レアメタルの塊なEVの約8割は海外流出している危機的状況
スマートフォンには貴重で高価なレアメタルが多く使用されていることから、故障品、機種変更等による代替の場合、本体の回収が積極的に進められていることは周知の事実だろう。そして、状態に応じて中古品として市場に出まわる場合や、レアメタルを抽出してバッテリーや電気機器の生産に活かされているケースも少なくない。
EVはレアメタルが詰まった都市鉱山! CEATEC2024でBASC展示が提唱するサーキュラーエコノミーというバッテリーとは
しかし、ことEVに関してはどうだろうか?
乗らなくなったら買い取り業者かディーラーへ下取りに出すのが一般的だと思うし、そうしたクルマを売買する行為そのものは、例え電気自動車であったとしてもそれまでの内燃機関(ICE)を搭載したクルマとさして変わるところはないはずだ。
だが、日本国内では、ICE車が新車登録から2オーナー、3オーナーと所有者を変えながら10年超は国内で利用されているのに対し、EVに関しては新車登録から5~7年程度の比較的高年式な個体であっても、国内需要の乏しさもあり、約74%が海外に輸出されているそうだ。これでは貴重な資源が国内循環せず、各産業の資源調達コストの抑制や産業発展にはつながらないばかりか、多量のレアメタル、レアアースをみすみす他国に献上しているようなものだ。
その状況を打破しようと動き出したのが、循環型流通事業のコンサルティングや中古医療機器、ブランド品、クルマなどのオンラインオークションを行っている「オークネット」と、リース大手の「東京キャピタル」、そして「三菱HCキャピタル」の3社だ。
EV導入でカーボンニュートラル化を加速させるために必要のこととは?
国内の新車販売におけるEV販売シェアは年々上昇しているものの、それでも2023年時点で1.6%に達したに過ぎない。個人所有はもちろんのこと、事業用車両としてEVの導入を検討している企業にとって、車種構成の少なさや利用料金の高さから、新車EVのリースは勢いを欠いているのだという。
ならば、中古EVで企業のカーボンニュートラル化を進めよう!……と思っても、リチウムイオンバッテリーの性能劣化による航続距離の低下に懸念を抱き、導入を見送るケースが少なくないという声もある。
これらの理由により、比較的状態のよい中古EVであっても、需要がなく市場流通しない。オークネットが直近10カ月のオートオークションの結果を調べたところ、先述の通りバッテリーの劣化がそれほど進んでいない、新車登録から5~7年程度の中古EVのうち、約74%が海外に輸出されてしまっているというのが現状だ。
そこで、まだ十分利用できる中古EV、ならびにそこに搭載されている貴重資源の海外流出を防ぐべく、オークネットがリース大手の東京センチュリー、三菱HCキャピタルと「航続距離保証付き中古EVリースサービス」の構築に向け基本合意書を締結したと、2024年12月16日に発表した。
航続距離保証付き中古EVリースサービスの概要は次の通りだ。
1.オークネットが保証する航続距離(リース開始時のEVバッテリー劣化度合を加味した、満充電時の航続距離)を付した中古EVを、提携リース各社が関係会社を通じて提供する
2.万一、リース契約期間中に保証する航続距離を走ることができなくなった場合は、リース契約を解除する、もしくは、再度航続距離を満たす車両に交換することを可能とする
3.リース期間中の故障についても、オークネットと提携リース各社との規定に従った保証を受けることを可能とする
また、リース後の車両(新車登録後8~10年程度経過)は、オークネットが買取り、使用済みEVバッテリーを活用したリパーパス製品流通プラットフォーム「Energy Loop Terminal(エナジー・ループ・ターミナル)」を通じて、リパーパス(製品における使用を終えたものを、目的を転じて別の製品に組込んで再度活用すること)による資源循環を進めていくという。
使用済みEVバッテリーをリパーパス製品として価値をつなぐ
エナジー・ループ・ターミナルとは、EVに搭載されていた使用済みEVバッテリーを、診断結果や買い手企業のニーズに応じてリパーパス製品として流通させることを目的とした、B to B向けの流通プラットフォームだ。
2024年8月にリリースされたエナジー・ループ・ターミナルは、オークネットがプラットフォームの開発・運営・顧客開拓等を行い、パートナー企業のMIRAI-LABOがバッテリーの劣化診断業務と、バッテリーマネージメントシステム(BMS)付きバッテリーおよびリパーパス製品の商品化および製品保証、評価業務などを行う。
こうすることで、航続距離保証付き中古EVリースサービスでの利用を終えたEVバッテリーは、リパーパス製品設計事業者や製造事業者、リサイクル事業者などにその価値をつなぎ、国内のサーキュラーエコノミー実現に貢献していく構えだ。
また、オークネットは、中古EVの導入先が日々運行するのに必要な航続距離をデータ取得により算出し、バッテリーの劣化度合を加味して算定した満充電時の航続可能距離を保証する。そして東京センチュリーは、新車EVに比べ安価なリース料金で顧客に提供する考えだ。
東京センチュリーが発表したリリースのなかでも、自社グループ全体で約70万台ある車両管理台数のうち、EVの管理台数を2030年までには10万台へ引き上げる旨が語られており、EVシフトに積極的な姿勢だ。だからこそ一充電走行距離が保証されている中古EVを、安価に提供することにも積極的な動きを見せることが予想される。
カーボンニュートラルに向け産業界全体が電動化シフトを進めるなか、EVへの転換に二の足を踏んでいた企業にとって、自社の車両利用実績を分析のうえ、必要十分な航続可能距離をもった中古EVを保証付きでリースできれば、安心かつコストの低減にもつながるだろう。EVの利活用促進と、貴重な資源の国内循環活性化の両面から、期待の持てる取り組みになりそうだ。早期の実現を期待したい。
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