2022年1月7日、通算6代目となるホンダの新型ステップワゴンが、ついにベールを脱いだ。価格やグレード体系など、その詳細は未公表であるものの、今春発売予定であることもアナウンスされている。
いっぽう1月13日には競合するトヨタの新型ノア・ヴォクシーも発表となった。かつて大ヒットを飛ばしながら、現在はノア・ヴォクシーにNo.1の座を譲っているステップワゴンは再びトップの座に返り咲けるのか? 実車の取材を踏まえ、渡辺陽一郎氏が解説。
発売即大ヒット確定の新型ヴォクシー/ノア【ガチで欲しい人向け企画】納期「不明」で見積もり総額480万円!!
文/渡辺陽一郎、写真/HONDA、ベストカー編集部
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■「原点回帰」を目指す新型ステップワゴン
新型ステップワゴンの概要は、別項でお知らせした通りで、いわゆる正常進化版だ。今のホンダ車の流れに沿った視界の改善は注目されるが、特に目立つ特徴はない。安全装備の充実、オットマンを備える2列目シートなども、ほかのミニバンを含めて当然に考えられる改善だ。
そして先代型は、リアゲートに横開き式ドアを内蔵させ、狭い場所での開閉を可能にしていた。3列目シートの左側を床下に格納すると、乗員がボディの後部から乗り降りできた。この便利な機能を新型は廃止している。理由を開発者に尋ねると「メーカーが提案した機能で、お客様の人気を得られなかった。その代わり新型では電動開閉機能を採用する」と返答された。
しかしユーザーの想像を超えた提案型の機能や装備こそ、ホンダ車の魅力だろう。隙のない正常進化型の商品開発は、トヨタが最も得意としており、2022年1月13日には新型ヴォクシー&ノアも発表される。
新型ステップワゴンが新型ヴォクシー&ノアに負けず売れ行きを伸ばすには、セレナを含めたライバル車では得られない、ユーザーのニーズに沿った独自の魅力が必要だ。
横開きのドアは撤廃。代わりに電動テールゲートや安全装備の充実、2列目シートにオットマンを装着した
新型ステップワゴンの報道説明会では、開発者から次の話も聞かれた。
「2代目ステップワゴンの中古車を買ってきて、改めて使ってみた。視界の良さなど、感心するところもあった。新型ステップワゴンには、初代と2代目に対するオマージュも含まれている」
要は原点回帰で、フェアレディZの外観にも同じような意図がある。初代ステップワゴンの発売は1996年だから、当時6歳だった子供は、2022年には32歳になる。幼い頃にステップワゴンに乗った経験のあるユーザーにとって、新型が初代や2代目を意識してデザインされると、懐かしい気持ちになることもあるだろう。
このあたりが新型ステップワゴンの魅力だ。現時点で新型ステップワゴンのすべての情報が明されたわけではないが、わかっている範囲では、新しい機能は乏しい。そこを補う新しい魅力が、懐かしさの感じられる優しいデザインというわけだ。
前述のクルマ酔いを防ぐ工夫も、子供などの同乗者に向けた優しさで、購入してから気付くことでもある。もともとステップワゴンは、低床設計による優れた乗降性など乗員への配慮が厚く、歴代モデルもそこを進化させてきた。開発者が中古車のステップワゴンを改めて使った時も、共感できただろう。
幼いころステップワゴンを乗ったことあるユーザーが懐かしさを感じられる優しいデザインとなっている
■ターゲットは「29%の価値観」
フロントマスクのデザインも、スパーダについては、以前よりも表情が穏やかになった。コンセプトからデザインまで、車両全体の整合性が取れている。デザイナーは「ホンダの通常のデザインは、車両のコンセプトとは別々に進められるが、今回は連携を取りながら作業した」という。
またホンダは、ミニバンの外観に対するユーザーの見方として、興味深いデータを示した。ミニバンを買う人達の理想のデザイン世界観として、存在感の強いオラオラ系が30%、VIP感覚は12%、スタイリッシュも29%とされ、71%が注目を集める外観を好むとしている。
この傾向を踏まえたうえで、新型ステップワゴンは、クリーン、暖かさ、シンプルといった新しいナチュラルな価値観を目指している。71%を差し引いた「29%価値観」だ。初代と2代目に対するオマージュも含め、同乗者に優しいクルマ酔いを生じにくいデザイン、オラオラ系とは違う自然なデザインなどが、ほかのミニバンとは違う新型ステップワゴンのセールスポイントになる。
ただし同様のことは、今までのステップワゴンにも見られた。2015年に発売された従来型も「もっとラクに、もっと優しく」「誰もがゆったりとくつろげるビッグキャビン」という特徴を掲げていた。
新型ステップワゴンは、クリーン、暖かさ、シンプルといった新しいナチュラルな価値観を目指している
そして、従来型の発売時点のフロントマスクは、スパーダも控え目だった。開発者に理由を尋ねると「目立つ外観はほかのミニバンも採用しており、ステップワゴンは個性を重視した」と返答された。
それなのに2017年のマイナーチェンジでは、スパーダにハイブリッドを設定して、外観も目立つ精悍なデザインに改めた。開発者にデザインを変えた理由を尋ねると「売れ行きが伸び悩んだから変更した」と返答された。ステップワゴンの場合、過去を振り返ると、控え目な顔立ちで発売されて、マイナーチェンジで派手に変更するパターンが多い。
優しさが感じられる新型ステップワゴンの世界観は、ミニバンというよりも、ファミリーカーの本質を突いている。昨今の時代背景を考えても、リラックスできて街中が明るい雰囲気になるようなクルマ造りは大切だ。
高い着座位置から周囲を見降ろして、蹴散らして走るような価値観は、今は相容れない。2008年に発売された初代ヴェルファイアのCMコピー、「その高級車は、強い。」といった価値観は、もはや時代遅れだ。
優しさが感じられる新型ステップワゴンの世界観は、ファミリーカーの本質を突いている
その意味で新型ステップワゴンには賛同できるが、世界観とデザインが控え目だから、インパクトも明らかに弱い。前述の通りメカニズムや装備でも目を引く特徴が乏しいから、今までと同じ売り方では、従来型と同様に販売の低迷を招く可能性が高い。
特に2022年には、前述の通りライバル車のヴォクシー&ノアに加えてセレナもフルモデルチェンジされ、ステップワゴンの競争関係は一層厳しくなる。本来ならステップワゴンのフルモデルチェンジは、ライバル車とは時期を変えるべきだった。ここにも今のホンダの国内市場に対する甘さが現われている。
■ヴォクシー・ノアとの比較 未発表の価格はどうあるべき?
この点も踏まえて新型ステップワゴンに求められるのは、ユーザーから共感を得られる売り方だ。新型ステップワゴンの時代に合わせた少し線の細い世界観を、効果的に訴求せねばならない。
ドライバーから2/3列目まで、すべての乗員に与えた優れた視界も、購入しないと分かりにくい。やり方を間違えると「何だか地味なクルマだね」で見過ごされる。敢えて自ら「注目を集める71%ではなく、29%のデザイン」を選んだのだから、苦労を乗り越える必要も生じる。
価格も大切だ。トヨタの販売店では、既にヴォクシー&ノアの価格を明らかにしており、ノア(2WD)の場合、ノーマルエンジンは267万~332万円、ハイブリッドは305万~367万円になる。
この価格帯を考えると、ステップワゴンは機能を充実させても値上げはできない。新型ステップワゴンのエアは、ホンダセンシングに加えて、後方誤発進抑制機能、低速時に運転を支援するトラフィックジャムアシスト、フルLEDヘッドランプ、両側スライドの電動機能などを標準装着する。
ステップワゴンはドライバーから2/3列目まで、すべての乗員に与えた優れた視界を持っている
それでも価格は280万円台(290万円未満)に抑えたい。ノアの標準ボディにノーマルエンジンを組み合わせた中級のGが297万円とされ、エアはこのグレードよりも割安に見せる必要があるからだ。
スパーダはブラインドスポットインフォメーション、パワーテールゲート、2列目キャプテンシートなどを標準装着する。これもノアにエアロパーツを装着したS-Zが332万円になることを考慮すると、320万円程度に抑えたい。
そして、新型ヴォクシー&ノアは、ノーマルエンジンとハイブリッドの価格差をカローラクロスと同じ35万円に抑える。この金額はフィットのノーマルエンジンとe:HEVとの価格差にほぼ等しい。そうなるとステップワゴンも、ノーマルエンジンと比べた時のe:HEVの価格アップを35万円以下に抑える必要が生じる。
ミニバンは出費にシビアなファミリーユーザーが中心だから、価格競争も激しい。ヴォクシー&ノアを徹底的にマークして戦略を立てるべきだ。競争相手が明確なので、都合の良いことも多いだろう。
ミニバンは価格競争も激しいだけに、ステップワゴンの価格が気になるところだ
そして今は国内で販売されるホンダ車の30%以上がN-BOXで占められ、軽自動車は50%以上に達する。そこにフィット、フリード、ヴェゼルを加えると80%を超える。ホンダのブランドイメージが小型化しており、ステップワゴンも売りにくくなっている。
この状態が続くと、ホンダはスズキやダイハツのような「小さなクルマのメーカー」になる。それはユーザーにとっても、ホンダにとっても、幸せな未来ではないだろう。
この状況を変えられるのも、ミドルサイズ以上で最も多く販売される新型ステップワゴンだ。成功を祈る!
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みんなのコメント
じきにメッキで華飾したグレードが登場すると思います