毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ SAI(2009-2017)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】クラウンHVとプリウスの中間を狙ったが…トヨタ SAIをギャラリーで見る
■プリウスに続くHV専用モデルとして登場したミディアムサイズセダン
サイズ面での立派さや華美な装備類などをいたずらに追求するのではない、「静謐で小さな高級車」を目指して開発されたハイブリッド専用セダン。
しかし「小さな高級車」をヒットさせるのは日本を代表する自動車メーカーといえども難しく、加えて、自社内でのカニバリや「世の中のセダン離れ」という根本的な理由もあって、1代限りで消えていった佳作。
それが、トヨタ SAIです。
SAIは、トヨタブランドとしてはプリウスに続く2車種目のハイブリッド専用モデルとして、2009年12月に発売されたミディアムサイズのセダン。
ひと足早くデビューしたレクサス HS250hとは姉妹車の関係にあたります。
トヨタ SAI(2009)。車名の「SAI」は、開発コンセプトである「才(優れた環境・安全性能を有する才能)」と「彩(上質感あふれる彩り)」を意味する。
姉妹車のレクサスHS250h(2009年7月・日本にて発売開始)。レクサス初のハイブリッド専用車として登場した。3代目プリウスやアベンシス、オーリスなどに採用された「新MCプラットフォーム」が採用されている
車台はレクサスHSと共通の新MCプラットフォームで、当時のトヨタのモデルラインナップのなかでは「クラウンやマークXと、プレミオやカローラアクシオの中間」あるいは「クラウンハイブリッドとプリウスの間を埋めるモデル」というポジショニングでした。
またSAIは、当時すでにカタログ落ちしていた元祖小さな高級車「プログレ」のコンセプトを受け継いだモデルでもありました。
ハイブリッドシステムは当時のプリウスと同じTHSIIですが、プリウスが1.8Lエンジンであったのに対し、SAIは2.4Lの2AZ_FXE型エンジンを採用することでシステム最高出力190psを達成。
それでいて、当時の軽自動車やリッターカーに匹敵する21.0km/L(JC08モード。後期型は22.4km/L)という低燃費を実現させたセダンでもありました。
そんなトヨタ SAIは、当時のプリウスやアクアと同様に「トヨタの全系列で販売する」という破格の扱いを受けてデビューしたのですが、目標販売台数だった3000台/月にはまるで届かず、2012年頃は月販わずか500台ぐらいのレベルで低迷していました。
そのためトヨタは2013年8月、SAIのマイナーチェンジを敢行。
内外装デザインを刷新し、フロントマスクには車両の全幅をほぼカバーする超ワイドサイズなヘッドランプも採用。
トヨタ SAI(2013)。発売直後の2010年2月に起こったブレーキ不良によるリコールも芳しい成績を残せなかった一因かも知れない
さらにはハイブリッド制御を変更してJC08モード燃費を前述のとおり22.4km/Lまで向上させ、吸音材と遮音材の増強や遮音ガラスの採用、エンジンマウントの改良などにより静粛性も大いに向上させました。
そのほかにも「フルモデルチェンジに近い」といえるほどのさまざまな変更を行うことで、その商品力を大きく向上させたSAIでしたが、やはり販売は振るわず。
結果として2017年11月、トヨタ SAIは同年7月に登場した新型カムリに統合される形で生産と販売を終了しました。
■マイナーチェンジ後は販売回復も…SAIが超えられなかったもの
それなりの長期にわたって生産されたトヨタ SAIでしたが、しかし結論としては鳴かず飛ばずの1代限りで廃番となった理由。
それは、「デザインが(特に前期型は)今ひとつだった」「同じトヨタブランド内でそもそも競合する車種が多かった」など、いろいろな理由があるのでしょう。
SAI(2009・前期型)のサイドビュー。全高、室内の居住性も高かったが、それゆえのワンモーションフォルムはセダンとしての評価を厳しいものとした側面もあったのかも知れない
しかし根本的なところを言うのであれば、「世の中のセダン離れ」と「小さな高級車を作って売るのは難しい」という二点に尽きます。
「世の中のセダン離れ」については、今さらくどくど説明するまでもないでしょう。
昭和の時代は「車といえば大小さまざまなセダン!」といった世の中でしたが、平成の世になると、世の中のセダン離れは一気に進みました。
それでも1996年(平成8年)にはセダンのシェアもまだ31%はあったのですが、トヨタ SAIが発売される前年の2008年(平成20年)には12%まで低下しています。
このトレンドのなかにあっては、「結局、SAIが何をやったとしてもダメだっただろう」という悲しい推論も導かれてしまいます。
そして「セダン離れ」という決定的な要因に加えて、「小さな高級車を売るのは難しい」という、昔からずっと続いている要因もあったはずです。
本稿の冒頭で申し上げたとおり、トヨタ SAIは「高級」を担保するものとしてサイズや豪華装備類などをわかりやすく追求するのではなく、「シンプルでさりげないが、実際に使ってみると上質さを感じる」という路線で勝負しました。
しかし、その意図や魅力はユーザーにうまく伝わらず(これは、SAI自身にも責任はあったと思いますが)、多くのユーザーは「この中途半端なサイズのセダンに400万円も出すなら、もっと立派に見えるカムリとか、ブランド的な高級感がわかりやすいレクサス CT200hのほうを買いたい」と判断したのです。
トヨタがSAIの前に挑戦した「小さな高級車」であるプログレも、実にいい車ではありましたが、商売的には決して大成功したモデルではありませんでした。
「小さな高級車」をキャッチコピーとしていたトヨタ プログレ(1998-2007)。
わかりやすいゴージャス感や、いわゆる押し出し感のようなモノに対して積極的にお金を払うユーザーはたくさんいます。だからこそ、トヨタ アルファードもよく売れています。
しかし、「ややわかりにくい高級感=小さな高級車」にそれなり以上のお金を支払わせるのは、あのトヨタですら簡単な仕事ではなかった――ということなのでしょう。
■トヨタ SAI 主要諸元
・全長×全幅×全高:4615mm×1770mm×1495mm
・ホイールベース:2700mm
・車重:1590kg
・パワーユニット:直列4気筒DOHC+モーター、2362cc
・最高出力(エンジン):150ps/6000rpm
・最大トルク(エンジン):19.1kgm/4400rpm
・燃費:19.8km/L(JC08モード)
・価格:426万円(2009年式 G ASパッケージ)
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みんなのコメント
売れるわけがない。コレをベースに作った
レクサスHSもかなり割高。何も考えてない
年寄りが買うのだろう。