スウェーデンの新たな観光名所
観光客を誘致するとき、独自の「ワールド」を持っていて損はない。英バーミンガムにはチョコレート工場のキャドバリーワールドがあり、米フロリダ州オーランドには有名なディズニーワールドがある。ワールドと名のつく観光スポットは世界各地に存在する。
【画像】「北欧美人」の2ドア・スポーツカー【ボルボP1800を写真で見る】 全13枚
これまでスウェーデンのヨーテボリには、素敵な歴史的建造物や博物館、北欧ならではの美しい景観、そして100年以上前のテーマパークもあった。しかし、ワールドはなかった。だが今、まったく新しい観光名所ができている。「ワールド・オブ・ボルボ」だ。
ヨーテボリは1927年以来ボルボの本拠地となっているが、本社は街の中心部から13kmほど離れたトルスランダにある。昨年末まではそこにボルボ・ミュージアムがあった。1999年に乗用車部門(ボルボ・カーズ)がフォードに売却されて以来、ボルボ・グループとは別の組織となっている。
現在、新設されたワールド・オブ・ボルボにて両社の主要モデルが厳選、展示されている。建設には膨大な費用が投じられたとも言われるが、単に歴史を振り返るだけではなく、将来の方向性を見据えた、進化し続けるアトラクションとして構想されている。
ここは「オムタンケ(Omtanke、思いやり)」を提供する出会いの場なのだ。
北欧らしさ満点のアーキテクチャ
「ボルボはヨーテボリにありますが、これまで博物館は別の場所にありました」と、ワールド・オブ・ボルボの責任者であるマグヌス・ヴラーメ氏は言う。
「ボルボというブランドをより多くの人々に知ってもらうため、今回初めて街の中心部に移転しました。その目的は、ブランドが実際にどこへ向かっているのかを味わい、感じ、体験してもらうことです」
ボルボの過去、現在、未来に触れる前に、新しい博物館を少し紹介しよう。建物はヘニング・ラーセン・アーキテクツ社による設計で、広々とした円形のオープンスペースとなっている。スカンジナビア風のコンクリートの床から3本の大木のような支柱が立ち上がり、広大な天蓋を形成している。
エントランスフロアの大きな吹き抜けと5つの展示フロア全体に、大きな窓からさんさんと光が差し込む。すべてが徹底してモダンで、とてもスウェーデン的だ。
ワールド・オブ・ボルボの建物には無料で入ることができ、イベントスペース、1000人以上を収容可能な展示センター、レストランを利用できる。
「歩き回る自由は、スウェーデンの文化にとって本当に重要なものです。わたし達は、ここを活気あるデスティネーション(旅の目的地)にしたいと考えています。パリのエッフェル塔のようにとは言いませんが、ヨーテボリに来たらぜひ訪れていただきたい場所です」
「見る」だけでない体験型施設
とはいえ、展示物の鑑賞にはチケット購入が必要だ。そして、入ってすぐにクルマを見られるわけではなく(展示車両は後述)、一連のインタラクティブな展示から始まる。ご心配なく。思った以上に楽しいものだ。
まず、シートベルトから衝突実験用ダミーまで、ボルボがどのようにして安全システムや技術を開発したかを紹介する展示がある。
特筆すべきは、シートベルトによって命を救われた人々の肖像画の前を、彼らのストーリーを聴きながら歩くコーナーだ。また、ラムダセンサー(O2センサー)の歴史を振り返るコーナーや、バス・シミュレーターで立ち乗りの乗客としてバランス感覚を試すコーナーもある。
別の展示では、脇見運転の危険性を体験するシミュレーターがあり、スピードを出しながら大きなタッチスクリーンでタスクをこなすよう要求してくる。電動ショベルカーでボールプールをかき回したり、風洞を体験したりすることもできる。
あるアート作品では、巨大な曲面スクリーンを使い、来場者の動きに応じてさまざまな形や視覚効果を生み出す。
「ボルボがクルマだけではないことを来場者に伝えたい」とヴラーメ氏は言う。
「ボルボというブランドは人間中心であり、テクノロジーをどのように使えば人々を助けることができるか、ということを紹介しています」
さて、ここからはワールド・オブ・ボルボ・ミュージアムに展示されている車両を一部ピックアップして紹介しよう。
ボルボOV4(1927~1929年)
ボルボ初の自動車。OV4(オープン・キャリッジを意味するOppen Vagnの頭文字と、エンジン気筒数を指す4を組み合わせた名称)の10台のプロトタイプが、ヨーテボリ移転前にストックホルムで生産された。
ショーモデルではリアアクスルのギアの取り付けが誤っていたため、テスト走行で逆走しかできなかった。希望小売価格の高さもあり、消費者はスウェーデンでオープンカーの購入をためらった。ボルボは1940年代まで自動車で利益を上げることはなかった。だからこそボルボ・カーズの歴史は、初めて利益をもたらしたボルボ・グループの商用車を抜きにしては語れないのである。
ボルボLV4(1928~1929年)
プラットフォーム共有の概念はこの時代からすでに存在した。OV4が苦戦したため、ボルボはLV4トラックを生産して多角化を図った。OV4と同じ最高出力28psのエンジンを使用したが、シャシーは強化している。500台の初期生産分は半年で完売し、ボルボの経営を支えた。
ボルボPV36「カリオカ」(1935~1938年)
1930年代まで、ボルボはまだ採算の取れる自動車の作り方を見つけていなかったが、クルマの見栄えを良くすることはできた。PV36は効率性を高める取り組みとして、当時としては急進的な流線型ボディを特徴としている。残念ながら、販売台数はわずか500台。ちなみにカリオカ(Carioca)というニックネームは、リオデジャネイロの住民のニックネームと同じ。なぜスウェーデンの乗用車に付けられたのかはまだ不明だ。
ボルボL248(1939~1954年)
ラウンドノーズ(Roundnose)の名で知られるL248は、米、英、ドイツのトラックからインスピレーションを得たもので、乗用車と大きく異なるボルボ初の本格商用車であった。最高出力99psのディーゼルエンジンを搭載し、大ヒット商品となった。
ボルボ・ホワイトバス(1945年)
現在、ホワイトバスは特別展示コーナーに置かれており、展示車両の中でも特に注目したい1台だ。第二次世界大戦末期、スウェーデン赤十字は敵国の強制収容所に車両隊を派遣し、捕虜を救出してスウェーデンに連れ帰った。このホワイトバスを含む75台の車両が何百回も往復し、1万5000人以上の捕虜を救った。
ボルボ・ペンタ・アクアマチック(1959年~現在)
ボルボ・グループは陸上車両だけでなく、1959年にはボート用エンジンのペンタ・アクアマティックを発表している。船外機の駆動装置と船内機の燃費効率を組み合わせた先駆的な設計で、メカニカルな部分は船内にあるが、プロペラは船外に設置されている。ボートの歴史にとって非常に重要なマシンである。
ボルボPV445デュエット(1953~1960年)
ボルボの乗用車部門の命運は、PV444で一変した。第二次世界大戦末期、より小型で安価な、燃費の良い乗用車として開発された。黒字を出したボルボ初の乗用車であり、そのシャシーはさまざまなモデルに転用されることになる。最も重要なモデルはこのPV445デュエットで、ボルボ初のステーションワゴンである。
ボルボP1800 S(1961年~1972年)
ボルボの名を国際的に広めるために開発されたスポーツカーP1800 Sは、後に芝刈り機やゴルフクラブのデザインを手がけた学生ペレ・ペターソン氏がデザインを担当した。展示車両は1966年に米国人教師アーヴ・ゴードン氏が購入したもので、300万マイル(480万km)以上を走行して2013年に世界記録を樹立した。
ボルボ・エクスペリメンタル・セーフティカー(1972年)
1972年のジュネーブ・モーターショーで発表されたボルボ・エクスペリメンタル・セーフティカー(VESC、実験用安全車)は、エアバッグ、バックカメラ、ABS、衝撃吸収バンパーなど、後に一般的となる安全装備のテストラボであった。視認性を重視したカラーリングを採用し、ボンネットには距離感を掴みやすくするためのライン・ストライプもある。
ボルボ・エレクトリック・プロトタイプ(1976年)
これはEX30の遠い祖先と考えていいだろう。実はこれ、スウェーデンの電話会社Televerketが一部資金を提供したプロジェクトで、排出ガスを出さない郵便配達バンの開発に向けて作られたものだった(4人乗りの乗用車バージョンも開発)。全長はわずか2680mmだが、重量300kgのバッテリーを搭載し、最高出力はわずか13ps。バッテリーの充電に10時間かかり、航続距離は約50kmだった。
ボルボ850(1991~1996年)
ある年代の英国ツーリングカー選手権のファンなら、850 T-5Rを見れば膝を打つことだろう。850は横置き5気筒エンジンで前輪駆動という斬新なコンセプトを採用したモデルだ。開発には記録的な額の費用が投じられたという。
ボルボ・エンバイロメンタル・コンセプトカー(1992年)
新世代のS80を予告するとともに、いくつかの新技術を披露したボルボ・エンバイロメンタル・コンセプトカー(ECC)。アルミニウム製シャシーや、コルクなどリサイクル素材を使用したインテリア、電気モーターとガスタービン発電機を組み合わせたパワートレインなど先進的な設計である。
ボルボ760 GLE(1982~1990年)
1970年代の石油危機で大きな打撃を受けたボルボは、サーブとの合併やノルウェー政府への株式売却さえも検討した。しかし、ボルボは「1155(真夜中まであと5分の意)」というコードネームで新型車の開発に集中。その結果、240よりも軽量で燃費がよい760が誕生した。ボクシーなスタイリングもウケが良く、大ヒットとなった。
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