フルモデルチェンジしたシトロエンの新型「C4」に小川フミオが試乗した。
独自性を取り戻した!
長い距離をクルマで移動する機会が多い人や、旅に行くのにクルマを使うことが多い人には、ぜひ“コレ”を試してほしい。と、力説したくなるのが、2022年1月に日本でも販売がスタートした、シトロエンの新型「C4」だ。
シトロエンはフランスの自動車メーカーである。戦前に早くもモノコックボディを採用したり、油圧と窒素ガスによるイドロプヌマティク(英語だとハイドロニューマティック)サスペンションを1950年代に実用化したり、と、先進的な技術とほかには類のないスタイリングで“名声”を築いてきた。
1990年代から2000年代にかけては、姉妹ブランドであるプジョーとの差異化に苦しんだが(いや、苦しんだのは、シトロエンだけを愛そうとした熱心なファンか)、このところ、好き嫌いはわかれるにせよ個性的なスタイリングと、すばらしい乗り心地など、いい意味で“独自性”を取り戻した感がある。
今回の新型C4も、シトロエン好きを満足させる内容だ。いや、シトロエンについて、なにも知らなくても大丈夫。たいていのひとなら、ステアリング・ホイールを握って走り出したらすぐ、“これいいね”と破顔しそう。
どこがそんなにいいのか……私が乗った、1.5リッター・ディーゼルエンジン搭載の「C4 SHINE BlueHDi」は、力強いエンジンと、ふわりふわりとしたサスペンションと、びしっとした安定性が魅力だ。
かつてシトロエンのクルマづくりとは、「いちどエンジンをかけたら地の果てまで」というコンセプトに基づいている……なんて言われていたのを思い出してしまった。
乗り心地はお見事!
もっとも個性が強く感じられるのはスタイリングだ。クーペ的にルームからテールエンドにつながるテールゲートを持つ、いわゆるファストバック。ボディ下部には黒い合成樹脂のクラディングをつけてSUV的な雰囲気も持ったクロスオーバースタイルのようにも感じる。
くわえて、LEDランプを3つ、ひとつのケースに収めたヘッドランプユニットと、その上に設けられた吊り目のようなポジションランプによるフロントマスクも、けっこう強烈。じつはホンワカした乗り心地で、乗員はシアワセな気分に浸っているが、エクステリアの印象はアグレッシブだ。
ディーゼル・エンジンは、96kW(130ps)の最高出力と、300Nmの最大トルクを持つ。室内にいると、ディーゼル特有のカラカラ音はほとんど聞こえてこない。知らずに乗ると、ガソリン・エンジンと区別がつかないと思う(外にいるとディーゼル音がわかる)。
アクセルペダルの踏みこみに対し、低回転域からしっかり力が出て、トルクは途切れることなく、エンジン回転が上がっていくにしたがい、ぐいぐいクルマを加速させていく。これがとても気持ちよい。
サスペンションは、一時のシトロエン車のようなイドロプヌマティクではなく、オーソドックスに金属製のコイルスプリングに筒型ダンパーの組み合わせ。ところが、というべきか、これがよく働く。
路面のショックは丁寧に吸収しつつ、乗員の姿勢はつねにフラットに保つ。なんでも、「プログレッシブ・ハイドローリッククッション」なる、筒内にセカンダリーピストンを内蔵したダンパーに秘密があるようだ。おみごとな乗り心地!
ソフトな感じがいいよね
トルキーなエンジンと、新しい機構を採用した足まわり。かつ、それらをじつにうまく調整してある。ここが、C4の最大の魅力だろう。
C4の気持ちよさはべつの言葉でいうと、“人間的”と表現したくなる。乗るひととクルマとの主従関係がはっきりしている。クルマはあくまで、人間を気持ちよく運ぶための道具。これも、むかしから言われてきたとおり。フランス人はクルマを道具と割り切っている。ただしすぐれた道具を作ろうとしている、というのだ。
全長4375mmと扱いやすいサイズのボディに対して、ホイールベースは2665mmだから、けっこう長め。室内は前後席ともにスペースの余裕は充分。後席にもおとなが2人、ゆったりと腰かけていられるし、その状態で、荷室もじゅうぶんに使える。
個人的なテイストとしては、室内のスタイリングは実用的すぎるように思える。造型や素材や色づかいの点で、もうすこし“味”があってもいいんじゃないだろうか? かりに“道具”だったら、このぐらいでもいいんじゃないかという意見もあるかもしれない。そこはどうなんだろう……もうすこし趣味性が加味されることを、私は望む。
C4 SHINE BlueHDiの価格は、345万円。ディーゼル・エンジンのライバルを探してすぐ思いつくのは、フォルクスワーゲン「ゴルフTDI」(398万9001円)。4295mmのボディに110kW、360Nmの2.0リッターディーゼルエンジンを搭載したモデルだ。
ゴルフTDIは、かなりパワフルで、かつ剛性の高いシャシーが印象に残る。ハンドリングの正確さは、ワインディングロードでも楽しい。C4は、いってみれば、もうすこしソフトなかんじだ。それはけっして悪くない。乗れば、好きになれるクルマである。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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