走る楽しさと毎日使える実用性を兼ね備えた高級スポーツ
高い動力性能、実用性、快適性を併せ持ち、日常使いから長距離ドライブまで幅広くこなせるスーパースポーツカーを10台紹介する。
【画像】「オープン」でも美しさは変わらない、高貴なるスパイダー。【フェラーリ・ローマ・スパイダーを写真で見る】 全24枚
今やハイエンドな高性能モデルは、かつてないほど選択肢が豊富になっている。実に多くの種類があり、分類も細かくややこしくなってきた。
今回取り上げる「スーパースポーツカー」とは、その名の通りスポーツカーとスーパーカーの中間に位置するクルマである。走りの性能と高級感、ステータス性、そして毎日使えるような快適性と実用性を兼ね備えているものを指す。
評論家やメディアによって言葉の使い方は異なるが、弊誌ではこのように分類したい。
一口にスーパースポーツと言っても、後輪駆動、四輪駆動、ミドシップ、リアエンジンなどさまざまなモデルが存在する。その中から、筆者(英国人)の好みも含めながら、特に優れた10台をピックアップした。いずれも簡単に手が届くようなクルマではないが、乗れば誰でも楽しめるはずだ。
1. フェラーリ・ローマ
フェラーリの中では比較的手頃かつ新しいモデルだが、完成度は非常に高い。ローマはフロントにV8エンジンを積む、古典的な打つ屈指さを持つ2+2のクーペである。ポルトフィーノとプラットフォームを共通化しているが、その外観とハンドリング特性は大きく異なる。
精神的には、1990年代後半に人気を博した550マラネロに最も近いと言えるだろう。コンパクトで扱いやすく、日常的に使えるグランドツアラーでありながら、フェラーリらしい性能、刺激、生き生きとしたハンドリング、そしてどこまでも長く走れる快適なキャビンを備えているのだ。
3.9L V8ターボエンジンは最高出力600ps以上、最高速度約320km/hを実現する。しかし、どちらかといえばゆったりとした装いのGT的な性格が強く、洗練されたインテリアは驚くほど快適だ。最新技術を惜しげもなく盛り込んでおり、ローマと共に時間を過ごすだけでも満たされてしまう。
2. アストン マーティンDBS 770アルティメット
DBSの最後を飾る「770アルティメット」は、アストン マーティン最速の量産車の1つに数えられる。クーペ版で300台、ドロップトップ版のヴォランテで199台と、合計499台のみが生産予定で、希少な存在である。手に入れることができた人は幸運に違いない。
アストン マーティンおなじみの5.2L V12ツインターボが搭載され、最高出力770ps、最大トルク91.8kg-mを発生する。猛烈なパフォーマンスには目を見張るものがあるが、丁寧なスロットル・マッピングとシャシー設定により想像以上に制御しやすい。コーナリングでも自身を持ってパワーを注ぐことができる。
ステアリングの調整、ストラットブレースの強化、ダンパー制御ソフトウェアの改良がうまく組み合わさり、スリリングでありながら信頼できるクルマに仕上がっている。標準的なDBSと比べると、まったく別のクルマのように感じられる。
このダイナミズムと驚くほど快適な乗り心地の両立が、770アルティメットの最大の特徴である。また、美しいエクステリアと上質なインテリアが魅力をさらに際立たせている。アストン マーティンがついに本調子を取り戻したと感じさせてくれる1台である。
3. ポルシェ911ターボS
圧倒的な速さと比類なき実用性を誇るポルシェの四輪駆動モデル、911ターボS。最高出力650psのツインターボエンジンと四輪駆動システムにより、0-100km/h加速2.6秒、最高速度320km/hを余裕で上回るパフォーマンスを持つ。
992世代の特徴の1つである、高級感あふれるキャビンには期待できる。派手さや威圧感を抑えた、繊細な一面も持ち合わせているのだ。また、快適性や荷物の積載性に優れ、長距離走行にも対応できる。
もちろん、ワインディングロードでも他車にはないスリルを味わうことができる。直感的なステアリング・フィールとリアバイアスの重量配分により、ドライビングの自由度は高い。しかし、 “遊び心” は少なく、誰でも夢中になれるものではない。
4. アストン マーティン・ヴァンテージF1エディション
ヴァンテージは、これまでのアストン マーティンのイメージを覆すドライバーズカーだ。アストン マーティンが得意としてきた、ゆったりとして落ち着きのある昔ながらのフロントエンジンGTから、これほど明確に逸脱したことはない。
2018年の発売当初の印象は、やや期待外れであった。確かにヴァンテージは、メルセデスAMG製ツインターボのおかげもあって速かったが、力不足感は否めなかった。ハンドリングは期待したほど直感的でもなく、惹き込まれるような魅力もなかった。
しかし、F1エディションの登場によってすべてが変わった。外観的に分かりやすいのはエアロパーツの追加だが、違いを生むのはサスペンションの改良である。足回りの調整により、走る歓びをこれでもかと味わえるクルマに変身した。アストン マーティンの量産車をこれほどまでにハードに運転できたのは初めてだ。
F1エディションではクルマとの一体感と高い安定性、路上追従性を持ち、サーキットで真価を発揮する。その反面、公道では本来の魅力を抑えられてしまうが、スーパースポーツカーとして、日常的なドライブを豊かにしてくれることは間違いない。
5. ベントレー・コンチネンタルGT S
「Go big or go home(全力でやるか、家に帰れ)」……ベントレー・コンチネンタルGT Sには、この言葉がぴったりだ。ベントレーの頂点と言えるのはW12エンジンを搭載した「スピード」だが、V8エンジンを搭載するワンランク下の「S」が最も狙い目であると筆者は考えている。
いずれにせよ、これほど大きく重量のあるものは簡単には扱えないはずだ。しかし、48Vのアンチロール・サスペンション技術とリアバイアスの四輪駆動システムのおかげで、激しく走らせることも、快適に流すこともできる。
ステアリングは素早く正確で、不動産のようなボディサイズと20万ポンド(約3800万円)近い価格にもかかわらず、ほぼトヨタGR86に近い感覚で振り回すことができる。
最大の魅力は最高出力550psの4.0L V8で、上位のスピード(W12で660ps)に匹敵する強烈なパンチを繰り出す。これに組み合わされる8速ATは、熟練したクルピエ(カジノディーラー)のような速さと滑らかさでギアをシャッフルする。
こうしたスポーツ走行をこなしながらも、穏やかでくつろげる環境を提供し、旅を味わい深い思い出へと変えてくれる。エアサスペンションは路面の凹凸を吸収し、外界からの騒音はほとんど聞こえない。ウッドとレザーで手仕上げされたインテリアは、乗り込むたびに楽園にいるような気分になれる。
6. アウディR8 V10
アウディR8は、同社のモータースポーツ活動と強い繋がりがある。パワー、パフォーマンス、サウンド、レブ、トラクションにおけるアウディの技術の粋を集めたスーパースポーツカーだ。クルマとの一体感にはやや欠けるものの、非常にエキサイティングな走りを見せてくれる。
発売当初に試乗したとき、弊誌は先代モデルの個性が失われていると評価した。デジタルな色合いが強くなってしまったためだ。しかし、遅れて登場したR8 RWDでは、そのキャラクターに惚れ込んでしまった。
ステアリング・フィールではポルシェ911ターボSに軍配が上がるが、楽しく親しみやすいエンターテイメント性には没入感がある。
V10パフォーマンスRWD(最高出力570ps)とV10パフォーマンス(620ps)があり、ボディタイプはクーペとスパイダーを選べる。しかし、生産終了により入手可能性は非常に限られたものとなっている。チャンスがあれば今のうちに手に入れておきたい。
7. マクラーレンGT
厳密にはスーパースポーツカーというより、スーパーカーに分類されるかもしれない。しかし、マクラーレン自身が認めるように、GTは丸みを帯びた親しみやすいマシンを目指している。太陽が輝いているときにも、特に出かける宛てがないときにも、また通勤にも毎日使うことができる使い勝手の良さを備えている。
ミドマウントされたV8ツインターボから最高出力620psを発生する一方で、内外装のデザインは同社の他のモデルに比べ、明らかに派手さを抑えたものとなっている。サスペンションも同様に快適性重視のチューニングだが、マクラーレンの名高いハンドリング特性にはほとんど影響がない。
実際のところ、まだ騒々しく乗り心地も鋭いため、真のグランドツアラーとしては適さない。しかし、他のモデルよりもエッジは和らげられ、ほとんどの時間を満足して過ごせるようになっている。油圧機構のステアリングはクイックで、とても情報量が多い。
一方、ややアグレッシブさを抑えたハンドリングにより、安心してドライビングを楽しめる。ターボチャージャーの動作もスムーズで、パワートレインは親しみやすく感じられる。
確かにグランドツアラーとしては欠点があるが、ドライビングのスリルを十分に味わえるスーパースポーツとしては隠れた名作である。
8. シボレー・コルベットC8
第8世代となる最新型コルベットは、ミドシップになった。歴史的にはとても大きな変化だが、幸いなことに心配するような要素はない。コルベットC8は最高出力482psの自然吸気V8エンジン、ドラマチックなキャビン、そしてミドシップ車らしいドライビング・ダイナミクスを備えている。
マクラーレンのようなハンドリングの精密さはなく、アウディR8やポルシェ911ターボSのような落ち着いた印象もないが、運転好きな人にはたまらない、予想以上に洗練された走りを見せてくれるのだ。
エンスージアストなら、クルマのサウンドやキャラクターには一家言あるだろう。自分好みであろうとなかろうと、コルベットがいかに優れたスポーツカーになったか、一度確かめてみる価値はある。筆者も一介のクルマ好きとして、コルベットの進化には敬意を払いたい。
9. マセラティ・グラントゥーリズモ・フォルゴーレ
EVのスーパースポーツが現れるのは時間の問題だったが、おそらく最大の驚きは、それがマセラティだということだろう。弊誌はグラントゥーリズモ・フォルゴーレの初期プロトタイプに試乗したが、マセラティはようやく自身の魅力を見出したと言える。
最新のグラントゥーリズモは、見た目こそ先代モデルとよく似ているが、実はすべて新設計で、当初から電動化を前提に開発された。バッテリーはトランスミッショントンネルに沿って後部座席の下に配置されているため、低車高でスポーティなドライビングポジションを実現している。
3基のモーター(リアに2基、フロントに1基)で合計出力760psを発生し、バッテリーの消耗を気にしなければ0-100km/h加速わずか2.7秒、最高速度は320km/hだ。もう少し控えめに走れば、1回の充電での航続距離は450kmになるという。
驚くほど軽快なコーナリング性能は、走り好きのドライバーを魅了するはずだ。ステアリングはスムーズかつ正確で、エアサスペンションとアダプティブ・ダンパーが荷重をうまくコントロールしている。
リアアクスルに搭載された2基のモーターは、俊敏性を高めるだけでなく、アグレッシブな動きも可能にしている。イタリア語で言うところの「Bella machina!(いいクルマ!)」だ。
10. BMW M8コンペティション
BMW M8を、フェラーリ・ローマのようにスーパースポーツカーとして捉えるべきか、あるいはベントレー・コンチネンタルGTのようなグラントツアラーとして見るべきなのかは議論の余地がある。
M部門独自のチューニングとスタイリング、高級感あるインテリア、可変四輪駆動システムなどを備えたM8は、まさにこの両クラスの橋渡し的な存在である。
純粋なドライバーズカーとして考えれば、大柄なボディと2トン近い車重はどちらもある程度不利だ。アストン マーティン・ヴァンテージやポルシェ911ほどの一体感はなく、フェラーリ・ローマのような本能的な興奮もなく、マクラーレンのような触感もない。そのため、M5コンペティションの購入を考える人もいるかもしれない。
Mモデルのラインナップにおいては、M8がフラッグシップなのだろう。しかし、広い視野で見ると、ドライビングと静的魅力において細かいディテールが欠けているのである。
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