2009年、豊田章男社長体制になってから、“走り”へのこだわりを具現化しているトヨタ。そして章男社長が掲げたテーマが『もっといいクルマづくり』だ。この取り組みをトヨタは今日まで実践してきているわけだが、その効果は出ているのか?
トヨタの「もっといいクルマづくり」の成果は、現在のトヨタ車にどのように現れていて、その効果が発揮されたトヨタ現行モデルはどれなのか?
日本車が世界を揺るがした瞬間 初代セルシオが変えた高級車の世界
文/松田秀士 写真/トヨタ、ホンダ、ベストカー編集部
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■かつてトヨタ車はハンドリングが悪いという評判だった
かつてグループAのベース車として使われたAE92型カローラレビン
筆者がレーシングドライバーと並行してモータージャーナリスト活動を始めた頃(1980年代半ば)。「トヨタだからしょうがないよね」という言葉を周りの評論家や編集者からよく耳にした。「しょうがないよね」は何かというと、ハンドリングの悪さだった。
当時、トヨタ系のレーシングチームに2年間在籍させていただいたが、その頃に「グループA」と呼ばれた全日本ツーリングカー選手権という、市販車をベースにした改造範囲の狭いレースに出場させていたただいていた。
市販車に対して改造範囲が狭いから、いわばベース車両(市販車)のポテンシャルがモノを言うわけだ。現在のスーパーGTとはこのあたりが大きく異なり、スーパー耐久に近いレギュレーションだった。
このグループAレースには排気量別に3つのクラス分けがあり、1クラスがスカイラインGT-R、スープラ、フォードシエラなどの大排気量車またはターボによる高出力車。
2クラスはBMW M3(E30型)のほぼワンメーク。そして3クラスにはホンダシビックとトヨタカローラが出場していた。この3クラスはホンダ対トヨタのワークス対決の場となっていたのだ。
当時、レースでの結果はシビックが優勢でなんと11連勝を遂げていた。1シーズンに6~7レースぐらいなので2年越しの連勝というものすごい記録だ。
実は1988年に富士スピードウェイで開催された最終戦(インターTEC)で勝利し、筆者がシビックの12連勝をストップさせたことがあるのだ。ま、自慢話はこれくらいにしよう。
■ファミリー層ウケがいいことが優先されたトヨタ車
4代目ホンダ シビック。実に11連勝という記録をうちたてた
当時のカローラは走りの面でシビックに対して明らかに劣勢だった。これはベース車両がカローラのターゲットユーザーである一般ファミリー層に向けたクルマ作りをしていたからだ。
レース結果とは関係なく、トヨタは一般車の販売が着実に伸びていっていた。しかし、ジャーナリズムの世界では速くてコーナリング性能のいいクルマが評価されていたこともあり、カローラだけに限ったことではなく、トヨタのそういうクルマづくりの方向性が批判されることが多かった。
確かに、その頃は欧州車(特にドイツ車)の性能が格段に高く、これはアウトバーンの存在がイチバン大きかったと考えられるが、いかに欧州車に追いつけるか? がテーマとなっていた。
欧州車をベンチマークにする傾向は現在も変わらないかもしれないが、その溝は大きく埋まりつつある。特にこの時代からのトヨタ車を見てきた筆者としては、トヨタ車の進化のゲインには目を見張るものがあるのだ。
■「もっといいクルマづくり」以前にもいいクルマはあった!
レースに造詣が深い豊田章男氏が社長に就任して以来、トヨタ車の進化には目を見張るものがある
特に近年のトヨタ車の進化は著しい。その一番の要因は、まぎれもなく豊田章男社長の誕生だろう。章男氏はもともとモータースポーツに興味があり自らもレースに出場することは周知の事実。現在はトヨタのマスタードライバーという開発にも参加している。
章男氏がトヨタ社長に就いた頃、近しいジャーナリストから「なんでも構わないからトヨタ車のダメ出しをしてほしい」と章男氏自ら声をかけられた、という話をよく耳にした。章男氏のこのような姿勢が、トヨタ車の開発に大きく影響したことは疑いのない事実だろう。
この頃から「もっといいクルマづくり」というスローガンのもと、トヨタのクルマは少しずつ変わっていった。
マークXをレーシーに強化したG’sモデル。ハンドリングと乗り心地は驚くべきレベルだった
それまでにも「おおー!」と思わず叫んでしまうようなクルマがなかったわけではない。個人的には2000年に登場したOpa(オーパ)。設計統括した堀氏はストラットマウントにいわゆるドロースティフナーなようなタワーバーを試験装着するほどハンドリングを重要視していた。
現在のシエンタに相当する位置づけのクルマだったが、ベース車両のハンドリングはスムーズにサスペンションが動く素晴らしいものだった。
さらに2013年、マークXに軽量化、低重心化、スポット増し、高性能ダンパーなどで強化した限定100台の “G’s”モデルを製作。このハンドリングと乗り心地は当時として驚くべきレベルだった。そのほかにもノア/ヴォクシーなど、いいクルマが時折顔を覗かせていた。
しかし、それらがそのままバージョンアップすることはなかった。すべて単発だったのだ。
■「7カンパニー制」導入はトヨタ車に大きな変化をもたらした
2018年にTNGAのプラットフォームを使って登場したカローラスポーツは楽しく気持ちのいい走りを実現した
だがしかし、大きな進化を起こしたのは2016年からトヨタが実施した製品群ごとに分けた7つのカンパニー体制だろう。意思決定、開発速度を優先して、それまでのピラミッド型の組織からそれぞれの製品群ごとにカンパニーを作り、大枠で独自開発を任せたのだ。
カンパニー制はある意味独立企業のようでもありコーポレートガバナンスの立場から本社サイドの管理統制がカギとなる。暴走がいちばん怖いからだ。
ここで大きな役目を果たしているのが豊田章男社長の存在だろう。組織のすべての人々が章男氏の言う「もっといいクルマづくり」を目指してひとつになっているように思う。
製品群ごとに縦割りになりがちなカンパニー制ならではのデメリットもあるだろう。しかし、最近ではそれらのカンパニーがADAS(先進運転支援システム)などでは横断的にうまく機能していることに注目している。
最近マイナーチェンジしたレクサス ISは欧州ライバルを凌駕するハンドリングを達成している
まず、最初に感動したのは2018年にTNGAのプラットフォームを使って登場した「カローラスポーツ」だ。このサスペンションの動きはトヨタ車にはなかったもの。動くサスペンションはあったものの、それらは優れたハンドリングやスタビリティーを持っていなかった。
そのためバンプストッピングラバーなどで動きをサスペンションの動きを制御していた。しかしカローラスポーツはしっかりストロークさせながら、楽しく気持ちいい走りを具現したのだ。
2019年に復活した「RAV4」は、最近のSUVで目立つオンロード志向を塗り変えるかのような、オフロード性能の強化でヒットモデルとなっている。RAV4はオン・オフどちらも楽しめるハンドリングもトヨタとして異端児ともいえる。
さらに最近マイナーチェンジしたレクサス「IS」の進化も著しい。特にFスポーツモデルは欧州ライバルを凌駕するハンドリングを達成している。
■豊田章夫社長がトヨタ車を進化させた!
乗り心地とハンドリングを両立させたアルファード/ヴェルファイア
とはいえカンパニー制だけがこのような結果を生んでいるとは考えていない。その先駆けは2015年にフルモデルチェンジした「アルファード/ヴェルファイア」から感じていた。大型ミニバンの乗り心地とハンドリングの両立だ。試乗会で「これが本当にトヨタのミニバン?」と舌を巻いた記憶がある。
あの頃から素性が整ってきていたのだろう、そこにカンパニー制という組織改革、そして豊田章男氏という社長の存在がトヨタ車のハンドリングを押し上げている。
少々持ち上げすぎか、とは思うがGRヤリスの登場は1970年台TE27レビンが出現したあの時代を彷彿とさせる。
世の中はEVブームに沸いて、クルマの家電製品化は当たり前であるかのように経済アナリストなどは評論するが、EVの時代になろうともクルマは品質が重要だ。世界一クルマを売るメーカーとしてトヨタの走りにこだわる製品づくりの今後に期待したい。
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みんなのコメント
メーカー贔屓は無いけど、ラインナップでトヨタ車に選択肢が多くなったのは事実。
カローラもネーミングはアレだけど、中身と価格、かなり優れてますね。
日本の顧客を大事にしてる証でしょう。