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時代は再び直6へ! F1エンジン開発者が作ったメルセデスの新型直6エンジン・M256【メルセデス・ベンツSクラス S450】

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時代は再び直6へ! F1エンジン開発者が作ったメルセデスの新型直6エンジン・M256【メルセデス・ベンツSクラス S450】

メルセデス・ベンツSクラスに新型直列6気筒ターボエンジンを搭載するS450がラインアップに加わった。このエンジン、メルセデスが20年ぶりに送り出した意欲作なのだ。V6から直6への回帰、というだけでない。48Vシステムや電動コンプレッサーなど最新技術を満載した直6=M256エンジンをS450の試乗で試した。TEXT◎世良耕太(Kota SERA)

メルセデス・ベンツSクラスに「S450」が追加になった。例によって(?)、三ケタの数字はエンジンの排気量を示してはいない。4.5ℓのエンジンを搭載しているわけではなく、自然吸気エンジンにあてはめると4.5ℓ相当のパフォーマンスを発揮するというイメージだ。実際には排気量3.0ℓの直噴ターボエンジンを搭載する。最高出力は270kW(367ps)、最大トルクは500Nmである。

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しかもこのエンジン、新開発だ(本国デビューは2017年)。さらに言うと、直列6気筒である。メルセデス・ベンツが直6を送り出すのは、1997年に生産を中止したM104以来、20年ぶりのことになる。新型の直6はM256と呼ぶ。メルセデス・ベンツはM112、M272、M276と3代続けてV型6気筒ユニットを作り続けてきたが、M276の後継ユニットとしてM256が生まれたというわけだ。メルセデスの6気筒ユニットは順次、直列に切り替えられていく。

直6への回帰だ。全長を直列3気筒並みに抑えられることから、パッケージングの面でV6は歓迎され、主流になった。シリンダーを直列に6本並べるのと、3本を2列で並べるのでは、全長に大きな差が生じるのは考えるまでもないだろう。

だが事情は変わり、直6の方がパッケージングだけでなく、コストや環境、効率の面で好都合になってきたのだ。先代M276・3.0ℓ版のボア径は88mm、隣り合うボア中心間の距離(ボアピッチ)は106mmだった。この仕様のまま直6にすると、1番シリンダーの前端から6番シリンダーの後端までの距離は618mmになる。

一方、M256のボア径は83mm、ボアピッチは90mmだ。シリンダー間の壁の厚さは7mmしかない(M276は18mm)。1番シリンダー前端から6番シリンダー後端までの距離は533mmとなり、M276の仕様を受け継いで設計するより85mm(つまり1気筒分)も短くできる。従来の5気筒分の長さで6気筒が成立してしまうのだ。


エンジン
エンジン形式:直列6気筒DOHCターボ
エンジン型式:M256
排気量:2999cc
ボア×ストローク:83.0×92.0mm
圧縮比:10.5
最高出力:367ps(270kW)/5500-6100rpm
最大トルク:500Nm/1600-4000rpm
カム配置:DOHC
ブロック材:アルミ合金
吸気弁/排気弁:2/2
バルブ駆動方式:ロッカーアーム
燃料噴射方式:筒内燃料直接噴射(DI)
VVT/VVL:In-Ex/×

ボアを小さくし、ストロークを長くとるのは冷却損失を減らすための常套手段で、最新のM256はトレンドに乗った格好。M276のボア×ストロークは88×82.1mmのショートストローク(ボア/ストローク比0.93)だったが、M256のボアストは83×92mm(ボア/ストローク比1.1)のロングストロークになっている。環境/効率志向の高まりが、直6エンジンの復帰をパッケージング面で後押ししたことになる。

隣り合うシリンダー間の壁の厚みが18mmから7mmへと極端に薄くなっているが、これにはNANOSLIDE(ナノスライド)と呼ぶコーティング技術が貢献している。従来はアルミブロックに鋳鉄製シリンダーライナーを鋳込んでいたが、アーク放電による高温で溶かした鋼材をシリンダー壁面に吹きつけるNANOSLIDEを適用することにより、鋳鉄ライナーを鋳込むよりもはるかに薄く、鉄の層を形成することができる。これが、薄さの秘密。しかも、表面はガラスのように平滑になり、摩擦が低減され、耐摩耗性が向上する。


F1エンジンで適用していた技術を転用した格好になるNANOSLIDEは、2006年にAMG向けの6.3ℓ・V8ガソリンエンジンに適用したのを手始めに、ガソリン&ディーゼルのV6、ディーゼルの直4と適用を広げ、M256も採用したというわけだ。最新メルセデス・ベンツ製エンジンのスタンダードな技術となっており、新型Aクラスが搭載する新開発の1.3ℓ・直4ガソリン(M282)にも適用する。


実はS450が搭載するM256およびV型ガソリンエンジンの統括シニアマネージャーを務めるのは、1998年から2006年まで(つまり、マクラーレン・メルセデス時代)F1エンジンの開発に携わったDr.ラルフ・ヴェッラーという技術者だ。「F1エンジンを開発していた人が量産エンジン開発の要職に就いているんだ」と知るだけで、途端にM256を見る目が変わってしまう(個人的に)。

直列6気筒にしたことだけがM256やS450のハイライトではなく、48Vシステムを組み込んだことも見逃せない。パフォーマンスと効率のためだ。S450が搭載する直6エンジンと、その後方にある9速オートマチックトランスミッション(AT)の間に、最高出力16kW、最大トルク250Nmを発生するモーターを搭載している。


このモーターは48Vの電圧で駆動する。既存の12Vシステムで駆動できないこともないが、電圧が低いので効率が悪くなる。といって、本格的なハイブリッドシステムで用いている数百ボルトを選択するとシステムが大がかりになるし、コストがかさむ。得られる効果とコストのバランスをとった最適解が48Vシステムというわけだ。

ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と呼ぶモーターは働き者だ。まず、エンジン始動時はスターターとして機能する。つまり、スターターモーターは搭載していない。エンジン後部に設置したモーターでダイレクトに始動するので、アイドルストップからの再始動は静か(スターター特有のキュルキュル音とは無縁)でスムーズだ。「は? いつ始動した?」というのが実感である。

このISG、アイドル時は振動を抑える役目を果たすため、低い回転を保つことが可能。アイドル回転数はなんと520rpmだ。「あれ? エンジン回ってるの?」というのが実感である(いや、大げさではなく)。

ISGは加速時にはエンジンをアシストする。加えて、電動スーパーチャージャーが働きだす。メルセデス・ベンツS450が搭載する3.0L・直6直噴ターボエンジンは、ターボチャージャーに加え、電動スーパーチャージャー(SC)も搭載しているのだ。種類の異なる過給機を2基搭載していることになる。電動SCも12Vシステムで駆動できないことはないが、やはり48Vの方が力強く、かつ長時間にわたって効率良く使うことができる。


ターボは排気のエネルギーを利用して過給圧を高める仕組みだが、発進時などの低回転域は排気のエネルギーが少ないから、ドライバーから加速要求があってもそれに充分応えることができない。そこで、電動SCを駆動して過給圧を高めてやるのだ。ターボは応答遅れ(ターボラグ)という致命的な欠点を抱えているが、M256はISGと電動SCの2段構えでこの欠点を帳消しにし、ドライバーの加速要求に待ったを掛けることなく、素早く反応してクルマを加速させる。

ISG の働き者ぶりはこれで終わり、ではない。減速時にはエネルギーを回生し、容量1kWhのリチウムイオンバッテリーに蓄える。そのエネルギーを始動時や加速時にISGや電動SCの原資として用いることで、快適な走りと燃費の向上に結びつけているのだ。

S450と聞くと、「あ、S560の下ね」とつい数字でポジショニングを判断しがちだが、アイドルストップからのエンジン再始動がスムーズなことや、アクセルペダルを踏み込むと間髪入れず「加速」を体感させてくれること。さらに強く踏み込めば「さすが、270kWを発生させるだけのことはある」と感じさせる力強くも俊敏なダッシュを披露することなども含めて、数字では表現しきれない洗練された仕立てを感じる。エンジン始動もアイドルも、一定回転でのクルーズも加速も、万事スムーズだ。


メルセデス・ベンツSクラス S450
全長×全幅×全高:5125×1899×1493mm ホイールベース:3035mm
エンジン形式:直列6気筒DOHCターボ エンジン型式:M256 排気量:2999cc ボア×ストローク:83.0×92.0mm 圧縮比:10.5 最高出力:367ps(270kW)/5500-6100rpm 最大トルク:500Nm/1600-4000rpm トランスミッション:9速AT(9G Tronic Plus)

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