自動車の電動化が進む今、かつてあった内燃機関を搭載した旧車に注目が集まっている。なぜなら最新モデルでは得難いエンジンサウンドやエンジンフィール、ハンドリングなどを有するからだ。そこで『GQ JAPAN』ではちょっと懐かしいクルマを振り返り、旧車ならではの魅力を深めていく。第3回目は今なお根強い人気を誇るランチア「ストラトス」。このクルマを愛するモータージャーナリストの小川フミオが、知られざる歴史や魅力を語る!
異次元から登場したようなクルマ
自動車好きは誰しも、“自分の1番”と、いえるスポーツカーを心のなかに持っている。私の推しは、ランチア・ストラトスだ。どんなクルマにも似ていないイカしたスタイリングと、じっさいにラリーでの大活躍とで、自動車史に残るモデルだ。
ストラトスのスタイリングは「宇宙船のよう」などと評されてきた。クサビ型のサイドビューと、フェンダーより低いボンネットと、円筒を切り取ったような曲率のウインドシールドと、当時のクルマの“文法”を大きく逸脱していた。まるでモンスターだ。
いや、いまでもそうだと思う。だから、オリジナル(量産型のプロトタイプ)の発表は1971年とだいぶ昔だけれど、2010年になって、かなりオリジナルに近いスタイルの「ニュー・ストラトス」が登場したりする。手がけたのは、イタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナ。世界中のクルマ好きから歓迎されたのだ。
私自身の記憶をたどると、最初の出合いは、1970年の「ストラトス・ゼロ」だ。小学生のときに雑誌で写真を見て、その斬新さに、ややおおげさにいうと腰が抜けるほど驚かされた。
1970年といえばトヨタが初代「セリカ」を発売した、そんな時代である。ようやく自動車が普及しつつある時代に、異次元から登場したようだった。
ペッタンコに見える車体と、車内に乗りこむにはボンネットのオープナースイッチでウインドシールドごと上に跳ね上げる仕掛け。さらに、ステアリング・ホイールのボス(中央部分)はサッカーボールのような球形なのだ。
デザインを手がけたカロッツェリア・ベルトーネは、そのプロトタイプをベースに、スポーツカーを作る企業を探していたそうだ。走りのためにエンジンをミドシップするというレイアウトは珍しかったが、同じベルトーネが手がけたランボルギーニ・ミウラ(1966年)で正しさは実証ずみだった。
マセラティ製エンジン搭載の可能性もあったが……
すぐに興味を示したのが、ランチアだ。当時のランチアは、戦前から先進的なスポーティカーを作ることで名声を博していた。当時は「フルビアクーペHF」(1966年)で、数々のラリー選手権で勝利を獲得。その後継車を探しているところだった。
そこで、ベルトーネとランチアの開発チームは、最強のラリーマシンを作るべく討議を重ね、出来上がったのがストラトスである。中央の人が乗るところはモノコックで、前後は頑丈な角断面フレーム。ホイールベースは2180mmと短く、車重も800kg程度。軽快さが身上だった。
ついでに書いておくと、当初ベルトーネはランチア車の小さな排気量のエンジンを搭載する前提で考えていたそう。それだとパワーがどんどん上がっているラリーの世界で戦闘力を持てないということで、フェラーリが「ディーノ246GT」のために開発した2.4リッター6気筒エンジンを搭載することに。
このエンジンを安定的に供給してもらうのが大変だったらしい。途中でランチアのチームは、当時フィアットが事業提携を結んでいたシトロエンから、彼らが1968年に買収したマセラティの3.0リッターV6エンジンを買うことを考えついた。
マセラティ側はけっこう乗り気で、「なんなら4.2リッターV8なんてどうですか?」というオファーまであったと、歴史本に書いてある。ところがすぐにフィアットとシトロエンの関係はご破算に。マセラティ・エンジンの可能性も消えてしまった。
ランチアにとっては悲劇的な出来事だけれど、私はこういう人間的なエピソードを知るのが大好き。ストラトスも、ラリーに参戦して、1974年、75年、76年のメイクス選手権を獲得した。
実は機能主義
1977年になると、フィアットがラリーでの勝利が大きな宣伝効果になることから、自ブランドのセダン「131」をラリー仕様に仕立てた「131アバルトラリー」に力を入れることに。少数しか作れないうえ、マーケットも限られるストラトスのバックアップが取りやめになってしまった。
131アバルトラリーもカッコいいクルマだったけれど、ストラトスだって、単なる見かけ倒しでない。さきに触れたように、センターモノコックと角断面フレームを組み合わせたシャシーに、フェラーリ製のV6エンジンをミドシップ搭載である。当時としては画期的な内容だ。
車内は機能主義的で、私が最初びっくりしたのは、ドア内側のサイドポケットにヘルメットがすっぽり収まる点だった。デザイン優先のように思えても、じつは“機能主義の権化”ともいえる。美と機能を両立させたのは、やっぱり当時のイタリアだからかなぁ、と今でも感心する。
だから私にとってストラトスは、いつまでも変わらぬ魅力を持ち続ける愛すべきクルマなのだ。
【過去記事】
Vol.1 メルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124)
Vol.2 初代日産セフィーロ・オーテックバージョン
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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