軽自動車であって軽自動車にあらず
text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
【画像】【画像】ありがとうS660【細部まで見る】 全140枚
editor:Taro Ueno(上野太朗)
「軽自動車であって軽自動車にあらず」
ボクは、ホンダ「S660」についてそう思っている。
なぜなら、一般的な軽自動車とはまったく異なるベクトルで作られているからだ。
軽自動車を買うといえば、多くの人は室内の広さなどの実用性を考えて車種を絞り込んでいくだろう。
しかし、S660は狭いし、2人しか乗れず、荷物を積む場所だってほとんどない。実用性からアプローチすればいいところはまったく見当たらないクルマだ。
でもそれでいい。むしろ、それだからいい。
S660は実用車ではなくピュアスポーツカーだからだ。それを買うということは、軽自動車を買うということではない。スポーツカーを買うということなのだ。
そんなS660はいま、クルマ好きならば絶対に買いたいクルマである。世界中のクルマと比べても、S660しか持っていない魅力が詰まっているからだ。
S660は「本格スポーツカー」
まず、本格スポーツカーであること。
車体サイズこそ全長3395mm×全幅1475mmと小さいが、2シーターのミドシップというパッケージングはスポーツカーの直球である。
駆動方式は、もちろん後輪駆動だ。運転席におさまると着座位置は低く、運転姿勢から座って真っすぐ足を延ばした先にあるペダルレイアウトまで走りを楽しむことを最優先で車体が設計された、純粋なスポーツカーだということが伝わってくる。
小さくて軽いことをスポーツカーの美学と考えれば、新車で買える量産スポーツカーのなかでは世界最小の車体といえることが、S660の大きな価値だ。
ホンダ初の4輪車は軽トラックの「T360」だが、乗用車の歴史は2か月遅れて発売されたスポーツカーの「S500」から始まった。
S660というスポーツを意味する「S」に排気量の数字を加えた車名からもわかるよう、S660にはホンダのスポーツカーの血筋が、あつい想いとともにしっかりと受け継がれているのだ。
当然ながら、ミドシップレイアウトのシャシーは専用設計されたもの。
いま、プラットフォームは複数のクルマで共用化して開発費用を抑えるのが常識である。そんな常識に反し、量産車とはいえ、そう多くの販売が見込めるわけではないS660(6年間での販売台数は3万台ほど)に対して専用プラットフォームを与えるとはなんと贅沢なことだろうか。
マニュアルギアボックスは専用設計(その後Nシリーズにも展開している)。エンジンは1つ前の世代のNシリーズと共通だが、走りのために専用のターボチャージャーを組みあわせてレスポンスアップや高回転対応と同時に軽量化もおこなっている。加えて音にもこだわっている。
さらにいえば、インテリアではインパネなどはもちろん、一般的には他車と強要されがちなシート骨格やステアリングもS660だけの専用設計。
シートは軽自動車という「しばり」にとらわれない大きさで、ステアリングは直径350mmでホンダ車最小を誇る。
車体こそ小さいものの、シャシーからインテリアまで走りを楽しむ環境作りに対しての妥協は一切ないのだ。
そこには、とにもかくにも手間とコストがかかっている。なんという贅沢な作りなのだろうか。
世に送り出されたことが奇跡
一方で、そのあまりにも「贅沢すぎるつくり」を客観的にみれば、S660を世に送り出す判断をしたホンダは狂っているとしか思えない。
コストを計算して冷静な判断をすれば、こういったクルマにゴー・サインは出せないだろう。
でも、それをやってしまうのがホンダの素晴らしさだと思う。効率よりも何よりも、世の中のスポーツカーに喜んでもらえる作品を作ることを選んだのだ。
S660開発のきっかけは本田技術研究所設立50周年を記念して社内で募集した「新商品企画提案」で1位に選ばれたことだが、その時、社内でのベクトルが重なった結果、奇跡的に世に送り出されたスポーツカーといっていいだろう。
ゆえに、フルモデルチェンジは難しいと思われる。
今は開発がスタートした2011年頃に比べ、自動車の商品企画においてさらなる効率化が声高に叫ばれている。加えて、脱炭素という流れからクルマ社会が電動化へ向けて大きく舵を切ったことでそちらへエンジニアのリソースが大きく割かれつつある。
そんな状況を鑑みると、ホンダのような量産メーカーからは、こういう贅沢なクルマが2度と登場しない可能性も高い。
贅沢といえば、S660は作りだけでなく存在自体も贅沢だ。
乗用車とスポーツカーの違いは「どこまで実用性を求めているか」にあると考えているが、S660には荷物スペースがない。はっきりいって「使えないクルマ」である。
でもそれでいいのだ。走りを楽しむために生まれてきたクルマなのだから。
そんな使えないクルマを所有すること自体が、贅沢な行為なのである。
「走り」の気軽な楽しさ、随一
走りは、もちろん期待を裏切らない。
830kg(MT車)という軽さとミドシップレイアウトが生み出すハンドリングにはドライビングプレジャーが詰まっている。
ただし、ハイパワーや絶対的な速さを誇るコーナリングといったハイレベルな性能をおそるおそる楽しむ楽しさとは一線を画する。
気軽に爽快感を楽しめる性能なのだ。それがまたいい。
小さい車体だから車幅感覚がつかみやすく、車幅が肩幅くらいに感じられる。そして軽さゆえに動きは軽快そのもの。まるでバイクのような身軽さが楽しいのだ。
スッと切り込むハンドリングは普通にゆっくりと交差点を曲がるだけでも楽しめるが、タイトな峠道を走る時の爽快感は格別だ。それこそがS660の醍醐味である。
適度なパワーもいい。
ちょっと足りないくらいの過剰過ぎない加速力だから気軽にエンジンをぶん回せるし、何より運転しているとパワーを使い切るよろこびがある。排気量125ccくらいのバイクに乗っているかのような、ちょうどいいパワー感なのだ。
生産終了、買うなら今しか
そんな贅沢なS660ながら価格は手が届きやすいのだからありがたい。
たとえば同じホンダの軽自動車である「Nワン」のスポーツグレード「RS」の価格は199万9800円。S660は203万1700円から選べる(上級グレード「α」は232万1000円)。
先進安全機能など装備が異なるから単純比較はできないのだが、専用プラットフォームの少量生産スポーツカーがこの価格で買えるのはバーゲンとしかいいようがない。
残価率が高いので、5年間の残価設定ローンを組めば頭金やボーナス払いなしでも月々3万円ほどの支払いで「α」を所有できるほど。
専用の車体設計を施した本格スポーツカーをその金額で楽しめるなんて、世界中をみても日本くらいだろう。
ところで、ニュースが入ってきた。
2022年3月をもってS660は生産を終了するというのだ。
S660は原稿執筆時点でも仕様によっては5か月ほどの納期がかかる。すなわち新車を買う決断のために残された時間はそう多くないのだ。
買わないと後悔する。何を隠そう、誰よりもそう強く感じているのは筆者自身である。
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みんなのコメント
重すぎだろう。アルトワークスは670㌔。