現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「ベントレーに並ぶ」優雅さと速さ エンジンはリンカーンの12気筒 アタランタV12(1)

ここから本文です

「ベントレーに並ぶ」優雅さと速さ エンジンはリンカーンの12気筒 アタランタV12(1)

掲載 1
「ベントレーに並ぶ」優雅さと速さ エンジンはリンカーンの12気筒 アタランタV12(1)

息を呑むほど優雅なスタイリング

今から85年前、クルマ作りを辞めたアタランタ・モーターズ。生産数は26台で、恐らくご存知の読者は極めて限られると思う。それでも、第二次大戦後の実用主義をしのぎ、貴重な一部は現在へ生きながらえている。

【画像】「ベントレーに並ぶ」優雅さと速さ アタランタV12 同時期のクラシックたちと比較 全141枚

AUTOCARでは戦前のクラシックをしばしばご紹介しているが、1937年から1939年に生み出されたアタランタV12の息を呑むようなスタイリングは、比類ないものだろう。同時期のラゴンダやベントレーに並ぶ優雅さと速さを、富裕層へ提供していた。

英国の自動車雑誌、モーター誌が1939年に実施した試乗テストによれば、公道の平坦な区間で達した最高速度は162.5km/h。0-97km/h加速を、12.0秒でこなした。

その記事では、速さだけでなく操縦性も最上級だと記されている。前後のサスペンションは、当時の英国車で唯一だった独立懸架式。小柄なボディを、安定して走らせた。

ロングノーズのスタイリングは、アールデコ・スタイル。フェンダーは魅惑的にカーブを描き、今回ご登場願った例ではクロームメッキ・バンパーが省かれ、とても上品な佇まいにある。

英国の自動車産業は、1920年代後半から深刻な不況に悩まされていた。1931年にベントレーはロールス・ロイスへ買収されるなど、多くの上級ブランドが、厳しい状況へ追い込まれた。

しかし、1930年代後半に状況は好転。楽観的な雰囲気の中、グレートブリテン島南東部に存在したミドルセックス州のガレージで、アタランタは誕生した。

独立懸架式サスを備えた先進的なシャシー

創業者は、自動車産業で経験を積んでいた。アルフレッド・ゴフ氏は、フレイザー・ナッシュ社でエンジンを設計。ダグラス・ハミル氏とエリック・スコット氏は、トラクターの開発に携わったほか、ダンロップやピストン・メーカーで手腕を振るっていた。

事業の資金を提供したのは、ケンブリッジ大学に在籍していた学生のニール・ワトソン氏とピーター・ホワイトヘッド氏。3人の技術者へ、理想的なクルマの開発を託した。

ブランド名になったのは、地元に存在した自動車修理店のアタランタ・ガレージ。経営難に陥り、その名が受け継がれた。アタランタとは、本来はギリシャ神話の女神。優れた運動神経と美貌が特長とされ、自動車ブランドにもピッタリといえた。

アタランタ・モーターズの工場は、ロンドン西部に構えられ、アールデコ調の建物に設備が整えられた。エンジンの性能を図るダイナモメーターが用意され、フレイザー・ナッシュ社から3名のスタッフを引き抜き、1936年に創業が始まった。

驚くのが、開発期間の短さ。先進的な技術を踏まえると、注目に値するだろう。

スチール製チャンネル材を用いた、シャシー設計を主導したのはゴフ。独立懸架式サスペンションはトレーリングアーム式で、軽く高強度なヒドミニウム合金が使用された。コイルスプリングはフロントが垂直に、リアが水平に取り付けられた。

ブレーキは、マグネシウム合金製で16インチのドラム。マスターシリンダーは、ロッキード社製のダブルバレルで、片方が故障しても制動力を担保した。

理想的だったリンカーンのV12エンジン

ボディは、アッシュ材のフレームをアルミ製パネルで包んだもの。コーチビルダーのアボット社が生産を請け負い、2シーターのロードスターとドロップヘッド・クーペ、4シーターのドロップヘッド・クーペにサルーンという、複数のスタイルが用意された。

ところが、最先端のシャシーや美しいボディとは裏腹に、当初のエンジンは望み通りの水準に達していなかった。エンジンメーカーのメドウズ社製4気筒をベースに、ゴフがチューニングを加えたものが設定され、1.5Lは79ps、2.0Lは99psを発揮した。

オーバードライブ付きの3速MTが組まれ、オプションでスーパーチャージャーを搭載できた。シリンダーヘッドも、独自設計のものへ交換されていた。それでも、780ポンドという高い価格に対し、充分な動力性能とはいえなかった。

パワーに不満を抱いたのが、クルマを購入した最初の顧客、ナイジェル・ボーモント・トーマス氏。彼がどこからアイデアを導いたのかは不明ながら、当時英国へ輸入されていたアメリカのリンカーン・ゼファー用V12エンジンが、理想的だと考えたようだ。

フォードのフラットヘッドV8エンジンがベースで、バルブインブロックと呼ばれる、シリンダーと並んで吸排気ポートが配置されるレイアウトが特徴。高さを抑えられ、低いボンネットラインに収めることが可能だった。

驚異的な速さ 開戦で自動車製造に終止符

直列4気筒からの置換には、ホイールベースを約300mm伸ばす必要があった。それでも手直しは最小限で済み、特徴的なロングノーズが誕生した。50:50の理想的な前後重量配分も、偶然的に得られた。

ゴフ自身がアストン マーティンDB2/4用エンジンへ載せ替えた、シャシー番号1006番以降、すべてのアタランタへそのV12エンジンが搭載されている。最高出力は113psへ向上し、その頃としては驚異的な速さの実現に至った。

高性能なアタランタは、必然的にモータースポーツへ巻き込まれていく。英国で開催されていた最高速チャレンジ、1937年のルイス・スピード・トライアルでデビューし、1938年にはル・マン24時間レースへワークス参戦を果たした。リタイアに終わったが。

同時期にワトソンとホワイトヘッドは、フレイザー・ナッシュで実力を発揮した女性ドライバー、ミッジ・ウィルビー氏へ会社の権利を売却。彼女は1939年のスコティッシュ・ラリーとウェールズ・ラリーへアタランタV12で参戦し、見事な勝利を収めた。

短期間で名声を勝ち取っていったアタランタ・モーターズだったが、望まぬ第二次大戦が勃発。多くの企業と同様に、1939年から軍需産業へシフトし、自動車製造には終止符が打たれてしまう。

今回ご登場願ったアタランタV12は2台。4シーターのドロップヘッド・クーペは、シャシー番号がL1010で、2ドア・4シーターのサルーンはL1018。同社のラインナップをバランス良く鑑賞できるペアだ。

この続きは、アタランタV12(2)にて。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

日産「新型スカイライン」発売! 歴代最強「匠“手組み”エンジン」×旧車デザインの「特別仕立て」登場も「次期型」はもう出ない…? 「集大成」完売した現状とは
日産「新型スカイライン」発売! 歴代最強「匠“手組み”エンジン」×旧車デザインの「特別仕立て」登場も「次期型」はもう出ない…? 「集大成」完売した現状とは
くるまのニュース
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
実は大きく違う!? モータースポーツ総合エンターテイナー濱原颯道が開催した「クシタニライダー台湾人スクール」で感じた台湾人ライダーと日本人ライダーの練習環境の違いとは
バイクのニュース
旧車への憧れ、理由の1位は「デザイン」、人気車種は…旧車王が調査
旧車への憧れ、理由の1位は「デザイン」、人気車種は…旧車王が調査
レスポンス
いずれスポーツカー[バブル]は崩壊する!! その時あなたは買う勇気があるか!?
いずれスポーツカー[バブル]は崩壊する!! その時あなたは買う勇気があるか!?
ベストカーWeb
レゴとF1、パートナーシップを締結…2025年からクリエイティブな遊び提案へ
レゴとF1、パートナーシップを締結…2025年からクリエイティブな遊び提案へ
レスポンス
メルセデスが3セッション連続で最速! 終盤の赤旗中断で、アタック未完了のマシン多数……勢力図は不明瞭|F1ラスベガスGPフリー走行3回目
メルセデスが3セッション連続で最速! 終盤の赤旗中断で、アタック未完了のマシン多数……勢力図は不明瞭|F1ラスベガスGPフリー走行3回目
motorsport.com 日本版
ルノーがハイブリッド車に使ったF1直系の技術……って聞くとなんかたぎる! 「ドッグクラッチ」ってそもそも何?
ルノーがハイブリッド車に使ったF1直系の技術……って聞くとなんかたぎる! 「ドッグクラッチ」ってそもそも何?
WEB CARTOP
F1ラスベガスFP3速報|赤旗で消化不良に。ラッセルがトップタイム、RB角田裕毅は16番手
F1ラスベガスFP3速報|赤旗で消化不良に。ラッセルがトップタイム、RB角田裕毅は16番手
motorsport.com 日本版
ホンダ新型「プレリュード」まもなく登場? 22年ぶり復活で噂の「MT」搭載は? 「2ドアクーペ」に反響多数!海外では“テストカー”目撃も!? 予想価格はいくら?
ホンダ新型「プレリュード」まもなく登場? 22年ぶり復活で噂の「MT」搭載は? 「2ドアクーペ」に反響多数!海外では“テストカー”目撃も!? 予想価格はいくら?
くるまのニュース
WRCラリージャパン、SS12キャンセル原因は“無許可の車両によるステージ侵入”とFIA発表
WRCラリージャパン、SS12キャンセル原因は“無許可の車両によるステージ侵入”とFIA発表
motorsport.com 日本版
山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
山脈貫通!「新潟‐福島」結ぶ国道が建設着々 “延長21km・トンネル15本”におよぶ大規模道路いつ開通?
乗りものニュース
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
昭和の名車とワーゲンがぎっしり…茨城県の江戸崎商店街でホコ天イベント
レスポンス
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
ドゥカティ現行車では唯一!? 空冷Lツインを搭載する第2世代スクランブラー「アイコン」の魅力
バイクのニュース
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
ホーナーの言うことは「信用できない」とウォルフ。妻に対するFIAの調査の際に不信感を募らせたことを明かす
AUTOSPORT web
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
バスドライバーを疲れさせる「プルプル運転」とは何か? 自動運転時代の落とし穴! 過剰な安全対策が招く危険とは
Merkmal
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
46台の輸入EVが丸の内に集結!「JAIA カーボンニュートラル促進イベント」リポート
LE VOLANT CARSMEET WEB
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
【プロカメラマン】が大量画像で記録!「腐っていたKLXが終に熟成!四国MSBR撮影後の修理と詰めの改良!」(最終回)  
モーサイ
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
くるまのニュース

みんなのコメント

1件
  • xtr********
    伝え聞くに日本も
    戦前はクルマは輸入車だけで良い
    航空産業にチカラを入れるべきだ!
    との意見で、
    敗戦ごコノザマで
    パクり大衆路線で結局、新興国に突かれ
    ブラック労働で辻褄合わせ。
    さらには国内で安易に販売したいからと、
    意味不明な自動車関連増税で
    結果、自動車離れ。
    自動車に文化を求める人は欧州車
    乗れれば良い。昨今のJDMにしても
    根底は壊れにくい遊びの道具を求める層にフィットしてるだけ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1207.51254.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

248.0568.0万円

中古車を検索
クーペの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1207.51254.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

248.0568.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村