この1年間に登場したインポートカーの中から、とくに運転の楽しさが印象に残ったクルマを、Motor Magazine執筆陣+Motor Magazine編集長が採点。「モーストファンカー 2021」を決定します。前編となる本記事では4~20位を紹介。(Motor Magazine 2022年1月号より/写真:永元秀和、小平 寛、井上雅行)
ノミネート総数84台+αの中から選んだドライビングが楽しいクルマたち
運転して楽しい輸入車を5台選ぶ。簡単なようだが、実はこれが難しい。なにせ、日本では毎年、イヤーモデルチェンジや一部改良を含め70~80車種を超える新型の輸入車が発売されるのだから。さらに、海外で現地発表されてから日本で発売されるまでに時間がかかることもあり、まずはノミネート車を決めるのが大変なのだ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
結果、選考委員に渡したノミネートリストには84台が並んだ。採点のしやすさを考慮して、たとえば911シリーズ(タルガ、ターボ、ターボS)などは1車種にまとめたので、ノミネート総数は厳密には90台を超えている。多忙な中、そこから5台を選んでいただいた選考委員のみなさんに、この場を借りてお礼申し上げたい。
さて、2020年の8月号で第1回を掲載してから1年半近くが経過してしまったが、今回、顕在化したのが電動車勢の躍進だ。アウディ eトロンGT、ポルシェ タイカン、そしてメルセデス・ベンツ EQAのBEV勢に加え、プジョー 508やフェラーリ SF90ストラダーレなどのPHEVもランクイン。急激に勢力を増している電動車はもはや身近な存在となりつつあり、新たなFUNの実現を求めて今後もさらなる進化を遂げていくはず。2021年は日本の自動車史におけるターニングポイントとして記憶に残るだろう。(編集部)
ノミネート車 と対象期間
2020年4月1日~2021年9月30日に国内で発表/発売され、かつ試乗の機会を与えられたインポートカーの中から、編集部が独断で選んだ84台(+α:シリーズ追加や年次改良を含む)をノミネート。試乗車の都合などで、2020年4月1日以前に発表・発売されたクルマの一部も対象としている。
選考方法
選考方法:選考委員は編集部がノミネートしたクルマのリスト(84台+α)から「運転して楽しい=ファン」と感じた5台を選出。さらに、1位は5点、2位は4点、3位は3点、4位は2点、5位は1点をそれぞれ配点してもらった。全員の点数を合計して「モーストファン2021」を決定する。
選考委員
選考委員:選考委員は、いつもMotor Magazine誌に執筆していただいているモータージャーナリストと本誌編集長の計10名。こもだきよし、河村康彦、大谷達也、渡辺敏史、石井昌道、島下泰久、岡本幸一郎、飯田裕子、竹岡圭の各氏(順不動・敬称略)と千葉知充(本誌)。
4位/13点 ポルシェ911シリーズ(911タルガ/911ターボ/911ターボS)
止まらない進化を前に最新最良を実感 ーこもだきよし
こもだ(1位):911はいつの時代のモデルでもファンだが、そのベースにあるのはボディ剛性の高さだ。最新のモデルではさらに剛性がアップしており、わずかな舵角から正確な反応があるし、ボディの振動が残ることもない。サスのストロークもたっぷりとあって乗り心地も良い。強大な出力のエンジンを乗せているにも関わらず、だ。さらにリアエンジンレイアウトによる独特の前後重量配分による回頭性の良さとトラクションの高さがドライビングの楽しさを倍増させる。
島下(2位):911ターボSは当然速い。凄まじく速いのだが、それだけで驚いたわけではない。その速さにはポルシェらしい密度感、凝縮感、精度感がギュッと凝縮されていて、アクセルペダルひと踏みだけで圧倒してくるのだ。速さとその質、深みでポルシェは、周囲を取り囲むライバルたちに誰が王者なのか改めて知らしめようとしている。そんな気がした。一方、911ターボはぐっとラグジュアリー感があって快適。単なるパワー違いじゃなく、キャラもしっかり分けられているのが見事である。
千葉(2位):2021年、タイプ992の911シリーズに新たに加わったタルガは、街中ではまるでスポーツカーらしくないコンフォートな乗り心地を見せたと思えば、ワインディングロードでは刺激的なハンドリングが味わえるというまさにマルチな1台だった。そしてつい先日乗った911GTSにも驚かされた。試乗車は、7速MT仕様でクルマを走らせる愉しさ、操る歓びがとても強かった。GT3を除けば、911シリーズの中でマニュアルトランスミッション搭載を選ぶなら、コレ一択となる。
5位/10点 アウディe-トロンGTクワトロ/RS e-トロンGT
充電するのもまた楽しい。アウディらしさも不変 ー千葉知充
千葉(1位):BEVは長距離を走るのが苦手だとされているが本当にそうだろうか。それを確かめるため、新しいBEVに乗る機会ができると、ついロングドライブに行きたくなり、e-トロン GTクワトロとRS e-トロン GTの2台で今回(本誌P32)も1200kmほど走った。充電は10回はしただろう。しかし、そのどれもがまったく苦痛ではなかった。気になったのは、ポルシェタイカンとの差別化。つまりアウディらしさはあるのか、である。しかしe-トロン GTクワトロは運転席に座った瞬間からアウディそのものであった。
大谷(3位):これが新時代のグランドツアラーであることは、乗ればたちどころにして気付く。クルマ全体が驚くほどソリッドで、しかも傑出した低重心設計が施されているため、走行に伴う雑味感が皆無で、これまでなかったピュアなフィーリングを味わえる。乗り心地の滑らかなことは信じられないほど。BEVらしい静けさに包まれたキャビンで寛いでいると、未来が「いま、ここにある」と確信するはず。強烈極まりない加速感については「言わずもがな」だ。
島下(4位):勝手に想像していたのは、ポルシェ タイカンとそう変わらない乗り味。けれど実際には、スポーツカーのタイカンに対してラグジュアリースポーツのe-トロン GTと、見事に作り分けられていた。BEVの旨味を活かした加速感、ドライバビリティ、質の高いスポーツ性を感じさせるフットワークに乗り心地はグランドツーリングカーとして珠玉の仕上がり。美しいデザインも含めて、まさにBEVだからこそ実現できた濃密なアウディらしさが、そこにはある。
5位/10点 ルノー メガーヌR.S.
FFでこのハンドリング。アンダー500万円は驚異だ
河村(3位):エンジンは文句なくパワフルでレスポンスに優れるし、FF車ながらサーキットでの限界走行時にもアンダー知らずで4コントロール(4WS)を生かしたハンドリングにも感激。
飯田(3位):たまらなくワインディングロードが恋しくなるヤツ。連続するコーナーの数は多いほど嬉しい。いつものコーナーの道幅が広く感じられるほどスイスイ、クルクルっ!
大谷(4位):「たかがCセグメントのスポーツハッチ」と舐めてはいけない。4HCCによるしなやかな足まわりとロードホールディングの確かさは、スーパースポーツと肩を並べるほど。
石井(5位):ニュルのFF最速タイムを狙うモデルとして注目を集めがちだが、生活をともにするスポーツモデルとしての価値が高い。4コントロールの利点は、ハイレベルな操縦性を、サスペンションをあまり硬くしないで実現できることにもある。
岡本(5位):FFでも突き詰めるとここまでできることを思い知らされた。300psにパワーアップした最新版は、よりレスポンスと力強さに磨きがかかっている。4WSも効いてハンドリングも痛快そのもの。タイトなコーナーほどそのありがたみを実感する。
7位/9点 BMW M2
伝統のBMWらしさを味わうなら最適の一台
石井(2位):M3/M4は、いまやパフォーマンスが高くなりすぎてストリートで楽しむにはトゥーマッチになってきている。サーキットに行かなければ存分に性能を引き出せない。その点、M2はほど良いサイズとパフォーマンスで、デイリーでいい汗をかける。
河村(2位):走り出した瞬間にこれほど色濃い「人とクルマの一体感」を味わわせてくれるモデルはほかになし。直列6気筒エンジンやFRレイアウトなどを次々と失っているブランドだが、それらが単なる記号ではなかったことを、M2は改めて教えてくれる。
渡辺(5位):20世紀の延長にあるオーセンティックなBMWを懐かしむなら、これに勝る選択肢はないと思える。素晴らしいエンジンもさておき、BMWらしいアジリティも持ち合わせている。実用性も含めて、一生をこれ一台でいっちゃってもいいかと思えるほど。
8位/7点 ランドローバー ディフェンダー
ワクワクする「夢」が見られるファンな一台
飯田(2位):スポーツ性の高さとは対局にある「ファン」がココにあります。アナログとデジタル、クラシックとモダンの絶妙な融合が心地良い。特別な場所ではそのテクノロジーを発揮するも、日常では万人に優しい。カントリーとアーバン、日常と非日常(趣味)を心地良く頼もしく繋いでくれること間違いなしです。
竹岡(3位):世紀を跨いで2代目登場。それだけでもう、ロマンを感じちゃいます。先代モデルのモチーフをなんとなく感じさせつつも、イマドキのクルマに仕上がっているのだけれど、高性能な運動性能と乗り味を含めて本当に嫌味がありません。もう少しコンパクトなら本気で欲しいと思っている方、たくさんいらっしゃると思います。ディフェンダーなら行けないところはない、という気持ちにさせてくれる、壮大な夢が見られそうです。
9位/6点 BMW M3/M4
Mはかくあるべしという理想的存在
こもだ(3位):ファンの源泉はS58B30型と呼ばれるM社製の3L直列6気筒エンジンだ。高回転域はもちろん、2000~3000rpm程度でも気持ち良く走ることができる。アクセルペダルのゲインは多少高めだが、深く踏み込めばそれに比例した力を発揮して、ちょっと走り込めば慣れる。こうなれば低回転でも高回転でも意のままに操ることができるだろう。
岡本(3位):Mはこうであって欲しい、という理想そのもの。技術の粋を集めて開発された新しい直6はまさに“絶品”。従来型でもやっぱり直6のツインターボは美味だと感じていたが、新型はより高回転でのキレが増した印象で、ドラマチックな吹け上がりにホレボレする。究極の直6といっても過言ではない。FRを極めたハンドリングも、俊敏かつ何でも許してくれそうな懐の深さを感じる。
9位/6点 MINI3ドア/5ドア/クラブマン/コンバーチブル
デザインだけでなく走りも本格的
飯田(2位):普通のミニはちょっと乗り心地が硬いかな~と敬遠気味だった私が、ある日の取材で出会ったのがJCW「コンバーチブル」。骨太なゴーカートフィーリングに威勢のいいエンジン。それを少し肩の力が抜けた柔軟なハンドリングでオープンドライブを気持ち良く楽しめた瞬間、「コレだ!」と実感。
竹岡(2位):いつの時代もどんな時代も、見ても乗っても楽しいクルマの代表選手と言えるのではないでしょうか? MINIの佇まいを見て、自分には可愛すぎるかな? という人はいても、キライという人には、いまだかつてお目にかかったことがありません。それくらい唯一無二の誰にでも愛されるキャラクターなんです。でも単なるファニーカーではなく、走りは本格派。ステージによっては、大排気量のクルマを追い回せるファンなマシンです。
9位/6点 シトロエン ベルランゴ
この想定外がモーストファン-竹岡圭
竹岡(1位):ユニークなエクステリアからして、期待が膨らみます。それを裏切らないユーティリティ。あんなところにも、こんなところにもポケットエリアがありすぎて、どこに何を収納したか忘れそうですが。どうやって使おうかなぁ~と、ワクワクがあふれてくるところ、つまり乗る前から楽しいモーストファンなクルマだと思います。電車の網棚のようにヒョイと載せられる、半透明の頭上の棚なんて、普通は思いつかないもんネ(笑)。
河村(5位):自分でも「これが5位に入るとは」とビックリ。「ル・マン24時間レース参戦マシンで培ったテクノロジーを採用」と伝えられるディーゼルエンジンとアイシンAW製の最新8速ATの組み合わせは予想と期待よりはるかにパワフルだし、雨のタイトな山岳路をがんがん行けちゃう操縦性も驚きの感涙モノ。この「想定外」な走りこそが最大の魅力。
12位/5点 ポルシェ タイカン
BEVの特性を活かした究極の一体感
河村(4位):911よりもボディコントロール性能が上じゃない? 高速走行のフラット感はこれまでに経験したどんなクルマよりも高く、コーナリング時の圧倒的な低重心感も同様。4WDのハイパワーBEVがみせる怒涛の発進加速にはもう慣れたが、タイカンは突出したシャシ能力がアッパレ!
岡本(4位):BEVになってもポルシェそのもの。隙のない緻密な乗り味は、他のポルシェ車に通じる。そこにBEVならではのダイレクトなアクセルレスポンスが合体した走りはすべてに隙がなく、究極の一体感がある。
竹岡(5位): BEVでしか味わえない乗り味の愉しさってあると思います。重心の低さ、乗り味と乗り心地の両立、ダイレクトな動き、静粛性の高さ、振動の少なさ・・・そうやって挙げていくと、スポーツカーこそBEVの特性が生かせるシーンが多かったりするんですよね。
13位/3点 プジョー508
フラッグシップならではの充実装備
千葉(3位): パワーオブチョイスを謳うプジョー。そのラインナップからはBEVもPHEVもディーゼルもガソリンも選べるのだが、その中のフラッグシップとなるのが508である。中でも2021年に追加されたPHEVのGTは、508の魅力をさらに増幅させている。そもそもこのクラスの中で508のデザインは、4ドアクーペもSWも大好きだ。さらに充実したADASや快適装備などの充実ぶりは誰にでも自信をもって勧めることができる。プジョーはSUV系が充実しているが、508シリーズも試す価値がある。
13位/3点 フォルクスワーゲン ゴルフ
抜群のコストパフォーマンスにも注目
島下(3位):「手元を温める」のような項目を選ぶだけで空調を最適に整えるスマートクライメート機能や、画像上で欲しい機能をオン/オフできる運転支援装備といった使い勝手の部分から、ゴルフはクルマの新しい歓びを実感させてくれる。走りも素晴らしい。驚くほどソフトな脚は山道ではあきれるほどの接地性の高さとコントロール性の良さを発揮。マイルドハイブリッド化された1.0LのeTSIユニットのドライバビリティ、燃費にも感心させられた。しかも日本仕様の価格が安い!
15位/2点 ベントレー ベンテイガ
モーターでも走る新時代のベントレー
飯田(5位):ボディの隅々にまで気品漂う華やかさを、クラフトマンシップが宿る最新の内外装で表現。街中から山岳路にいたる道程で味わう6LのW12ターボエンジン、エアサスペンション+ベントレーダイナミックライドは偽りなく無敵、かつ優しい。
千葉(5位):初の改良が施されたが、どこから見てもベンテイガだ。追加されたハイブリッドは、ことさら電動化をアピールすることがないのも好印象だ。
15位/2点 フェラーリSF90
電動化第一弾の衝撃的な旋回性能
渡辺(4位):未来の扉を開くドライビングファンのショーケースたる一台。コーナーのインへとグイグイ引きずり込んでいく前輪モーターベクタリングの応答性をどのように走りに活かしていくか、思考性の高いスポーツドライビングの探求という一面もある。1000psの速さは走り慣れた山坂道のコーナーからコーナーへの距離を2割くらいは縮めるような感覚。返す返すもホンダNSXの登場は早すぎた!
15位/2点 フェラーリ ローマ
高貴ささえ漂う優雅なフェラーリ
石井(4位):クラシック フェラーリのエッセンスをもつローマ。エアベントや派手なウイング類などが目立つレースシーンとの直結感のあるモデルもいいが、高貴な雰囲気のあるローマはまったくの別世界で憧れを抱いてしまう。最近は、スポーツカーなのに乗り心地のいいモデルが増えているが、ローマは次元が違うほどでこの上なく快適。いつも目を三角にして攻めて走る自分が恥ずかしくなる。
15位/2点 メルセデスEQ EQA
これもまた楽しい「D AUTO」モード
竹岡(4位):BEVがジワジワと増えるにつれ、時代の波を感じずにはいられませんが、そんな中にあってEQAの「D AUTO」モードは本当に便利で楽しかったです。街中で使える簡易的ACCみたいなものですが、いちいち設定もしなくていいから本当に使いやすい。他のクルマにはほとんど採用されていませんが、毎日に役立つ新装備をユニークな発想で盛り込んでくるところにファンを感じますね。
19位/1点 メルセデス・ベンツ Sクラス
らしさは残せど、意外や軽快感が増す
島下(5位):重厚長大なイメージが強いSクラスだが、近年はスタイリッシュ、先進感、走りの歓びという要素が強まってきた。その要因は、日本はさておき世界的に見てユーザー層が若返ってきていることなのだが、それが私にとってSクラスとの距離を近づけることになっていると感じる。メルセデス・ベンツらしさに軽快感を増してきて、その小気味良さがまさしくファンと感じられるのだ。
19位/1点 ロールス・ロイス ゴースト
見た目の印象からは想像できない操縦性
こもだ(5位):2.5トンを超える車重にもかかわらず山道では小型スポーツカー並みに軽快だ。どうしてこんなに良く曲がるのか、なぜ重量に負けてカーブの外に膨らまないのか、重さを感じることなく止めてくれるブレーキの効きも不思議だ。大きく重そうなタイヤを履くが、バネ下のブルブル感がないから乗り心地もすこぶる良好。前輪アッパーアームの震えを抑える小さなウレタンの効果らしい。
▶▶▶上位3台は1月3日に公開
[ アルバム : Motor Magazine筆者陣が選ぶ「モーストファンカー2021」 前編:4位~20位 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
何か意外だな。
911のターボとターボSを同列に並べるのは妥当だが、何故タルガが入ってるのだろうか?
タルガって車体の形称で、992のグレードでは無い