アウディe-tronプロトタイプに試乗するため、私はアフリカ南部のナミビアを目指していた。「なぜ、アウディは初の量産EVとなるe-tron(のプロトタイプ)の試乗会を、日本からもヨーロッパからも遠いこの地で開催するのか?」。目的地のビターウォーターに向けて飛ぶ軽飛行機の窓から赤茶けた大地を見下ろしていた私は、この疑問への答えを見つけあぐねていた。
着陸したのは周囲とは明らかに地質が異なる平坦な土地。この一帯だけ土が灰色で、表面が真っ平らなのだ。まるで湖が干上がった跡のように見える。「塩湖が干上がった“ソルトパン”じゃないかという人もいますが、実際は違います」。この土地を管理するひとりのドイツ人が私に語った。「実際、土を舐めてもしょっぱくありません。地質的には粘土に近いので、私たちはここを単に“パン”と呼んでいます」
1位はアストンマーティン DB11 ヴォランテ!──2018年の「我が5台」 Vol.14 飯田 裕子 編
軽飛行機が着陸できるくらい平坦なこの場所、実はグライダーの発着場として世界的に名高いという。そもそもナミビアは気候面でも規制面でもグライダーを飛ばすには理想的な土地柄で、グライダーの世界最長滞空記録などはほとんどこの周辺で記録されたものだそうだ。
しかし、アウディがこの地を試乗会場に選んだ理由は、これとも無関係だった。e-tronの開発に携わったエンジニアのひとりが打ち明ける。
「本当は雪上コースで試乗会を催すつもりでした。ところが、この季節(10月上旬)は、世界中のどこを探しても安定した積雪を見込める場所はありません。そこで私たちは、雪に似た摩擦係数を持つ路面で、できるだけ平坦な場所を探しました。それも、できるだけ天候が安定している場所で、です。そうやって世界中を探してようやく行き着いたのが、このナミビアのパンでした」
では、雪上コースによく似たこの土地で、彼らはe-tronプロトタイプのどんな特性を私たちに見せたかったのか? その答えは、試乗会場について半日も経たないうちに明らかになった。
簡単なブリーフィングを済ませた私たちが案内されたのは、件の“パン”の片隅にパイロンで設定された特製のオフロード・ハンドリングコース。大小のコーナーが組み合わされたこのコースを、まずはスタビリティコントロール:オン、クワトロ・モード:オートで走り始める。これは、一般的なドライバーが日常的に用いる代表的な設定といえる。すると、私がステアリングを握るe-tronは滑りやすい路面で苦もなく、そして音もなく走り始め、コーナーでステアリングを切ればノーズは素直にその方向を向く。ゆっくりとしたペースで走る限り、完全に安定しきった走りだ。
けれども、このままではあまりに面白くないので、徐々にスピードを上げてみる。すると、かなりペースを上げたところで、最初はしっかりとした手応えを伝えていた前輪の接地感が薄くなり、ステアリングを切っても思いどおりに曲がらず、外側のパイロンに接触しそうな感触を示し始める。けれども、実際にはクルマの軌跡が外側に膨らむ前にスタビリティ・コントロールが介入。イン側のブレーキをわずかに効かせることで走行ラインが外側に膨らむのを防いでくれた。これ自体はスタビリティ・コントロールの典型的な動作で驚くべきところはない。敢えていえば、アウディのスタビリティ・コントロールは制御が緻密なためにシステムが介入してもガクガクすることがなく、警告灯を見ていなければほとんど気づかないということくらいだ。
続いてスタビリティコントロール:オフ、クワトロ・モード:オートで走行する。ただし、この状態ではスタビリティコントロールが作動しないため、十分に経験を積んだドライバーでないと最悪の場合は重大な事故を引き起こす恐れがあることをあらかじめお伝えしておく。この設定でペースを上げても当初はアンダーステアに陥りそうになるが、ヨー(コーナーリング時などに発生するクルマのノーズを内側に向けようとする回転力)が立ち上がると一転してリアタイヤがむずがるようになり、テールがアウト側に流れるオーバーステアの傾向を示す。もっとも、現実に起きるのは「テールがアウト側に流れそうになる」だけで実際にオーバーステアに転じないのは、その予兆を検知したクワトロのコントロールシステムが前輪にトルクを配分する比率を高め、リアタイヤのグリップを回復させようとするからだろう。
さらに助手席に腰掛けたインストラクターはスタビリティコントロール:オフ、クワトロ・モード:スポーツでの走行を私に勧める。クワトロ・モードのスポーツは、オートに比べてリアへのトルク配分をより高く保つ設定で、オーバーステア傾向はさらに強まる。実際のところ、それまでと同じようなペースで走っても簡単にテールが流れるので、これを用いて積極的にクルマの向きを変えたり、カウンターステアをあててクルマの姿勢を立て直したりすることができた。つまり、ダイナミックなスポーツドライビングの醍醐味を味わえるのだ。
このことから、e-tronはドライビングモードを切り替えることにより、滑りやすい道を安定した姿勢で走りきることも、敢えて安定性を低く制御して操る楽しみを味わえることもできるEVに仕上っていることがわかった。
なぜ、アウディはe-tronをこのようなキャラクターに仕立てたのだろうか? エンジニアのクリスチャン・グラフに訊ねると、こんな答えが返ってきた。
「EV時代を迎えると、各メーカーが作る製品の個性が薄まり、差別化を図るのが難しくなる恐れがあります。そのとき、アウディはどんなEVを作るべきか? アウディは40年近く前にフルタイム4WDのクワトロを世に出し、そのスポーツ・イメージを高めてきました。つまり、『ファン・トゥ・ドライブな4WD』こそが、アウディのコアバリューなのです。そこでアウディ初のe-tronにもこのキャラクターを与えることにしました」
EV時代における自動車ブランドのヘリテージと製品のキャラクター……。e-tronプロトタイプを味わったナミビアで、私は自動車産業が今後直面するであろう、難しい命題について考えさせられることとなった。
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