混在するクラッチの方式、どっちがエラい?
【Q&A】人気のスクランブラーの語源は「緊急発進」だった!?【バイクトリビア004】
油圧式とワイヤー式、一見してわかるのは上の画像のようなクラッチレバーの構造の違いだ。なんとなく油圧式の方が高価な感じがしなくもないけれど……。排気量やバイクのジャンルで使い分けしているのか? 本当のトコロ、どっちの方がエラいの?
●文:ミリオーレ編集部(伊藤康司) ●写真:ホンダ、カワサキ、BMW
クラッチ本体の構造は同じだが……
―― クラッチは、トランスミッション側に繋がる金属製のクラッチ板と、クランク側に繋がる摩擦材を貼ったフリクション板を互い違いに重ね、クラッチスプリングの張力で押さえつけて動力を伝達する装置。普段はクラッチが繋がっていて、クラッチレバーを握ることでクラッチスプリングが押し縮められ、クラッチ板とフリクション板に隙間が開いてクラッチが切れる。
クラッチは、(エンジンがかかっている時に)ずっと回転し続けているクランクシャフトと、停止する時やシフトチェンジを行う際にトランスミッションを切り離したり、発進して走っている時に繋げたりと、パワーを断続するための装置。
◆二輪で世界初の油圧式クラッチを採用
―― 1982年にホンダのVF750セイバー(写真)およびマグナが、初めて油圧式クラッチを採用。水冷V型4気筒エンジン等、新機軸のメカニズムを満載したバイクだけに、クラッチも当時最新の軽い操作力とメンテナンスフリーがウリの油圧式が奢られた。 [写真タップで拡大]
―― ワイヤー式クラッチ(画像の車両はカワサキZ900RS)。クラッチレバーを握ると(画面右側から伸びる)ワイヤーが、画面中央のクラッチレリーズレバーを引っ張り、テコの原理でクラッチスプリングを押し縮めて、クラッチが切れる。
―― 油圧式クラッチ(画像の車両はカワサキZ H2 SE)。クラッチレバーを握ると(画面左側から伸びる)油圧ホースを介して画面中央のクラッチレリーズに油圧が送られ、レリーズの油圧ピストンがクラッチスプリングを押し縮めて、クラッチが切れる。
メリットが多い油圧式が主流……というワケではない不思議
昔からあるワイヤー式のクラッチは、ワイヤー注油などのメンテナンスが必要で、ワイヤーが摩耗したり劣化したら交換しなければならない。またクラッチ本体のクラッチ板やフリクション板が摩耗してきたら、随時調整を行う必要がある。
さらに大パワー車の場合、クラッチが滑らないように強力なクラッチスプリングを用いるため、クラッチ操作が重くなるデメリットもある。
ただし完全にクラッチレバーを握り切った状態だと、ワイヤーの摩擦抵抗があるためレバーの反発力が小さく、かえってレバーを保持する力が少なくて済む(軽く感じる)、という効果もある。
対する後発の油圧式クラッチは、クラッチマスターシリンダーとクラッチレリーズのシリンダー径の組み合わせによって、軽い力でクラッチを操作できるのがメリット。さらにクラッチ板やフリクション板が摩耗しても自動的に調整され、ワイヤー注油も必要ないので、基本的にメンテナンスフリー。さらにワイヤー式だとワイヤーの取り回し方で操作が重くなったり、半クラッチのフィーリング等に変化がでるが、油圧式は油圧パイプの取り回しに自由度があるので操作の重さやフィーリングに影響が無い。
これはカウリングを装備したハンドル周りや、エンジン周辺のスペースが狭いバイクにも有効だ。ただし、どんな状態でもほぼ変化がないので、クラッチを握り切って保持しているとずっと反発力がある(重く感じる)のも事実だ。
……と、メリットを掲げると油圧式の方が優勢に感じるが、現行のミドルクラス以上のバイクを見渡すと、必ずしも油圧式が主流というワケではない。これはコストの関係もあるだろうが(油圧式の方が構成部品が多い)、たとえば最新のスーパースポーツ系はどちらかというとワイヤー式が多く感じるが、これはクイックシフターの装備や(走行中にクラッチ操作が必要ない)、アシスト&スリッパークラッチの装備(大パワー車でもアシスト機構によりクラッチ操作力が軽い)が影響しているのかもしれない。
とはいえスポーツ性の高さで定評あるドゥカティは、現行モデルのほとんどが油圧式クラッチだったりする。ちなみにMotoGPマシンは油圧式とワイヤー式が混在している。
というワケで油圧式とワイヤー式、現時点ではバイクのジャンルなどによる「使い分け」の法則が見つからず、単純に優劣をつけるのも難しいようだ。
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みんなのコメント
油圧の方が握る力が必要かなぁ。CB750は教習車が油圧だったけど重かった。
どちらが優れているだと思いますがね。