今でこそ軽自動車マーケットにホンダ、日産が本格参入しているが、ダイハツとスズキは軽自動車のトップメーカー争いを長きにわたり展開している。
そのライバル潰しの戦略というのは、あるものは大人げないまでに露骨だったり、ダイハツ、スズキ両社以外は気にも留めないレベルのモノまで数多く存在してきた。
N-BOX タント スペーシア 軽自動車販売台数トップ10の「推せるところ」と「考え込んでしまうところ」
最も新しいところでは、スズキハスラーの対抗馬として、ダイハツはブランニュー軽SUVのタフトを2020年6月から販売を開始した。
本企画では、ダイハツとスズキのいろいろな戦いの中から、2011年の初代ダイハツミライースのデビューに端を発した、度を超えた燃費競争について見ていく。
10.15モード燃費やJC08モード燃費を0.1km/L単位でしのぎを削っていたあの燃費競争はいったい何だったのか? 何か意味があったのか? 後に何かをもたらしたのか? などについて片岡英明氏が考察する。
文:片岡英明/写真:DAIHATSU、SUZUKI
【画像ギャラリー】2020年も熾烈な軽自動車トップメーカー争いを展開中!! ダイハツとスズキの徹底抗戦の歴史
2011年ミライースのデビューで火ぶたを切った
2011年に第3のエコカーというキャッチフレーズで登場したミライース。シートの軽量化、さまざまなフリクション低下など燃費スペシャルとして開発された
ベーシックに徹した軽自動車の代表が、スズキのアルトとダイハツのミラだ。両車は同じ時期に誕生し、40年以上にわたって販売台数と燃費を競っている。
熾烈な販売合戦は21世紀になっても続いたが、ここ10年ほどは燃費合戦と先進安全技術に明け暮れるようになった。その引き金を引いたのが2011年9月に鮮烈なデビューを飾ったミライースだ。
7代目ミラより経済性に振った軽自動車で、「第3のエコカー」のキャッチフレーズで登場した。ミラ一族ではあるが、エクステリアは専用デザインを採用している。
ミライースは消費電力を少なくするために当時では高価だったLEDリアコンビランプを採用。燃費に有利なことはどん欲に取り組んだ
最大の特徴は、イーステクノロジーを使って燃費性能を一気に高めたことだ。ハイブリッドシステムに頼らずに燃費を引き上げ、地球温暖化の元凶となっているCO2(二酸化炭素)を大幅に減らしたのである。
JC08モード燃費はライバルを大きく引き離す30.0km/Lを達成した。
突出した低燃費を実現するために3気筒エンジンと無段変速機のCVTの高効率化を図り、ボディの軽量化とエネルギーマネージメントも徹底している。
エンジンはムーヴなどと同じKF型3気筒を受け継ぐが、圧縮比を11.3まで高め、ボディもアルトより30kgほど軽い。
また、アイドリングストップ機構もブレーキングして車速が7km/hを下回った時点でエンジンを止め、燃費を稼ぐ。バッテリーも減速エネルギーを効率よく回生できるように新型バッテリーを開発している。
新開発の直4エンジンは、イーステクノロジーがふんだんに投入された。イースで培われた技術が、ダイハツの軽自動車の燃費性能の底上げに貢献している
既存のアルトをベースに燃費スペシャルのアルトエコでイースを凌駕
ちなみに最大のライバルであるアルトは、誕生から30年の節目となる2009年の年末にモデルチェンジし、7代目になっていた。
10.15モード燃費はFF車で24.5km/Lをマークする。だが、ミライースの10.15モード燃費は32.0km/Lだから、その差は歴然だ。
当然、ミライースは発売されるやバカ売れする。月販7000台の計画だったが、あっさりとクリアし、難なく1万台の大台を超えた。
アルトエコは改良型エンジンの出来もさることながら、燃料タンク容量を20Lとするなど徹底した軽量化も超燃費達成の無視できないポイント
このままじゃ軽自動車のパイオニアを自負し、ベーシックミニを得意とするスズキのメンツは丸つぶれである。
そこで2カ月後の11月に低燃費シリーズをアルトECOの名で送り込んだ。K6A型に代えて最新のR06A型エンジンを積み、アイドリングストップシステムは9km/h以下で自動停止する。
また、新しいスターターモーターを採用し、省電力化のためにリアコンビネーションランプとハイマウントストップランプをLED化した。
アルトエコはガソリンタンクを20Lの容量にとどめ、軽量化にも励んでいる。
スズキのエンジニアの低燃費にかける執念は結実し、JC08モード燃費30.2km/Lを達成した。
ホンダのように目立たないが、スズキのエンジン技術の凄さには恐れ入る。新開発エンジンに改良型エンジンで対抗して凌駕させたのは凄いこと
その後も燃費の記録更新に燃え、2013年2月に送り出した改良型ではエネチャージや新しいアイドリングストップ機構を採用。タイヤも超高圧の専用タイプとしている。
この結果、JC08モード燃費は33.0km/Lまで向上した。ここで終わりじゃないのがスズキの凄いところだ。11月には圧縮比をさらに上げ、35.0km/Lという驚異的な低燃費を実現している。
新しさが魅力のイース、意地のアルト
それでも基本設計が新しく、デザインのまとまりのいいミライースの優位は揺るがなかった。ミライースの魅力は実用燃費がいいことに加え、安全装備も充実していることだ。
30km/h以下で作動する衝突回避支援システムのスマートアシストを筆頭に、横滑り防止装置も用意した。快適装備もそれなりに揃っているなど、コストパフォーマンスは群を抜いて高い。
完全新設計のミライースに対し、すでにあるモデルに燃費技術を投入して高燃費をマークしたアルトエコ。スタンスは違うが、相手に負けたくない強い思いは同じ
ライバルのアルトは、軽快なハンドリングとフットワークのよさが魅力だ。アルトエコはエネチャージや専用オイルなどを使って良好な燃費という魅力を加えている。
が、安っぽさは否めなかったし、安全装備でも差をつけられていた。
とはいえ、アルトエコを投入して以降、アルトの販売台数は大きく伸びている。改良モデルを出した後は、アルトエコを指名するスズキファンも増えてきた。
熾烈な燃費競争は軽自動車の新しい時代の到来の象徴
ミライースとアルトエコの燃費競争は、軽自動車が新しい時代になったことを表している。
それまで以上に経済性にこだわるようになったが、安かろう悪かろうではない。最新技術を駆使して燃費を向上させただけでなく、軽量化技術や先進安全技術も磨き、次のステージに上がっていった。
だから上級の1Lクラスのマーチやパッソ/ブーン、スプラッシュは影の薄い存在となり、販売は落ち込んでいる。
現在は燃費、安全性能ともよくて当たり前というメーカーにとっては厳しい時代になっているが、その軽自動車の進化の礎となったのがミライース&アルトエコだ
軽自動車の基本性能の向上に大きな影響を与えた
また、ミライースとアルトエコの躍進は、軽自動車の原点回帰も促した。
ホンダもハイトワゴンより背の低いN-ONEを投入。燃費向上にも力を注いだが、かなわないと見て途中からはカタログ数値の燃費ではなく実用性能を向上させることに力を入れるようになった。
ダイハツとスズキの燃費への強いこだわりが、ハンドリングやブレーキング性能に大きな影響を与えていることは明白だ。
2017年5月にフルモデルチェンジを受け2代目となったイース。燃費性能追求だけでなく、質感の向上、安全装備の充実に主眼が置かれた
2014年12月にフルモデルチェンジして安っぽさは払拭されたアルト。2020年末に新型が登場すると予想しているが、どのような進化をしているのか楽しみ
転がり抵抗を追求したタイヤは、雨の日にスリリングだった。そこで第2世代からは、燃費だけでなくハンドリングや危険回避性能など、クルマに必要な基本性能を高めることにも目を向けている。
燃費テクノロジーを積極的に採用してベーシックミニは新しい魅力を手に入れた。
その第2世代は自慢の低燃費と低価格に加え、軽やかなハンドリングと安全など、プラスアルファの魅力も取り込んでいる。
ダイエットして軽量化しているが、安心感のある走りを披露し、ロングドライブもそつなくこなす。初代ミライースとアルトエコが果たした役割はとても大きい。
現在ダイハツとスズキの最新のライバル対決。2020年6月にスズキハスラーの対抗馬としてタフトを発売開始。デビュー1カ月で約1万8000台を受注し上々のスタート
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