ホンダを代表する人気モデル、フィットの売れ行きがやや停滞気味だ。
かつてベストセラーだったその期待値の高さゆえかもしれないが、直近の2021年8月販売台数は4122台。先代モデルのフィットをベースに開発されたフリード(同5200台)を下回る結果となっている。
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なぜフィットはフリードより売れていないのか? 自動車評論家の渡辺陽一郎氏は、クルマとしての実力が高い反面、伸び悩む背景に4つの理由があると解説する。
文/渡辺陽一郎、写真/編集部、HONDA
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新しいフィットながら売り上げはフリードの84%に留まる
ホンダのコンパクトミニバン、フリードは先代フィットをベースに開発された。2021年1月~8月の月平均登録台数は、フィットを超える5845台だった
フィットは、登録者の人気カテゴリーとされるコンパクトカーの主力車種だ。好調に売れて当然だが、最近は伸び悩む。2021年1~8月の登録台数は、月平均にすると4889台であった。
同じホンダのコンパクトミニバン、フリードは5845台だから、フィットの登録台数は月平均で約1000台少ない。比率に換算すると、フィットはフリードの84%しか売れていない。
2021年1月~8月までのホンダフィット月平均登録台数は4889台だった。2020年発売当時における1か月の販売計画は1万台だった。現時点での達成は、難しい状況にある
現行フィットは2020年2月に発売されたので、2021年1~8月は、登場して約1年から1年半だ。最も好調に売れる時期に当たる。そしてフィットの発売時点における1か月の販売計画は1万台であった。それが月平均で4889台では、発売後早々に、計画台数の半数しか売られていない。
ちなみに今の販売計画は、一種のコミットメント(公約)で、その車種が販売を終えるまでの平均台数とされる。発売から数年が経過すると、クルマの売れ行きは下がるので、発売直後は販売計画を上まわる必要がある。それが半数に留まると、販売計画の達成は難しい。
先代型フィット(全長3990×全幅1695×全高1525mm/2014年月平均登録台数:1万6900台)
先代型の3代目フィットは、2013年9月に発売され、2014年の月平均登録台数は1万6900台であった。先代フィットでは、ハイブリッドに搭載される7速DCTが、発売直後に複数回のリコールに見舞われ、売れ行きも下がったが、現行型の登録台数は、その先代型と比べてもわずか29%だ。
フィットはなぜ、販売が大幅に低迷しているのか。この背景には、大きく分けて4つの理由がある。
フィットが苦戦する背景にライバルとデザイン
1つ目の理由は、現行フィットのデザインだ。フロントマスクは柔和な顔つきで、ボディサイドは水平基調だから側方や後方の視界も良い。機能的には優れた造形だが、従来型に比べると、雰囲気や見栄えの印象が大きく変わった。
内装も水平基調で視界やメーターなどの視認性に配慮したが、ステアリングホイールのスポークは2本だ。従来型に比べて変化が大きく、物足りない印象を受けることもある。
フィットと同時期に発売されたトヨタ ヤリス。グレードの豊富さと139万5000円から購入できることもあり、月平均登録台数約9500台と人気を博している(ヤリスクロスとGRヤリス除外)
販売が低迷する2つ目の理由は、ライバル車の動向だ。フィットが発売された2020年2月には、トヨタもコンパクトカーの新型ヤリスを投入している。従来型になるヴィッツは2010年に発売されたから、ヤリスは10年ぶりのフルモデルチェンジとなり、売れ行きを伸ばした。
フィットのエンジンは、直列4気筒1.3Lのノーマルタイプと1.5Lのハイブリッドだが、ヤリスは直列3気筒1.5Lと1.5Lハイブリッドに加えて、低価格の1Lも用意した。そのために最も安価なグレードは、フィットでは155万7600円だが、ヤリスは139万5000円から選べる。
つまりヤリスはグレードが豊富で、少ない予算に対応できることもあり、フィットよりも売れ行きを伸ばした。ヤリスの登録台数は、2021年1~8月の月平均が約9500台だから(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)、フィットの約2倍に相当する。
さらに2020年の末には、ノートもフルモデルチェンジを行った。このように現行フィットの発売時期は、ライバル車のフルモデルチェンジと重なり、販売面で不利を強いられた。
3つ目の苦戦理由はホンダの「身内」にあり?
ホンダ N-BOXの届け出台数は、2021年1~8月の月平均が約1万7600台。新車購入の際に、フィットからN-BOXに乗り換えるユーザーも多い
フィットが販売面で苦戦する3つ目の理由は、同じホンダの軽自動車、N-BOXにユーザーを奪われていることだ。ホンダの販売店では「小さなクルマを希望するお客様は、大半がN-BOXを選ぶ。以前ならフィットを買われたお客様も、今はN-BOXを指名される」という。
N-BOXの届け出台数は、2021年1~8月の月平均が約1万7600台に達する。好調に売られるヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)の約9500台と比べても、N-BOXの売れ行きは圧倒的に多い。
そしてフィットは後席や荷室に余裕を持たせた実用指向のコンパクトカーだが、N-BOXも軽自動車でありながら、背の高いボディによって車内はフィットと同等かさらに広い。
価格については、N-BOXは軽自動車だから、高機能でも売れ筋グレードが155万~180万円に収まる。フィット1.3ホームの176万7700円に比べると、価格帯としてはN-BOXが少し安い。そのために今のホンダを代表する売れ筋車種は、フィットではなくN-BOXになった。
それにしても、今のN-BOXの売れ行きは過剰だろう。2021年1~8月に国内で新車として売られたホンダ車のうち、N-BOXだけで34%を占めるからだ。N-WGNなどを加えた軽自動車全体になると、国内で販売されたホンダ車の56%が軽自動車だ。
軽自動車は1台当たりの粗利が低いので、その比率が高まると、車両の販売に伴う儲けが減ってしまう。しかもホンダは、昔から軽自動車で商売をしてきたスズキやダイハツに比べると、車両販売に必要な営業コストが高い。
軽自動車の比率が過度に高まるとバランスを悪化させるため、N-BOXについては、低金利キャンペーンやディーラーオプションプレゼントを実施していない。販売促進をほぼ完全に控えているが、それでも好調に売れてしまう。
ホンダではさまざまな車種がN-BOXの影響を受けて売れ行きを下げており、その代表がフィットになっている。
生産工場の変更もフィットの足かせに
フィットの製造は、鈴鹿製作所が行っている。N-BOX、N-WGNなどの軽自動車、ヴェゼルといったホンダ人気車種が生産されていること、半導体不足の影響もあり、納期が延びているという
フィットの販売が低迷する4つ目の理由として、生産工場の変更も挙げられる。以前のフィットは寄居工場で生産したが、今は鈴鹿製作所が手掛ける。
ただし鈴鹿製作所は、N-BOXやN-WGNなどの軽自動車も生産しており、狭山工場の閉鎖に伴って今ではヴェゼルも扱うようになった。販売店からは「今はホンダの売れ筋車種が鈴鹿製作所に集中しており、そこに半導体不足の影響も加わり、フィットの納期は時々延びる」という話も聞かれる。
以上のようにフィットの販売低迷には、デザインなど車両自体の商品力、ヤリスやノートといったライバル車のフルモデルチェンジ、N-BOXの好調な売れ行き、さらに生産工場の移管など、いろいろな事情が関係している。
しかし車両の機能は優れている。全高が立体駐車場を使いやすい1550mm以下に収まるコンパクトカーでは、フィットは後席が最も広く、居住性はミドルサイズセダンに匹敵する。燃料タンクを前席の下に搭載するため、荷室容量も大きく、シートアレンジは多彩だ。
乗り心地はライバル車のヤリスよりも快適で、エンジンが4気筒だからノイズも小さい。ハイブリッドのe:HEVは、エンジンが発電機を作動させて、駆動はモーターが担当する。
そのために加速が滑らかで、アクセル操作に対する反応の仕方も自然な印象だ。しかもフィットのe:HEVは価格が割安で、1.3Lノーマルエンジンに比べると約35万円の上乗せに抑えたから買い得度も強い。
このようにフィットには、売れない理由が散見される一方で、メリットも多い。コンパクトカーを購入する時は、フィットも試乗すると良いだろう。フィットを知ることで、ヤリス、ノート、アクアなどについても優劣の正しい判断がおこなえる。
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みんなのコメント
また、ホンダ信者の不正票操作だな。
安くて良い車でしかないならN-boxの方が更に上なんだから当然の結果、要するにフィットを選ぶ理由が無いんだよ。
他社ユーザーに比べてホンダのユーザーは元から高級車とは無縁だったから、ダウンサイジングに抵抗感が無いのもあると思う、ニッサンのユーザーはそこまで軽に流れてないので。