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開発者インタビュー まずはハイブリッド化の効果が大きな車種から「ダイハツロッキー・ハイブリッド」編

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開発者インタビュー まずはハイブリッド化の効果が大きな車種から「ダイハツロッキー・ハイブリッド」編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第27回は使いやすいサイズとお手頃な価格で人気のダイハツロッキー(大ヒットとなったトヨタライズの姉妹車)に追加されたハイブリッドモデルです。トヨタのハイブリッドと異なる安価なシステムは軽自動車への転用の可能性も話題となっています。お話を伺ったのはダイハツ工業株式会社 新興国小型車カンパニー本部 ECC製品企画部(兼務)技術統括本部 製品企画部 E・C・E(エグゼクティブチーフエンジニア)の仲保 俊弘(なかほ・としひろ)さんです。

開発は5~6年前から、軽自動車よりもコンパクトカーの方がハイブリッドの効果が大きい

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島崎:とにかくロッキーはコンパクトなSUVという、最初から超売れ筋として誕生したクルマですよね。

仲保さん:ありがとうございます。

島崎:“e-SMART HYBRID”は当初からあった計画だったのですか?

仲保さん:弊社は5~6年前からDNGAということでプラットフォーム、ユニットの刷新をやってきましたが、開発がスタートした時点から、ハイブリッドはやらないといけないだろう……というのはありました。

島崎:やはりそうですよね。

仲保さん:一括企画と我々は呼んでいますが、その中で計画はありました。

島崎:2年前のロッキーが出た時の試乗会では、タイヤのサイズ違いでの乗り味の差の話などをしきりに伺っていて、すっかりお聞きそびれていましたが、あの時には、すでにハイブリッドの開発は佳境だったのでしょうね。

仲保さん:開発の最中だったと思います。大きな時代背景で言えば、ハイブリッドはやらねばならない。じゃあ、どのクルマでどういう風に構えていくか。そうした時に弊社のラインナップで、ハイブリッドの燃費、もっといえばCO2の削減にどのクルマが効果的か?と考えました。燃費やLCA(=ライフ・サイクル・アセスメント)でも軽自動車はもともと優等生です。それよりもAセグメントの少し大きなクルマにハイブリッドを適用したほうが大きく貢献する。しかも、かけ算になりますが台数で考えると、効果の大きいところから初めてのハイブリッドを始めよう……ということで、ロッキーということに決まった経緯があります。

軽自動車にも転用しやすいハイブリッドシステム

島崎:Aセグであれば軽自動車よりもコストの条件も少しは楽になる?

仲保さん:コストが厳しいことには変わりないですが、軽自動車で同じことをやろうとすると、もっとハードルが高くなります。

島崎:なるほど。今回のロッキーのシステムは、軽自動車への展開も想定したシステムという訳ではなくて?

仲保さん:シリーズハイブリッドは、発電と駆動を分けて、役割を明確にしたシンプルなシステムです。なのでいろいろな面で転用しやすい。弊社の取り扱い車種の質量、走行抵抗で考えても、何とかこのシステムで成立するのではないか、とは思っています。

島崎:軽自動車への展開に肯定的なお答えと受け止めました。

仲保さん:えーと、あのー(笑)。展開していくにあたって最初は燃費など効果の大きいところからですが、技術の応用がしやすいということでいえば、軽自動車に転用しやすいというのは念頭にありました。パラレルでいくか、マイルドでいくか、あるいはロッキーと同じシリーズハイブリッドでいくか、いろいろ考えて、経営陣が判断してゴーサインが出されることになります。

島崎:今回のシステムは、たとえばトヨタのハイブリッドとはシステムが違いますが、活用、転用はお考えにならなかった?

仲保さん:部品の一部はトヨタ自動車と共用しています。モータージェネレーターの中身、ソフトウェアは違いますがPCUなどは使わせていただいています。どの部品を共用するか、新設するかは、1点1点、お金とメリットをみながら決めてきました。

島崎:もちろん電動化も視野に入れる必要があるでしょうし。

仲保さん:ここ1、2年、カーボンニュートラルが持ち上げられている。世界各国の規制、世の中の動向を考えれば、電動化はやらねばならないことだと思います。

島崎:ロッキーはグローバル展開ですよね?

仲保さん:はい、45ヵ国くらい。生産場所も日本、インドネシア、マレーシアの3ヵ国。ただしハイブリッドはまだ海外展開はしていません。1.2Lの新エンジンはすでにインドネシアでは立ち上げています。

島崎:世界のベーシックカーということですね。

「エンジンがかかる」のは燃費のため

島崎:エンジンはどういう制御になっているのですか?エンジンが始動し、さらにアクセルを踏み込んでいくと、動力源ではないエンジンの回転も上がるので、「ん!?」と思う人も多そうですね。

仲保さん:エンジンは発電専用で、クルマはあくまでモーターで駆動しています。しかしアクセルを踏むとエンジン回転も上がっていくので「ん!?」と思わるかもしれません。

島崎:そうですね。

仲保さん:少し長くなりますがお話ししますと、そもそもバッテリーの容量ですが、我々は“燃費”で決めています。セル数を増やせばEV走行が多くなり燃費も上がってはいくものの、直線的ではなくサチュレートするところがあり、質量1t程度の我々のロッキーの場合は48セルあたりがそのポイントでした。で、48セルで燃費をよくするために、エンジン制御マップ上の燃費のいい領域ではできるだけエンジンをたくさん使うような思想のハイブリッドにしました。

島崎:燃費のいい領域でエンジンを使う?

仲保さん:ええ。そうやって作り込むと、実際の走行状態では、結果的にエンジンがかかる頻度が多くなる。アクセルがグッと踏まれて電池使用量が多くなれば充電を行う。

島崎:だからエンジンがかかる?

仲保さん:はい。EV走行に徹すればいいのか、いいバランスのところでエンジンを動かしたほうがいいのか判断しながらやりますが、他車に較べて、エンジンの作動頻度は多いと思っています。日産ノートなどと較べると、セル数は我々のほうが3~4割少ない状態で、いかに燃費を稼ぐかを考えました。

アクセルを踏めばエンジン回転が上がるのは感性に合っている

写真:ダイハツ

島崎:走行中にさらに加速させようとアクセルを踏み込むと、あたかもエンジンがアクセル操作に同調しているかのように感じます。

仲保さん:アクセルを踏み込むと電池側の充電を増やさなければいけないので、結構、アクセルを踏み込んでいくとエンジン回転が上がっていきます。

島崎:エンジンの作動状況でいうと、普通のガソリン車のようなエンジンの回っている感がありますね。

仲保さん:満充電に近ければ、ゆっくりとアクセルを踏んでいき30~40km/h位で定常走行すると、かなりの距離のEV走行ができます。アクセル開度次第で、エンジンのオン/オフと回転数が決まってきます。アクセルを踏み込めばエンジン回転が上がっていくのは、結果的に人の感性に合っているところがあるからだと思います。

島崎:アクセル操作に対していかにもリニアにエンジン回転が上がっているようにも聞こえるので、人によっては「ガソリン車なの?」と思うかもしれませんね。

仲保さん:我々がハイブリッドをやる目的で一番大きいのは、とにかくCO2を削減することでした。とすればやはり燃費を最大にしたい。“電動感”はワンペダルのエンジンブレーキで味わっていただきたいと考えています。燃費に貢献する回生ブレーキもできるだけたくさんやりたいですし。

島崎:TVのテロップのように、どこかに“ただ今エンジンはかかっていますが、発電中で、あくまでEV走行しています”と表示を出したりすれば、同乗者も納得してくれるかもしれませんね。

仲保さん:現状でも、画面の切り替えで、エネルギーフローの矢印を表示で見ることはできます。

島崎:そうですね。

仲保さん:我々の特徴なのですが、エンジンで発電した電気をダイレクトに駆動用モーターに伝えています。一旦バッテリーに貯めると効率が悪くなりますから。少しでも電気ロスを減らすためにエンジンがリニアに反応しやすいのは、そういうところにも理由があります。

EV走行時の静粛性が高いがゆえにエンジンがかかった時との落差が大きい

島崎:その点はユニークですね。ところでe-SMART HYBRID搭載車の車重は90kgくらい重くなっているそうですが、足回りは何か対策されているのですか?

仲保さん:バネとアブソーバーを変えています。それとホイールの締結点数を4点から5点にしています。EPSのチューニングもやり直しています。

島崎:車重が増えて、クルマの運動性に影響はないですか?

仲保さん:車重に合ったセッティングにはしています。それとリアのシート下、アクスルセンターに近いところにバッテリーを積んでいるため、前後の重量配分がいい方向になり、それと実は重心高も20mmくらい下がりました。結果として安定性が増して、ベース車以上のドッシリ感が得られました。

島崎:2年前、最初のクルマに袖ケ浦で乗った時には、ヒラヒラと走る印象でした。確かに違いは実感しますね。

仲保さん:我々もヒョコヒョコとかポンポン跳ねるとか表現しますが、そのあたりもレベルアップしたかなと思います。バッテリーの搭載で側突対応の補強も入れましたから、ボディ剛性にも効いているはずです。

島崎:騒音への手当てもされているのですね。

仲保さん:EV走行時の静粛性はかなり感じていただけると思います。一方でエンジンがかかった時との落差が大きいかなとは感じています。EV走行時のノイズが低過ぎる故なのですが、もう少しバランスをとって、1段、2段レベルアップさせたクルマができるかなとは思っています。

島崎:どうすればよいのでしょう。

仲保さん:エンジン始動のタイミングは加速したい時、充電したい時で、今はできるだけ早くやっている。しかしまだバッテリー側の容量がゼロではなく余裕を持たせているので、立ち上げをコンマ5秒とかの間で少しなだらかにするとか、必ずしも遮音にお金をかけるとかではなく、制御で全体のバランスどりをする余地はまだ十分にあるとは思っています。

島崎:モノを増やすのではなく、ご担当の方の残業時間を少し増やして、と。

仲保さん:ははは。やはりモノをアドオンしてやるのはダイハツらしくないので、いかにお金をかけない対策を生み出していくか、です。

楽しみながらエコ競争をしてほしい

島崎:充電する、しないをドライバーが任意で切り替えられるような方法はどうですか?

仲保さん:それは考えていません。もっと安全率をとって、バッテリーが空にならないようにしておかなければなりませんから。アクセル開度や加速度を見て判別ロジックを少し緩めたりする、そんなロジックを組んでみていろいろ確認しながら……というのはあり得るかもしれませんが。

島崎:仲保さんお勧めの、ロッキー・ハイブリッドの運転の仕方、コツはありますか?

仲保さん:“エコ競争”ですね。走行していると燃費が出てきますが、やはりアクセル操作でかなり変わります。そこでたとえば街中で「きょうは30km/Lが出た、きょうは時間が短くて25km/Lだった」とか、表示をみながらご体感いただけるので、そうやって楽しみながら運転していただければいいと思います。

島崎:表示で褒めてくれるクルマもありますね。

仲保さん:ビッグデータの時代ですので、データの提出が承認されればそれを応用して、“あなたはきょうの全国のロッキーユーザーの中で何番目でした”と出せたら面白いなぁと思います。

島崎:チコちゃんとタイアップして、燃費が落ちたら叱られたりしてもいいかも、ですね。

仲保さん:CO2削減はもちろんメーカー側の努力ですが、環境に対してユーザーの皆さんの意識も高まってきていますので、「こういう運転をしたらCO2削減に貢献できるんだ」とわかり、時代の進化らしい比較値だと思いますね。

島崎:あなたはきょうはため息をつかなかったので、CO2何gの削減に貢献しました、とか。

仲保さん:あははは。自分でコメントが書けるのもいいですよね。コネクテッドをもっと活用してお客様が一緒に楽しめるようなことができてもいいですね。

軽自動車はもともとかなり優等生なので、ハードルは高い

島崎:しつこくて申し訳ありませんが、ロッキーもですが、ダイハツの軽自動車の今後はどんな方向性なのでしょう?

仲保さん:もともとシリーズハイブリッドを選択したときに、どのクルマからやっていくか?が社内で大きな議論になりました。もともと軽自動車は、LCAの観点で見てもCO2の総排出量はかなり少なく優等生です。その点でAセグメントのほうが軽に較べるとCO2は多く、ハイブリッド化したときのベース車に対する効果が大きく、販売台数を掛けて決まるトータルのCO2排出量も決まる。そう考えるとやはりAセグメントのロッキーから始めよう、と。では軽自動車はどうするかというと、シリーズハイブリッドは駆動と充電を完全に分離しているので、シンプルでわかりやすい。このシステムは我々が目指す軽自動車の値段との相性もいい。バッテリーの容量をもっと少なくすることも考えられる。方式、時期までは申し上げられませんが、かなりの研究開発はやっていまして、役員レベルからも「いつまでやっているんだ」と激励の(笑)言葉をもらっているところです。

島崎:だいぶイメージが湧いてきました。

仲保さん:繰り返しになりますが、軽自動車はもともとかなり優等生なので、ハードルは高いです。開発の立場から言うと、どれだけ燃費が上げられたかはパーセンテージではなく絶対値で見てほしいという思いがあります。

島崎:大きなクルマで10km/Lが15km/Lにすれば50%良くなったことになるけれど、仮に28km/Lのロッキーを30km/Lにしたら、率は小さくとも、もともとの燃費の数字は遥かに上をいっているのだ、と。

仲保さん:ええ、そういうことです。それと仮に軽の枠の中に収めようとするとスペースの問題もありますし、もちろんお金は、ロッキーよりさらにシビアになる。とにかくハードルはたくさんあり、厳しい状態ではあります。

島崎:でも、そこを何とかしてくださるのが仲保さんとエンジニアの皆さんのお力ということですね。

仲保さん:日々、頑張っておりますので。

島崎:いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2021年12月時点の情報で制作しています。

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