日独を代表するロードゴーイングカーが対峙
「ジーティーアール」の名を冠するモデルは過去に遡ってみるといくつかあるが、21世紀のいま、生まれ故郷こそまったく異なるものの奇しくも似通った共通項を持つ、日独を代表するロードゴーイングカーが対峙することになった。ドイツを代表するメルセデスAMG GT R(C119)と日本を代表する日産GT-R NISMO(R35)だ。
R35GT-Rニスモとほぼ同タイムも! 筑波サーキットの軽自動車イベントでみた「激速」Kカーの衝撃
ベースモデルの登場時期は、日産GT-Rが2007年12月。AMG GTの日本上陸が2015年5月と開きこそあるが、やがて日産GT-Rには「NISMO」が、AMG GTには「GT R」といったレーシングスペックを惜しみなく投入したモデルがラインアップされるなど、その生い立ちには似たものがある。
また最高出力もAMG GT Rが585ps、GT-R NISMOが600psであることに加えて、販売価格もAMG GT Rが2453万円、GT-R NISMOが2420万円と、図らずも拮抗した数字が並んでいることも興味深い。
トップエンドを誇るハイパフォーマーをそれぞれに設定
日産GT-Rはもともと、ひたすら速さを追い求めることを使命に生まれたクルマだ。デビュー翌年の2008年にはニュルブルクリンクでタイムアタックを実施したが、その計時タイムにポルシェが抗議したことで、再び公開の場で再アタックを行うなど、その動向が度々取り沙汰されてきたのは記憶に新しい。
「NISMO」というのは日産のモータースポーツ関連会社として知られる。やがてそれがサブブランドとしてモータースポーツのDNAを受け継ぐパフォーマンスを与えたコンバージョンモデルにその名が与えられることになり、2013年にR35では初めてNISMOがラインアップされた。ちなみに今回の取材車両は、2019年7月に登場した2020年モデルだ(編集部注:2021年4月14日に2022年モデルを先行公開している)。
一方、AMG GT Rの日本上陸は2017年。当時、性能面で頂点に立つモデルとして送り出された。その後、さらなる高性能バージョンの「GT R Pro」が登場。日本でも20台のみが限定販売され、続いて2020年10月には最新の最強版となる「AMG GTブラックシリーズ」が発表された。
ニュルでの記録はAMG GTに軍配が挙がる
参考までにニュルブルクリンクの2台のタイムについて触れると、日産GT-Rが2013年に7分8秒697をマークしたのが最速。その後も着実に速さが増していることには違いないのだが、混走などコースクリアではない状況でのタイムアタックとなり、公式記録としては更新できていない状況だ。
対するAMG GT Rは2017年に7分10秒92を記録。日産GT-Rに僅かに及ばなかったものの、2018年にはAMG GT R Proが7分4秒632をマーク。さらにAMG GTブラックシリーズが市販スポーツカーで最速(原稿執筆時点)となる、驚愕の6分43秒616を達成したことが昨年末に報じられたばかりだ。
そんなAMG GT RとGT-R NISMOは「サーキットを走るために生まれた公道走行可能なレーシングモデル」として、お互いに異なるアプローチをしながら結果的に同程度の速さを引き出しているところも興味深い。
トランスアクスル化で両車ともに運動性能を向上
いずれもツインターボを備えたパワーユニットを搭載する。4.0L V8(AMG GT R)と3.8L V6(GT-R NISMO)はそれぞれ専用チューニングが施され、AMG GT Rは標準モデル比+55ps、GT-R NISMOは同+30psのズバ抜けた最高出力を発揮する。
駆動方式こそAMG GT Rの後輪駆動に対してGT-R NISMOは4輪駆動となるが、前後重量配分を最適化するべくフロントミッドにエンジンを搭載するとともに、トランスミッション(DCT)をリヤデフと一体化させたトランスアクスルレイアウトを採用する。
FRにこだわりながら絶大なトラクション性能を発揮させるメルセデス
メルセデスAMGは、最上級モデルに「4MATIC+」を採用することで、AWD=パフォーマンスの象徴として訴求していることが見て取れるが、スポーツカーのハイエンドと位置づけたAMG GTは、現在も後輪駆動にこだわり続けている。
その代わりというわけではないだろうが、AMGとして初めて4輪操舵システムを採用することで、後輪のグリップをより効果的に引き出し、コーナリング性能を高めることに成功している。
さらにはリヤの2輪だけで強大なパワーを受け止め、それを確実に路面に伝えるべく、9段階もの微調整が可能な最新の高性能トラクションコントロールシステムを与えた点も特筆できる。
おさらいすると、ベース車にも軽量で高い車体剛性を実現するアルミニウムスペースフレーム構造や圧倒的なパワーを後輪に伝えるためのカーボン製トルクチューブ、磁性体を用いた液体可変マウントを搭載。この液体可変マウントはドライビングの状況に応じてマウントの硬度を自動可変させるもの。激しい横Gに対してはマウントを硬めて、ドライブトレインの質量が走りに与える影響を抑えてロールモーションの低減を図るという、他のメーカーがまだやっていない手法にいち早くチャレンジしている。
R32型から継承する4WDにこだわり続ける日産
一方の日産GT-Rは、タイヤの性能を最大限に引き出すためには駆動力を4輪に振り分けたほうが有利なことから4WDありきで開発されている。そのコンセプトは、1989年に登場して大きな衝撃を与えたR32型スカイラインGT-Rから受け継がれている。
ただしトランスアクスルで4WDを実現するのは非常に難しいこと。そこで一度リヤに伝えた駆動力をフロントに戻して前輪を駆動するという、斬新な手法を採用している点にも注目である。
もうひとつ、両車とも力を入れているのがエアロダイナミクス(空力)だ。派手な外観には理由があり、600ps級のパワーを誇るとなれば、それをしっかり路面に伝えることもまた大事。車速が高まるほど、空気と上手く付き合うことの重要性を求められるのだ。
リアルスポーツを標榜する2台の走りはいかに!?
いよいよ、同じネーミングを持つ似て非なる2台を乗り比べてみたい。
まずはドイツ代表のAMG GT Rから。ひとことで表現すれば「極めて性能の高いピュアスポーツ」という印象。ステアリング、アクセル、ブレーキのすべてがダイレクトで走りに一体感がある。パンチの効いた加速を示すエンジンは全域がパワーバンドのよう。
過激なドライブモードを選択すると、もともと猛々しいエキゾーストサウンドがさらに獰猛になり瞬発力もさらに増す。乗り手が喜びそうな“演出”も見られるが、スパルタンでありながら非常に扱いやすいことも印象的だ。
かたや日産GT-Rはストイックに性能だけを追い求めた印象。そこに演出的な要素はない。専用のターボチャージャーを搭載したエンジンは、低回転域は控えめながらブーストがかかったときの伸びやかな吹き上がりはインパクト満点だ。トップエンドにかけてワープするかのように加速する。
加えて4WDの強みに空力などの向上も効いて、リニアな回頭性と路面に吸い付くようなコーナリングにより、限界がはるか彼方にあるような感覚に見舞われるほどだ。
いずれも驚異的な速さを誇りながらもドライブフィールは意外なほど好対照の2台。どちらが速いのか? という結論は想像にお任せする。
メルセデスAMG GT R主要諸元
●全長×全幅×全高:4550mm×2005mm×1285mm
●ホイールベース:2630mm●車両重量:1690kg
●エンジンタイプ:V8 DOHC 32Vツインターボチャージャー
●総排気量:3982cc
●最高出力:430kW[585ps]/6250rpm
●最大トルク(Nm[kg-m]/rpm):700Nm[71.4kg-m]/2100~5500rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速DCT
●サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
●ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
●タイヤ:前275/35R19 100Y・後325/35R20 106Y
●乗車定:2名
●燃料タンク容量:無鉛プレミアムガソリン75L
●車両本体価格:2450万円(税込)/オプション装備合計303万円(税込)
日産GT-R NISMO主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1895×1370mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:1720kg
●エンジンタイプ:V6 DOHC 24Vツインターボチャージャー
●総排気量:3799cc
●最高出力:441kW[600ps]/6800rpm
●最大トルク(Nm[kg-m]/rpm):652Nm[66.5kg-m]/3600~5600rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速DCT
●サスペンション:前ダブルウィッシュボーン・後マルチリンク
●ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
●タイヤ:前255/40ZR20 101Y・後285/35ZR20 104Y
●乗車定員:4人
●燃料タンク容量:無鉛プレミアムガソリン74L
●車両本体価格:2420万円(税込)/オプション装備合計:34万3982円(税込)
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