スーパーGT2019
スバル STIの先端技術 決定版 vol.41
今季のスーパーGT BRZ GT300はマシン開発の方向性にブレがなく、常に上位争いができることを目指し、マシン造りをしてきている。そのためにはセッティングの幅を広げ、さまざまな条件に適合できるようにしていくことが求められているわけだ。シリーズの折返しとなる第4戦タイ・ブリラムで開催されたチャーン国際サーキットでもSUBARU BRZ GT300は新しいチャレンジをしていた。
ニュータイヤへの挑戦
新しい挑戦とはニュータイプのタイヤ開発だ。シーズンオフからテストを繰り返し、開発を続けてきたタイヤだが、実戦投入しての実力は未知数のままだった。スーパーGTは気温が暖かくなってから開幕を迎えるため、想定温度はある程度、路面温度があがった状態での開発になる。しかし、これまでの本番レースでは、想定温度や路面のμに合わず投入を見送っている。また、シーズン開幕後は自由にテストできないルールもある。
そうした限られた条件の中でダンロップと開発を進めていたのが、路面温度がX℃~XX℃前後(秘密のため)のときに従来タイヤと同等のグリップ力を持ちながら、ロングライフで使えるタイヤを目指していた。もちろん、相反性能であり、簡単にはいかいないがひとつの挑戦としてトライしていたわけだ。
その新開発したタイヤを試す最初に訪れたチャンスが今回の第4戦タイ・ラウンドというわけだ。公式練習、予選、そして決勝での路面温度には違いがあるが、いずれも40℃以上あったのは間違いない。とにかく、抜きどころの少ないタイのコースでは、予選のポジションがいつも以上に重要となる。さて、その新タイプのタイヤだが、事前確認の結果から簡単に性能を説明すると、路面温度が低い時でもグリップ力は非常に高いが、グリップ力の低下が早い、といった特性であった。つまり、路面温度が低い≒低ミュー路面でもグリップが高い、しかし課題のグリップ力低下は、低ミュー路面のタイでは少ないのではないか、との読みがあり投入したわけだ。
こうした新タイプのタイヤを投入したため、土曜日午前中のフリー走行には期待が高まった。タイのチャーン国際サーキットは路面のミューが低くグリップしにくいサーキットだと言われている。この日は気温も路面温度も高いため、好条件ではないかと判断したわけだ。
一方で、他チームの様子を伺うと、要求性能としてソフトタイヤを使えば、タイムは出るもののライフが短くタイヤ交換は4本が必須になる。また、ハードタイヤを使えばタイムは上位は狙えないが、タイヤ無交換作戦が取れる、といった戦略で戦っている。ところがこの1年は目覚しい進歩があり、グリップもよく、タレも少なくロングライフといったタイヤの存在が見て取れるようになっているのだ。そこで、BRZ GT300としても対抗していかなければ、上位フィニュッシュは遠い目標となってしまうからだ。
迎える予選、SUBARU BRZ GT300はフリー走行でライバルチームとのタイム差を見ながら、どういったタイプのタイヤを選択するかを判断していた。
ギヤ比も変更
土曜日の午前、GT500との合同公式練習は1時間25分あり、その後GT300専有で10分間の走行時間がある。そこで見えてきた状況として、トップタイムは1分32秒836に対してBRZ GT300は1分34秒084と差がある。トップスピードでは256km/hを記録するマシンがいるものの、多くは253km/h前後。BRZ GT300も251km/hを記録しており、MCやAMG GT3よりも速く最高速比較では大きな差は出ていないという状況だった。
しかしドライバーからは全体に「グリップが薄い」というコメントがあり、苦しい状況だ。もちろん、マシンのメカニカルグリップをコントロールするジオメトリーは2018年仕様よりは向上させている。ダウンフォースも上げており、改善はしているが理想とするハンドリングからは乖離があるということなのだろう。
こうした状況の中、予選が行なわれる。サーキットレイアウトの特徴として、セクター3はコーナーが多く抜きにくいレイアウトで、セクター1、2にはストレートがあり、特に最終コーナーは鋭角にまがってからの加速競争となるので、排気量の小さいBRZ GT300には厳しいレイアウトになる。そのため、中速コーナーをリズミカルに走れ、かつ、高速での伸びが少しでもよくなるようにするため3速と4速のギヤ比をややハイギヤードに変更することを決断する。
そのための作業遅れが予選開始時刻に影響し、Q1予選を出遅れてしまう。15分間の予選だが、残り7分までピットアウトができない。危うくノックアウト予選落ちとなるところだったが、ギリギリのタイミングでドライバーの井口卓人選手は3ラップ計測した。上位16台がQ2へ進出できるが、1分34秒907で22位、1分33秒950で14位、そして最後1分33秒836を記録し11位となり、無事、Q2へと駒を進めることができた。
ギャンブルもありだった?!
続くQ2は山内英輝選手がアタックするが、のちに渋谷総監督は「Q2はもっとギャンブルしたほうがよかったかな」と残念がることになった。
それは、日本から持ってくるタイヤを選択する際、7セットしか持参できないルールがあり、1ランクソフト寄りのタイヤを持ってくるべきだった、ということだ。実は1ランクソフトなタイヤの日本でのテスト結果は、予選くらいのラップ数でもムービングが起きたため、今回持ってくるセットから外している。しかし、このタイヤがタイの高路温で使えたかどうかは疑問があるものの、もしかしたら1スティントはもったかも? という可能性はあったため、「ギャンブルするべきだった」と話している。つまり、低ミュー路であるサーキットだから、タイヤへの攻撃性が低いわけで、その性能低下率が国内のテストより穏やかではないか、という可能性だ。
さらに考えられるのは、仮に、ギャンブルに出たとして、決勝のスタートタイヤがQ1タイヤかQ2タイヤかそのどちらかがスタートタイヤとなるわけで、決勝で今回持ち込まなかったソフトが指定されたとしたら、予選でタイムアッタクしているタイヤでありつつ、決勝ではウォームアップ走行もあるため、第1ドライバーの周回数は減らし、早めのドライバー交代という作戦は必然になってくる。
しかしBRZGT300は燃費が悪いという欠点もあり、早めのドライバー交代では後半ガス欠になってしまう危険があるのだ。そしてもともとがアタック済みタイヤを使用しているため、ドライバー交代はレース周回数を半分にしたラップ数より、そもそもが早いタイミングでのピットインになるわけで、その時点でBRZ GT300の燃費には余裕がないということがある。
こうした状況をみると、今回持ち込まなかった1ランクソフトなタイプを持ち込んで予選を走ったとしても、いずれにせよ、苦しい戦いは強いられたことは間違いない。が、予選で上位にいれば、レースではまた違った展開があったかもしれない。そうしたことも考えられるため、反省すべき点があるということなのだろう。それにしても、セッティングの幅を広げるためのニュータイヤ投入のはずだったが、結果的にはマッチングの幅は狭いという印象で、常に上位争いをしていくには、選択肢は広がったものの精度が必要という一面も浮き彫りにされたわけだ。
こうした状況からもわかるように、ドライバーは常にグリップが薄い状態でレースをすることとなり、チームは思ったほど上位でレースができず、不満の残るレースとなってしまった。だが、2年連続でリタイヤしているブリラムでのレースを完走したことは、次回につがなるデータ収集ができたということは言えるのではないだろうか。
次回は真夏の富士スピードウェイで500マイルレースがある。約800kmの長丁場こそ、BRZ GT300の粘り強い走りで上位入賞を狙ってくる。現在シリーズランキングではチームが9位、ドライバーは10位という順。ウエイトハンディは30kgとまだ、軽量ハンディなので残りのレースを考えると絶対に落とせないレースになる。
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