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ちょっと難しいダンパーの話 vol.1

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ちょっと難しいダンパーの話 vol.1

クルマではサスペンションの構成部品の一つ、ダンパーはショックアブソーバーという別名を持っている。ダンパー=減衰装置、ショックアブソーバー=振動吸収装置といった意味だが、自動車メーカーでも呼び方が異なり、メーカーによりダンパーと呼んだり、「ショックアブ」、「アブソーバー」という略称で呼ぶ会社もある。

ここではダンパーという名称で統一するが、ダンパーの役割は振動を減衰させる役割で、本来はクルマに限らず、機械的な構造物や建築物にも採用される。クルマでも、サスペンション以外に、ボンネット・ダンパー、ダイナミックダンパー(錘を使った動的な吸振器)なども存在する。したがって、本来ショックアブソーバーはダンパー本体だけでなく付随する部品までを含むので、クルマ以外では明確に使い分けられているものだ。

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■サスペンション・ダンパーの役割

しかし、自動車業界の試乗レポートなどで採り上げられることが多いのは、サスペンションの構成部品としてのダンパーだ。

歴史を振り返ると、自動車が誕生する以前の時代のもっと以前、ヨーロッパやアメリカでは馬車の時代だった。馬車は、車軸が固定式だったので、地面の凸凹がそのままボディに伝わり、当然乗り心地は悪かった。

近世の馬車は乗り心地を確保するために、車軸は板ばねを介して取り付けることと、外周がゴムの車輪とすることで乗り心地の改善を図っている。創世期の自動車は、この馬車のシャシー構造を利用していたため、サスペンションとしては板ばね構造だった。

板ばね、つまりリーフ・スプリングは、複数の板状のばねを重ねた構造で、ばねの反力で振動を吸収していた。また、弓状の板ばねは上下に振動すると板間に摩擦力が発生し、その摩擦により、ある程度の減衰作用も備えていた。しかしその摩擦力は逆に微振動を車体に伝達するため、そののち、乗り心地を向上させるためにコイル・スプリングが主流になった。


ばね=スプリングは弾性を持ち、衝撃・振動を受けると変形して、それらをいなす役割を果たすが、同時に振動・揺れを受けた車体の質量は、発生する慣性により、長時間にわたってばねの変形運動が連続する。そのばねの連続する変形運動を抑え込むのがダンパーの役割なのだ。そのダンパーはシリンダー内に内蔵されたオイルの粘性抵抗でばねの運動を抑え込む。その粘性による抵抗力は熱となって放出されるのだ。

■ダンパーの構造

ダンパーは、オイルを充填したシリンダーと、シリンダー内に小穴を持つピストンバルブを装備し、ロッドを組み合わせた構造になっている。車体の振動に合わせてロッドが、つまりオイルの中をバルブが動くことでオイルの粘性による抵抗力を生み出す。この抵抗力が減衰力と呼ばれる。

現在のダンパー構造は、大別して複筒(ツインチューブ)式、単筒(モノチューブ)式の2種類があり、ツインチューブ式ではオイル部とは別に空間部があり、その空間部に低圧のガス圧がかけられているため、低圧ガス式と呼ばれる。一方モノチューブ式はシリンダー内部にオイルとは別に、フリーピストンで仕切られた空間部に高圧のガスが封入されるため、高圧ガス封入式とも呼ばれる。



複筒式は外筒と内筒の二重構造で、ピストンロッドの伸縮によって、オイルは内筒の底部に設けられたベースバルブを通って内筒を出入りする。ピストンロッドが進入した体積分のオイルは、内筒から押し出されて内筒と外筒の空間に導かれる。縮み方向の減衰力と、伸び方向の減衰力を別のバルブで制御し、縮む際はベースバルブ、伸びる際はピストンに設けられたピストンバルブで制御されるのが特徴だ。また、内外筒の間の空間には500KPa程度のガスが封入されている。

単筒式は1本のシリンダー構造で、筒の内部はオイルが満たされたオイル室と高圧のガス(約2000KPa)が充填されたガス室に分けられ、その間を自由に動くことができるフリーピストンによって仕切られた構造を有している。それとは別にオイルリザーバータンクを別体としてタンク内にフリーピストンとガス室を設けたものもある。

ピストンロッドが進入した体積分のオイルはフリーピストンを押し下げてガス室を圧縮する。また、減衰力は伸び側、縮み側ともにオイル内を移動するピストンに設けられたバルブによって制御されるのが特徴だ。

■それぞれのメリット、デメリット

現在ではこの2種類が採用されているが、高級車、高性能車には単筒式が採用されることが多い。構造的、機能的にはそれぞれ長所、短所はあるが、より正確に狙った減衰力が設定できる、多様な使用シーンでピストンが激しく作動してもオイル内に泡(キャビテーション)が発生しにくい、というのがその理由だ。ただし製造コストは単筒式の方が高くなる。

また複筒式で、凹凸のある路面で連続走行するとダンパーが発熱し、さらにオイルには気泡が発生し、そうした状況になると減衰力は大幅に低下する。一方、高圧ガスでオイルを加圧している単筒式ではこの現象が発生しにくいのだ。

昔は、ダンパーは自動車メーカーの内製という例も珍しくなかったが、現在では開発、製造は専門メーカーが担当している。また以前はある程度の減衰力が発生できれば問題なかったが、現在では乗り心地、車体の安定性、操縦性などを追求するため、ダンパーに対しての要求も厳しくなっている。

そのため、ダンパーの作動に伴う摩擦抵抗の低減、正確に減衰力を発生する性能などが重視され、シリンダーの真円度、内部表面の加工仕上げ精度、バルブ部分の微細な構造や、シール部品精度、そしてオイル粘度など、いずれも精密工業というレベルが要求されている。

■クルマに乗ってダンパーをどう評価するのか?

以前は新型車の公表データにはダンパーの減衰力の数値が記載されていたこともあったが、現在はどの自動車メーカーもダンパーの減衰力や特性を公表することはない。もっとも公表されたとしてもJIS規格の0.3m/秒での数値だけだから、特性を知ることはできず、あまり意味がないといえる。

しかし、実際にクルマに乗ってみると、滑らかさや安定感、乗り心地など様々な性能にダンパーは関与していると感じる。ただそれはあくまでも人間のフィーリングであり、実際にはダンパーの減衰力や特性といった単体での能力というより、ダンパーの取り付け位置や取り付け方法、サスペンション全体の構成要素などにも影響を受けていることも忘れてはいけない。

例えば、ダンパーが直立して取り付けられているか? とか、大きな傾斜角をつけて取り付けられているか? などで、ダンパーにかかるレバー比が変わるし、ストラット式サスペンションの場合は、一般的な正立式から倒立式にするだけで横剛性は15%向上するとされている。

このことからもわかるようにストラット式のサスペンションでは、コーナリングなどで大きな横力を受けた場合、ダンパーのシリンダーが横方向に変形し、当然ながらピストンの滑らかな動きができず、減衰力も設計通りには発生しないことも想像される。

つまりダンパーはサスペンションの構成部品の一つであり、ダンパー単体での性能は一面にしか過ぎないのだ。

■ダンパー性能とは

しかしそうは言っても、市街地で実際にクルマに乗ってみると、タイヤとダンパーは乗り心地や走りのフィーリングに大きな影響を与えることは事実で、それだからこそダンパーの性能は細部にわたって追求されることが多いのだ。

30~50km/で走る市街地や高速道路で、舗装が滑らかな区間ではダンパーの微低速域での特性が強調される。微低速域とはダンパーのピストンスピードが0.2m/秒以下の緩やかなサスペンションの動きでの領域だ。

この部分では、ダンパーの発生する減衰力+ダンパーのバルブ部が構造的に発生する摩擦力が影響する。微小な動きで正確に減衰力が発生しにくいダンパーの場合は、本来の減衰力より摩擦抵抗のほうが大きく、これによって滑らかな走行フィーリングが損なわれる。

こうした特性は、単に減衰力/ピストン速度の数値だけでは判定できず、一定周期でダンパーを伸縮させた時の減衰力をグラフにした「リサージュ図形」を見ると分かりやすい。波形が真円に近いほどダンパーとしての機能を発揮していることがわかる。

また常に動いているダンパーの縮み→伸び、伸び→縮みが切り替わるポイントで正確に減衰力を発揮しているかどうかも、しなやかな乗り心地のポイントとなり、こうした点がダンパーの性能を見極める重要な点だ。

そして、コーナリングでじわっとボディが沈み込むようなシーンでは、ダンパーの微低速域での減衰力の正確さ、減衰力の発生レスポンスの良し悪しがクルマの安定感やハンドリングの滑らかさに影響する。

ボディがガクンと沈み込むか、あるいは、じわっと上品にゆっくり沈み込むか?といった点もそのクルマの乗り味に大きな影響を与えるわけである。このあたりのチューニングはダンパーの摩擦抵抗と減衰力をどのように調和させるか、自動車メーカーの開発での腕の見せ所といえるかもしれない。

このようにダンパーは、ひとつの機能部品としての性能と、サスペンションとしてクルマに取り付けられた状態での働き、性能という2面性を持っており、それぞれを追求すると奥が深くて興味深い。

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