クラス随一に運転の楽しいクルマ
今から半世紀ほど前、フィアットの協力を受けたランチアは、次期小型モデルのためのリソースを手に入れた。そして、まったく新しいファストバックのベルリーナ(サルーン)、ベータを発表。美しいクーペへと展開させた。
【画像】古き良きランチア ベータとデルタ 復刻されたキメラ・エボ37とMATストラトスも 全80枚
あか抜けしたスタイリングを手掛けたのは、社内デザイナーのアルド・カスタニョ氏とピエロ・カスタニェロ氏という2人。ボディパネルは、ベルリーナとまったくの別物だ。
ボディサイズも異なり、クーペの方が約30cm短く、約5cm狭く、約13cmも低い。ホイールベースは約23cm短く、別モデルのような活気ある容姿に仕上がっていた。スパイダーと呼ばれるコンバーチブルも存在した。
調子を掴んだランチアは、ハイ・パフォーマンス・エステート(HPE)と呼ばれるバリエーションも展開。才色兼備といえる内容で、販売も好調だった。
エンジンは、フィアット社製のツインカム4気筒がベース。ランチアの技術者はシリンダーの燃焼室を半球型にするなど、大幅な改良を加えている。当初は1.6Lと1.8Lの2種類がラインナップされた。
搭載位置はフロントで、トランスミッションと一緒にサブフレームを介した横置き。サスペンションは独自設計のもので、前後ともにマクファーソンストラット式を採用。リアのアンチロールバーは、取り付け方法が独特だった。
このサスペンションは良く機能し、当時のある自動車誌は「カーブの続く道をこれほど楽しく運転できるクルマは、このクラスで他に例がありません。市街地で、ここまで多くの関心を集めるクルマも」。と絶賛している。
スーパーチャージャーを載せたVXも
スパイダーのデザインを担当したのは、ピニンファリーナ社。生産はザガート社が請け負った。しかし製造過程は、1度完成したクーペのボディを切断し、ランチアとザガートを何度か往復するという効率の悪さ。結果的に、もう1台買えるほどコストは高騰した。
ホイールベースの延ばされたHPEは、クーペと同様に社内デザイナーが担当。クーペやスパイダーと比べて、実用性では優位だった。
発売後も改良が続けられ、魅力度を増したことも特長だろう。1975年後半、パワフルな2.0Lエンジンが登場。1981年には燃料インジェクション化され、1983年にスーパーチャージャーで過給するヴォルメックス「VX」がクーペとHPEに追加されている。
このVXのベータは珍しく、近年では最も人気が高い。クーペが1272台、HPEでは2370台がラインオフしている。ボンネットバルジや、フロントとリアに追加されたスポイラーなどが見た目の違い。サスペンションも強化されていた。
上級ブランドのランチアらしく、装備は充実。リア・サスペンションの高さを調整しヘッドライトの角度を保つ、オートレベリング機能も搭載していた。
その当時、英国はイタリアに次ぐランチア最大の市場。たが、異なる気候風土が影響しボディは良く錆びた。ブランドの評判に、深く傷を付けることにつながった。
それでも、ベータに惹かれた人は少なくなかった。優れた動的能力と端正な容姿とがバランスした、魅力的なイタリアン・クーペだといえる。
オーナーの意見を聞いてみる
過去にランチアでメカニックをしていたという、スティーブ・ダッジ氏。走行距離の短いベータを入手して以来、ぞっこんだ。「19年間、ベータ・スパイダーを所有しています。このヴォルメックスも同時期に購入しましたが、走行距離は6万km足らずです」
「ほかにもS1のクーペとサルーンも所有しています。そちらは、1万6000km以下。ヴォルメックスのHPEもありますよ。まだ安かった時代に購入し、楽しんできました」
「スパイダーを買った金額は700ポンドだったと記憶しています。最初の車検は問題なく通りました。現在は徹底的にレストアしている途中で、90%くらい仕上がっています」
「価格の高騰はあまり歓迎しませんね。ベータに乗るのが好きで、妻のアマンダと地元でオーナーズクラブのミーティングを定期的に開いています」
「ボンネットを強く叩くと、プラスティック製のクリップが割れることがあります。VXのレカロシートのロゴや、ウインドウ周辺の黒い塗装を磨きすぎると、傷んでしまうので要注意です」
「英国にはベータの部品を販売している専門ショップがあり、殆どのものが購入可能です。スーパーチャージャーのベアリングも1度入手困難になりましたが、そこが再制作してくれました」
英国で掘り出し物を発見
ランチア・ベータ HPE 1600
登録:1981年 走行:2万6561km 価格:1万3500ユーロ(約182万円)
イタリアから英国へやって来たHPE。1979年からベータという名称が省かれ、H.P.エグゼクティブと呼ばれるようになった世代の1台。スチールホイールにシングルミラー、ウェーバー・キャブレターという質素な1600だが、状態は良いという。
コンクール・コンディションと売り主は説明するものの、エンジンルーム内の仕上げは必要とのこと。インテリアのクロスの状態は素晴らしい。走行距離は短く、このコンディションでこの価格は珍しいだろう。
ランチア・ベータ・クーペ 1600
登録:1981年 走行:13万5100km 価格:6500ポンド(約104万円)
売り手によると、状態は改善できる余地があるとのことだが、見た目の良いベータ1600だ。グレーのインテリアはきれいに保たれ、ステンレス製のバンパーも艶がある。レッドのボディも美しい。
タイミングベルトは約1500km前に交換されたばかりで、走りは良好とのこと。その時点でメカニズムも整備されている。ボディにはいくつかサビが見られるようだが、気兼ねなく乗れる状態の良いベータをお探しなら、格好といえる1台だろう。
中古車購入時の注意点などは後編にて。
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ランチアの紳士的なデザインはいつみても素晴らしい。