社に移ってしまうリスクがあります。鉄道の場合、会社負担で駅員などの経験や研修を重ねて数年かけ運転士デビューさせる代わり、業界内の転職が少なくその会社に長く勤めるのと対照的です。そのため多くのバス事業者が若手の育成より即戦力の採用に重きを置いて、新卒者や未経験者の育成が遅れていました。

 また、女性運転手の比率は約2%とわずかです。自衛官にも女性が約8%いるのと比べても女性活用が遅れています。女性運転手用のユニフォーム、休憩室などが用意されていなかったため、「最初の一人」を採用するハードルが高かったのです。

 しかし言い訳をしている余裕はありません。各事業者とも、大型二種免許を持たない人向けの運転手養成制度を準備したり、営業所内に運転手を含む女性職員用の仮眠・休憩施設を用意したりするなど挽回に努めています。

 バス業界では関越道事故(2012年)、軽井沢事故(16年)と悲惨な事故が続き、無理な勤務シフトや過酷な労働条件がメディアで大きく報道されました。いずれも業界の最底辺といえる零細事業者が起こした事故ですが、バス運転手という職種全体のイメージを必要以上に悪化させてしまいました。その払拭も必要です。

バス会社だから「住宅ローンを想定以上に借りられた」

 たとえば大手私鉄系の事業者は、バス事業だけで2 3000人の従業員、年間数百億円の売上を誇る大きな会社です。親会社はみな上場企業で、経営は極めて安定しています。労働組合が労働環境をしっかりチェックしており、たとえば有給休暇消化率をみると多くが95%前後です。

 実はこれらの会社でも、1990年代後半から労働条件の切り下げが行われました。また、途中で長めの勤務開放を含む独特の勤務体系が導入され長時間拘束が増えたこと、運転面に加え接客面も会社による管理が厳しくなったこと、そして何より人の生命を預かる仕事であることを考えれば、処遇は十分ではないかもしれません。

 それでも平均年収は全産業男子平均を上回っているとみられ、福利厚生もかなり充実しています。冒頭で紹介した就職イベント「どらなびEXPO」の「現役運転手のトークセッション」で筆者が司会を務めた際、大手私鉄系事業者の若手運転手が「会社に社会的信用があり、銀行から住宅ローンを想定以上の金額まで借りることができた」と言っていたのが印象的です。大事故を起こしたような零細事業者とは環境が全く異なります。

 11月、京王バスが、自己都合で退職した運転手が復職した場合、「退職時の待遇で処遇する」という制度を始めました。コロナ禍で離職した元運転手らを想定した制度ですが、このような事業者では、個人差はあるものの勤続年数が伸びるにつれ給与が上がる傾向だということがわかります。同社は運賃の値上げを実施済みで、それを原資に運転手の待遇を改善することも決めています。

 次に、地方部で主に路線バスを運行する事業者は、バスを中核に小売業や観光産業など幅広く経営する会社がほとんどです。昭和の高度成長期に比べると路線バスの輸送人員は大きく減少しましたが、幾度も法改正が行われ、赤字だが重要だと地域が認めた路線は国や自治体による補助金で維持されることになりました。企業として経営は厳しいものの、働く側からは、公的な補助によって守られる安定した職場という見方もできます。

待遇は改善 シャキッとせよバス業界!

 公的な補助金は金額設定が厳格で、運転手の待遇改善が困難な状況が続いていましたが今般の運転手不足を受けて、運賃および補助金額の算定基準アップが認められそうで、ようやく収入額の増加が実現しそうです。

 また貸切バス専業の事業者もあります。個人向けのビジネスではないため路線バス事業者に比べ社名の認知度が小さいのですが、業界内で一目置かれる名門の老舗事業者から、成長株の個人経営の事業者まで多様です。2023年8月には運賃額の改定が行われ、貸切バス事業者の収益はさらに高まっており、運転手の待遇改善が始まっています。

 先日、メディア取材に立ち会っていると、業界関係者が記者から運転手不足の理由を問われ、平然と「若者がクルマ離れして普通免許さえ取得しない傾向だから」と答えていました。確かに若年層の免許保有者数は20年間で4割程度も減少しています。しかし、保有者の比率をみると1割程度の下落に過ぎません。

 若年層が「クルマ離れ」しているわけではなく、そもそも少子化により若年層の総数が大きく減少しているのです。人手不足は全業種共通の現象で、バス業界だけ、運転職だけではありません。

 一事が万事この調子です。かつてない求人の苦戦に浮足立ち、バス業界自らが不人気な職種だと思い込んでその理由を勝手に作り上げているのです。自ら不人気だと思っている業界に入ろうとは誰も思わないはずです。

「運転手不足のため減便や路線廃止」というニュースも続きますが、これには、赤字だけど地域に配慮して廃止できなかった路線をこの機会に一気に処理しているという側面もあります。しかし、あまりに運転手不足が前面に出すぎると不人気職種というレッテルが世間に定着しかねません。バス事業者は情報の出し方に注意する必要があります。

 人手不足は国全体の、かつ慢性的な問題で、今後も他業種との人材の取り合いが続きます。バス業界には、データを冷静に分析し待遇改善も含めた対策を適切に実施したうえで、自信を持って採用活動に臨むことが求められています。

関連タグ

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

角田裕毅、自分はレッドブルにふさわしいと主張も、ドライバー選択には「パフォーマンス以外の要因も関係している」
角田裕毅、自分はレッドブルにふさわしいと主張も、ドライバー選択には「パフォーマンス以外の要因も関係している」
AUTOSPORT web
道路版つくばエクスプレス「都市軸道路」延伸だけじゃない! ボトルネックの橋が念願の4車線化
道路版つくばエクスプレス「都市軸道路」延伸だけじゃない! ボトルネックの橋が念願の4車線化
乗りものニュース
プレミアムスポーツに進化した、レクサス『LBX MORIZO RR』の全貌[詳細記事]
プレミアムスポーツに進化した、レクサス『LBX MORIZO RR』の全貌[詳細記事]
レスポンス
わずか全長1.9m!? まるで“1人乗り軽トラ”な「SUZU-CARGO」がスゴイ! スズキの斬新「小さいのりもの」への反響は?
わずか全長1.9m!? まるで“1人乗り軽トラ”な「SUZU-CARGO」がスゴイ! スズキの斬新「小さいのりもの」への反響は?
くるまのニュース
使いやすさはグーグルマップよりも上!? 人気も実力も伴った無料「カーナビアプリ」使ってみてわかった便利な機能とは?
使いやすさはグーグルマップよりも上!? 人気も実力も伴った無料「カーナビアプリ」使ってみてわかった便利な機能とは?
VAGUE
[新型フロンクス]ボタンがもはやランドクルーザー!! シフトまわりのデザインが衝撃
[新型フロンクス]ボタンがもはやランドクルーザー!! シフトまわりのデザインが衝撃
ベストカーWeb
全天候型のベストセラー「ガエルネ パンテーラ」がバックルを進化させて「PANTERA NEO BLACK」になった!  
全天候型のベストセラー「ガエルネ パンテーラ」がバックルを進化させて「PANTERA NEO BLACK」になった!  
モーサイ
自動車のカタログ好きは集まれ! ACC・JAPANがイベントを開催
自動車のカタログ好きは集まれ! ACC・JAPANがイベントを開催
driver@web
注目のオールシーズンタイヤ「ダンロップ シンクロウェザー」の実力を検証!すべての路面を試して感じた「安心感」
注目のオールシーズンタイヤ「ダンロップ シンクロウェザー」の実力を検証!すべての路面を試して感じた「安心感」
Webモーターマガジン
日産が「新型SUV」世界初公開へ!? トヨタ「ランクル」よりデカイ「新パトロール」誕生か!? 大排気量V6搭載も期待の「新モデル」中東でまもなく登場
日産が「新型SUV」世界初公開へ!? トヨタ「ランクル」よりデカイ「新パトロール」誕生か!? 大排気量V6搭載も期待の「新モデル」中東でまもなく登場
くるまのニュース
オクタって何?ランドローバーはオクタによってディフェンダーを新たなレベルに高めた その走行性能と全情報をレポート
オクタって何?ランドローバーはオクタによってディフェンダーを新たなレベルに高めた その走行性能と全情報をレポート
AutoBild Japan
メルセデス、ストレートだけで1秒近くタイムロス。ラッセル「マクラーレンはマックスパワーだったんじゃ……」
メルセデス、ストレートだけで1秒近くタイムロス。ラッセル「マクラーレンはマックスパワーだったんじゃ……」
motorsport.com 日本版
[エンタメ環境向上計画]「リアモニター」は、どんなモデルを選ぶべき?
[エンタメ環境向上計画]「リアモニター」は、どんなモデルを選ぶべき?
レスポンス
トヨタ新型「SUVミニバン」初公開に反響多数!? 「気になる」「かっこいい」の声! “ド迫力顔”に“ジムニー級”地上高のレトロ仕様「ヴェロズ」泰で登場
トヨタ新型「SUVミニバン」初公開に反響多数!? 「気になる」「かっこいい」の声! “ド迫力顔”に“ジムニー級”地上高のレトロ仕様「ヴェロズ」泰で登場
くるまのニュース
タイレルP34とレイナード93Dが「サンブレフェスタ」にエントリー!手作りの6輪F1タイレルP34を追え!Vol.11
タイレルP34とレイナード93Dが「サンブレフェスタ」にエントリー!手作りの6輪F1タイレルP34を追え!Vol.11
旧車王
日本は12.4年! クルマの「平均使用年数」が年々延び続けている根本理由
日本は12.4年! クルマの「平均使用年数」が年々延び続けている根本理由
Merkmal
なぜ「ゲームボーイ」でクルマが盗まれる?“最新セキュリティ”突破する「新たな手口」も登場!? 盗難防止策はある?
なぜ「ゲームボーイ」でクルマが盗まれる?“最新セキュリティ”突破する「新たな手口」も登場!? 盗難防止策はある?
くるまのニュース
お肌もバイクも紫外線は大敵! でもどうすれば?
お肌もバイクも紫外線は大敵! でもどうすれば?
バイクのニュース

みんなのコメント

89件
  • まぁくんRR
    聞いた話でのバス運転手の給料…
    これだけの給料で、人の命を預かるのは荷が重すぎるだけで、やってられないてしょう?
  • myg********
    何しても文句言われ、会社や上司は客対応が悪いと減給され、
    大体路線バスが一般道を走っていれば、一割は邪魔くさいと言うだろ?運転手していたってそう思うんだから、自分勝手な人なら俺の前に路線バスを走らすな!と言うだろ?
    定刻一分でも遅れたら、遅い!定刻通りに出発しようとしたら、乗せてくれなかった!巻き込み防止に左右確認しても隙間を狙って突入してくるバカもいて、モタモタするから後続には邪魔だと言われ、たまに小学生にありがとうございました!と挨拶されると泣きそうに成った。
    それでいて、営業所戻れば、これらの苦情を一々指摘され、会社は減給の対象にする。敵しか居ない。
    路線バスから観光バスに乗り換えたら楽しかったね。ガイドさん添乗員、大概おばさんだけど、修学旅行や遠足もあるし、若い人向けのバスツアーもあるし、お姉ちゃん達とバスの前で写真なんて事もしばしば。
    路線バスは二度としない。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村