この記事をまとめると
■いすゞのベレットはいまだに根強い人気がある
どれもこれもいまや名車扱いされてるのにナゼだ!? いすゞが乗用車から撤退したワケ
■高性能モデルの「ベレットGTR」はレースの世界でも活躍した
■旧車ブームによって「ベレット」に対する注目度が上がっている
いすゞ ベレットとは
いすゞというと、いまではすっかりトラックやバスを主体に製造・販売しているメーカーという印象が強いですが、英国ルーツ社との技術提携で「ヒルマンミンクス」をノックダウン生産した1953年から、新規の開発を終了する1993年までの40年間は乗用車を製造・販売していました。
そのなかでも、デザイン界の巨匠ジウジアーロによる流麗な外装をまとった「117クーペ」と、日本のGTカーの草分けとして認知されている「ベレット」の2車種は、いまでも根強いファンをもち、人気の高さをキープし続けています。
そのひとつ「ベレット」には、車種を代表する高性能モデルの存在があり、ベレットのネームバリューを引き上げる役割を果たしました。それが「ベレット1600GTR(およびGT タイプR)」です。
ここではそのベレットの最高グレード「GTR(およびGT タイプR)」について紹介していきたいと思います。
■セダンが先行して発売されたが本命はクーペのGT
「いすゞベレット」は、1963年から1974年の11年間発売されていたいすゞの小型乗用車です。
いすゞが初めて自社開発した中型乗用車の「ベレル」の小型版として開発された経緯があり、そのことから「ベレット」という車種名が与えられました。
ちなみに「ベレル」のネーミングは、車名の由来である「五十鈴川」を分解して、五十をローマ数字にした「L」と鈴の英語読み「ベル」との造語です。それを小型車らしく親しみを感じるようにもじったのが「ベレット」です。
「ベレル」で自社開発を初めておこなってから2年後に発売されたにもかかわらず、その当時の足まわりのスタンダードな構成ではなく、四輪独立懸架サスペンションやセパレートシート、フロアシフトなどの最新技術を採り入れた意欲的なつくりが特色のセダンでした。
その走りのよさをアピールしたセダンがベースにあったため、1年後に発売された「GT」は、国産車で初めてGT(グランツーリスモ)を名乗った車種(諸説あり)という特別感も手伝って、走りのいいコンパクトモデルとして名をあげました。
■「ベレG」の愛称で呼ばれた人気の「ベレット1600GT」とは?
ベレットのGTグレードは、大衆車がベースとは思えないほど本格的な走りに振った構成のクルマでした。
ベースとなったセダンは、前がダブルウイッシュボーン、後ろがダイアゴナル・スイングアクスル式(いわゆるセミトレーリングアーム式)という、小型車では初めての四輪独立懸架方式を導入しました。
これは、当時の小型車としては異例の装備で、一部では「和製アルファロメオ」とも呼ばれたそうです。その性能はサンデーレースに出場するプライベーターたちの戦力として実績をあげていたことからも窺えるでしょう。
そのセダンと同じ骨格と足まわりに前ブレーキをディスクブレーキ化、空力に有利なクーペボディを得て、新たに開発された1600ccの直列4気筒OHVエンジンを搭載したのが「ベレット1600GT」です。
当時、大人気だったツーリングカーレースでは、ライバルのプリンス・スカイラインや日産・ブルーバードらと熾烈な戦いを演じ、何度か優勝を果たしましたが、トヨタがコロナの車体に1600ccのDOHCエンジンを搭載した「1600GT」を投入してきたことで、旗色が変わりました。
レースで勝つために117クーペのエンジンを搭載
■GTのホットバージョン「GTR」が生まれた経緯
トヨタ「1600GT」は、専用開発の1600cc直列4気筒DOHCエンジンの高出力をアドバンテージに一気にレースの主導権を握るようになり、「ベレットGT」の戦闘力では歯が立たない状況になってしまいました。
しかし、そのときいすゞの関連会社の「鈴木鈑金」が、レース用にと117クーペの「G161W型」DOHCエンジンを搭載した車両を密かに製作していました。その車両は「ベレットGTX」と命名されて、いすゞワークスからレースに出場。1600GTを10馬力上まわる120馬力を発するエンジンによりパワーのビハインドを埋め、見事に勝利を勝ち取ります。
これでGTカーとしての面目を取り戻したベレットは、その市販バージョンである「ベレットGTR」をリリースすることになります。
このときのエピソードとして、フラッグシップであった「117クーペ」と同じエンジンを格下のベレットに搭載するのはいかがなものかという反対意見が出て、一時計画が頓挫しかけたそうです。
「ベレットGTR」は120馬力を発する「G161W型」DOHCエンジンの搭載に加え、バネレートをアップさせたサスペンション、ブレーキブースターの追加と走りのポテンシャルをアップさせています。
外観では、「GTR」のアイコンにもなっているフォグランプをグリル下部に追加。黒いボンネットとサイドのストライプによるツートンのカラーがオプションで用意されました。ちなみに現存する車両の多くはこのツートン仕様です。
1971年のマイナーチェンジで小変更が加えられるとともに、名称が「GT タイプR」へと変更されました。
「GTX」で勝利を挙げた勢いもあり、レースでの活躍を期待された「GTR」でしたが、そのときに日産ワークスが「スカイライン2000GT-R」を投入。2000ccのDOHCエンジンは160馬力を誇り、1600cc勢は後塵を排することになってしまいます。
その後、1973年にはすべての「ベレット」シリーズが生産終了を迎え、10年の歴史を終えます。
販売台数は、ベースとなったGTが1万7000台強なのに対して、「GTR」と「GT タイプR」は合わせても1400台程度しかないため、かなり希少な存在となっています。
■「R」が示す意味は?
ライバル関係にあったスカイライン2000GT-Rは、発売の前年に東京モーターショーに出展された「スカイラインGTレーシング仕様」が元になっており、そのままGTにレーシングの「R」を加えて「GT-R」となっています。
一方のベレットの場合は、明確にその由来を説明する文献は見当たらず、不明というのが実状です。もととなったレース車両の「ベレット1600GTX」の市販版として「GTR」の名が与えられたという経緯のため、一概にレーシングの「R」とはいい切れないところがあります。ちなみにこの時代は未来を表す「X」をプロトタイプ車両に与えるのが流行っており、それを踏まえると、GTXは企画段階でGTRのプロトタイプとしての立ち位置だったのかもしれないです。
また、後期モデルは「GTR」から「GT typeR」と改められましたが、その名称変更の理由も定かではありません。同時期にライバル関係にあった「スカイラインGT-R」との区別化を図ったのかもしれません。
10年のモデルライフというのはけっして短命とはいえませんが、1974年には後継の「ジェミニ」にバトンタッチしてしまったため、「ベレット」としては一代限りという、惜しい足跡を残す結果となってしまいました。
それでも当時の印象が強かったせいか、時代の変遷のなかでけっして名が消えることはなく、旧車ブームのいまではあらためて注目度が上がっています。
希少で最高グレードの「GTR(またはGT タイプR)」は中古車価格が高騰してしまっていますが、「GT」なら200万円台のプライスが付く車両もあるようです。
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